受難でない日番谷隊長







「出ていけ!」

日番谷の怒号が、10番隊の執務室中に響き渡った。

「そんなこと言わないでくれ」

「いいから出ていけ!ここはお前の隠れる場所じゃない!」

10番隊の執務室の机の下に、縮こまった浮竹が隠れていた。

はじめ、日番谷も気づかなかった。霊圧を完全に消していたし、物音もたてなかったし、何より壁と同じ色の布をかぶっていた。

鮮やかな緑の目が一瞬日番谷と混じり合ったせいで、日番谷に気づかれてしまった。

「そんな殺生な。京楽の魔の手から誰も救ってくれないんだ。最初は、白哉のところにいったんだ・・・・・・・」

浮竹は話し出す。

白哉の執務室に入って隠れていたら、見つかって追い出されそうになった。わかめ大使をもちいて懐柔しようとして、でも失敗した。
机の下から引きずり出された時に、形見にと置かれてあった白哉の妻、緋真へ贈ったという緋色の髪飾りを落として壊してしまい、「許さぬ」と千本桜に追われて、執務室を逃げ出した。

次にいったのが、11番隊の道場。
更木が、相手をしろとうるさいので、竹刀を手に蹴りをいれていると、たまたま股間にあたってしまった。
悶絶する更木を見かねた班目3席に散々竹刀でうちこまれ、綾瀬川弓親からも竹刀で打ちこまれて、双魚理で竹刀をスパスパときっていくと、復活した更木に「てめぇ見かけは華奢なのにやるじゃねーか」と、竹刀でまた襲い掛かられて、体力の限界を感じて逃げ出した。

次に訪れたのは4番隊舎の綜合救護詰所。体力を使いきったに近くて、卯ノ花から回道でちょっとした手当を受けていた。病があるのに11番隊で戦いまくったことを話すと、「そうですか、あれほど無理は禁物と言っていたのに」と、とてもよい笑顔を浮かばせた卯ノ花のその笑顔が怖くて逃げだした。

次に訪れたのは7番隊。執務室にいくと、狛村に珍しがられて髪の毛をポニーテールにされて、
そのお礼に狛村の毛をブラッシングしてあげると、もっともっととねだられて、ついもふもふしてしまい、そのもふもふに全てを忘れそうで逃げ出した。

次の訪れたのは12番隊。
行くべきではなかった。
実験体にされかけて、力いっぱい逃げ出した。

最後にやってきたのが、10番隊の執務室だった。

「浮竹。何から逃げてるんだよ」

がたがたと震える浮竹を少し哀れにかんじて、日番谷はお菓子をさしだした。

それを食べながら、浮竹は京楽の手で七緒からインフルエンザの予防の注射を打たれかけたことを言い出した。

「はぁ?インフルエンザの予防の注射が怖い?お前、卯ノ花にもあったんだろうが」

「今年は、研修を終えた伊勢副隊長がインフルエンザの予防をするんだ。俺は、点滴はいいが注射はだめなんだ!」

子供のような怖がり方に、日番谷が笑った。

「13番隊の隊長は注射が弱点なのか。そうかそうか」

ひとしきり笑われて、浮竹はそれでも隠れていた。

「みーつけた」

霊圧を乱したことで、居場所を察知した京楽が10番隊の執務室にやってきて、机の下にいる浮竹にむかって手を伸ばす。

「京楽、何勝手にはいってきてやがんだ」:

「そんなことはどうでもいいじゃない」

「無理、絶対無理だ!注射は嫌だ!」

「そんな子供みたいな聞き分けのないことを。去年、インフルエンザにかかって酷い目にあったの、忘れたの?」

「それでも嫌だ!点滴はいいが注射はだめなんだ!・・・・・あっ」

「蒼天に・・・・・」

抜刀し、始解しかけた氷輪丸を、京楽がおさえる。

浮竹の後ろ首に手刀をいれて、浮竹を気絶させた京楽は、日番谷の頭を撫でた。

「この子、いつも注射は意識ない時にさせてるから。日番谷隊長、騒がせせてすまなかったね」

そういって、軽々と浮竹の体を抱き上げて、京楽は去って行った。


「なんだよ。普通に出ていけるんじゃねーか」

始解されなかった表裏丸をを鞘におさめて、日番谷はそう零して、自分で茶をいれてすするのであった。