恋しい押入れ







ガサガサガサ。
ガサガサガサ。
押入れの中でそんな音がした。
勉強をしていた一護は、コンが何か悪さをしているのではないかと、ハリセンを片手に襖をあける。

「おいコン、勉強してるんだから静かにしやがれ!」
スパーン。
出てきた影を叩いた。
「痛い・・・・」
ハリセンではたかれて、うめているのはルキアだった。
「ちょ、なんでお前が俺の部屋の押入れにいるんだ!」
押入れの中は改造され、ランプが揺らめいている。ポテチを食った形跡まで見えた。読書していたであろう読みかけの本が散乱していた。

「恋しいのだ!!」
「何が?」
「押入れが!!」
「はぁ?」
「せっかく一護の家にまた住めると思って、押入れを改造しようと、ソウル・ソサエティからいろいろもってきたのに、妹たちの部屋を宛がわれてしまった。 ベッドはあるが、狭いしそれに」
ルキアは俯く。
「なんだよ」
「この狭さが!!!この狭さが!!!!朽木家にないこの押入れというものの狭さがすばらしいのだ!!お前もそう思わぬか一護! この押入れなるものを開発した者は天才に違いない!」
あっそうですか。
一護はずっこけた。
「毎日押し入れで寝ていたあの頃が懐かしい」
「お前はドラえもんか!」
「ドラえもんか!知っているぞ。確かこう、こう」
スケッチブックを取り出してお得意の絵をかきだした。
潰れた大福饅頭ができあがった。
「なんで耳があるんだよ!しかもうさぎの耳かよ!」
「とにかく、今宵は私はこの押入れで寝る!!」
「あーそーかい。勝手にしやがれ」

一護は、ルキアを放置して勉強を続ける。柚子とかりんが、ルキアがいないと一護の部屋にまで探しにきたけど放っておいた。

パリポリパリポリ。
カサカサカサカサ。
中で何かを食べている音は分かるが、カサカサはなんの音なのか。
構わず勉強を続ける。
カサカサカサカサ。
「あーもう気になって勉強できねぇ!」
ハリセンを片手に、襖をあけると、一護は何もわず閉じた。
冷たく輝く、ルキアの兄、白哉と目があった。

幻覚だ幻覚。かりにもあいつは隊長だろう?またソウル・ソサエティにやってきたとしても、なんで俺の部屋の押入れにいるんだ。 あれは幻覚だ。

スパン!
押入れの戸が開かれて、にょきっと出てきた白哉は、ルキアとトランプに興じていたところを邪魔されて不機嫌であった。
兄専用の携帯、没収しちまおうかな。一護はそんなことを考える。
斬魄刀を片手に、白哉は一護に声をかける。

「兄は・・・昔、ルキアが現世にいた頃、こうして押入れという空間にルキアを済ませ同じ部屋で同棲していたそうだな」
心なしか、氷のように白哉の声が冷たい。
「気のせいです、はい」
斬魄刀をつきつけられて、一護はルキアに兄をなんとかしろと目で訴えるが。

「なんだ、一護も押入れで寝たかったのか!」
ルキアは違う方面に解釈して、パンと手をうった。

違うから!すっごい違うからああ!!

押入れの奥から、ぺちゃんこにされてコンが這い出てきた。
「一護・・・・あとは任せた」
任せたって何を!?
綿がはみ出したコンを白哉は踏みつける。
「このぬいぐるみはこともあろうか、ルキアに抱きついていた」
ぐりぐり。あ、口から綿がほんとにはみだてきてる。まぁいいか。
「兄は・・・・」
「一護は何もいわず、死神になると部屋を飛び出した。逃げるために。
「待て、逃げるとは兄はやはりルキアと同じ部屋で過ごした間邪(よこしま)なことを!」
「してねーーー!!!」
「では何故逃げる!」
「じゃあ、なんで死神の隊長が俺の部屋の押入れからでてきやがるんだあああ!」
「それはルキアから呼び出されたからだ」
「あああ、ほっんとにこの兄妹はあああ!!だあああああああ、今斬魄刀、首かすめた!おい、まじで剣ぬくなよ!」

「押入れは恋しいっと」 ルキアは一人、一護の部屋の押入れで寛いだ後、一護の勉強用のノートに、油性マジックでそうかいておいた。ドラえもんと一緒に。

改造されてしまった押入れ。コンが住み着いているが、たまにルキアが住み着いています。
極稀に、遊びに来た白哉もこんな狭い空間で何をしていたのかと問いたくなるが、ルキアと一緒に菓子をくってお茶をのんでいたりするので気をつけましょう。
一護の部屋の押入れ。
それは禁断の薗。って書くと怪しいけど、簡単にいうと危険物の薗です。

一護がなんとか、白哉をソウル・ソサエティに追い返して戻ってきた頃、ルキアは押入れを開けっ放しで、一護の椅子に座って寝ていた。
「ほんと、元気だなおまえは」
一護はルキアの頭を撫でて、誰も見ていないのを確認してからその頬に音もなく唇を落としてから、ルキアを自分の寝台に寝かせると毛布をかけてやった。

騒がしい一夜だった。だが、それもまたいいかもしれない。
恋しい押入れと書かれたノートを見て、一護はつぶれたあんぱんのようなドラえもんを見て笑うのだった。
そう、穏かに。