日番谷の受難B







「日番谷隊長、今日は甘納豆をもってきたぞ」

その言葉は嬉しかったが、できれば浮竹一人できてほしかったと、日番谷は思った。

浮竹の背後は、京楽がいた。

この二人のせいで、執務室ぶっこわしたことが2回あった。

「聞いてくれないか、日番谷隊長」

「なんだ浮竹」

松本が、耳をぴくぴくさせている。

「松本、盗み聞きしてないで茶でもいれてこい!」

「え〜。たまには隊長がいれてくださいよ」

「お前、上官に向かってそれはないだろ!」

「ああ、お茶なら僕がいれるから」

京楽が、10場隊の執務室の奥にあるお茶のはっぱと急須をとりだしてお湯をいれ、まるで自分の執務室であるかのように動いて、お茶を4人分用意してくれた。

「京楽隊長やさしい。あたし、京楽隊長の副官になろうかしら」

「なりたきゃ勝手になれ」

「ひどい!」

泣き真似をするが、そんなことで騙される日番谷ではない。

「んで。今日はどんな要件なんだ」

「今度、男性死神協会で作る会誌に、のせるネタを聞こうと思って」

「男性死神協会・・・・・・?」

聞きなれないその言葉に首を傾げる。思いだす・・そういえば、女性死神協会はあるのだから、男性死神協会があってもおかしくない。

「俺が理事をしているんだ。あんまり会員はいないが・・・・・ちなみに、会長は射場副隊長だ」

どうでもいい情報だった。

「で、何が聞きてーんだ」

「転生できるとしたら、何をもっていくか!これだ」

「転生したらね・・・・・・俺は、氷輪丸だな」

「えー。もっといいのあるでしょ、隊長」

「松本、そういうお前はなんなんだ」

「あたし?あたしはこの美貌と胸かなぁ」

「お前の人のこととやかくいえねーじゃねぇか。そんなくだらないものもって転生して、何になるっていうんだ」

「あたしのこの美貌と胸があれば、転生した世界でももてもてのはずよ!」

大きなため息をつく日番谷の目の前で、浮竹は紙にかいていく。

「日番谷隊長は氷輪丸で、松本副隊長は美貌と胸・・・と」

「ちょっと、そのノート見せろ!」

日番谷が、浮竹からノートを奪った。

「何々・・・・朽木白夜は「誇り」 阿散井恋次は「力」 砕蜂は「夜一様」 大前田は「金」

雛森は「藍染隊長」 涅マユリ「実験体と実験材料」 吉良は「勇気」 檜佐木は「恋心」

更木は「強さ」 草鹿は「お菓子」 卯ノ花は「回道と慈悲」 山本総隊長は「若さ」 朽木ル

キア「兄様と一護」 黒崎一護は「卍解」」

「な、面白いだろ?」

浮竹は楽しげだが、こんなの知って何になるんだろうと思った。

「浮竹、お前はなんなんだ?」

「俺か?俺は「健康」かな」

その言葉に、京楽が泣き真似をする。

「酷いと思わないかい、日番谷君。僕は「浮竹」なのに、浮竹は僕じゃないんだよ」

「いや、別にいいんじゃないか?個人の自由だろ」

浮竹が健康を選ぶ理由もわかる。あれだけ病で臥せっていては、健康がほしくなるだろう。

「浮竹のばか!おたんこなす!」

「なんだと、京楽のアホ!」

低レベルな次元の会話を続ける二人。

「転生しても僕はいるだろう?」

浮竹の背後から抱き着いて、耳元で囁く。

「俺は健康が・・・」

「そんなこと言わずに、僕を選んでよ?ねぇ?」

「どこ触ってる!ん、やめっ・・・」



「蒼天に座せ、氷輪丸!」



 執務室を氷漬けにして、日番谷は部屋を去って行った。

「くだらねぇ」


氷の龍が、荒れ狂う。

「ひゅう、さすがは日番谷君。天童といわれるだけのことはあるね」

浮竹を抱き上げて、京楽は執務室の屋根の上にいた。

「あっ、ノートがまだ執務室に・・・・・・」

「僕がちゃんと記憶してるから大丈夫」

「それは頼もしい」

「でしょ。僕のこと、選ぶ気になった?」

「さぁ?」

悪戯そうに微笑んで、浮竹は京楽の背中に手を伸ばす。唇が重なった。


「だああああ!蒼天に座せ氷輪丸!」


日番谷の受難は続く。