ミーンミーンミン。 蝉の声がうるさい、夏の季節がやってきた。 「今日も暑いなぁ」 宇治金時のかき氷を食べながら、浮竹は雨乾堂の外の欄干で、板張りの廊下に座り込み、池を見ながら暑い日差しをにらんでいた。 「浮竹ぇ。こんな暑いのに、外でかき氷かい?」 「ああ、京楽か」 日番谷隊長に頼み込んで、氷輪丸で氷をたくさん作ってもらい、13隊の全員にかき氷を配った。 シロップはいちご、練乳、メロン、ブルーハワイ、宇治金時だ。 文句をいいつつも、日番谷隊長は氷をだしてくれた。そんなことのためにある斬魄刀ではないのだが。 「京楽もくると思って、かき氷用意しといたぞ。メロン味だが、別にいいよな?」 「え、僕の分まであるの?」 「ああ。来るだろうと思ってたから」 昨日も会ったばっかりだ。 京楽は、時間があれば浮竹に会いにくる。浮竹が臥せっているときは自重するが、浮竹が元気な時には、暇つぶしとばかりに遊びにくる。 「いいねぇ」 浮竹が、雨乾堂に戻り、メロンシロップのかけられたかき氷をもってくる。普通の氷と違って、日番谷隊長が出す氷輪丸の氷は、溶けにくい。 少しくらいおいておいても、溶けないので、京楽の分も用意したのだ。 「甘い。こんな暑い日にかき氷なんて贅沢だねぇ」 「何、外にでればかき氷くらいうってるだろう」 「まぁそうなんだけど。とても暑くて食べに出かける気にもならないよ。こんな暑い中、死神の黒装束の上に隊長羽織だよ?脱ぎたくなるけどそういうわけにもいかないしねぇ」 シャリシャリと、かき氷をを口に運びながら、京楽は浮竹を見た。 夏の日差しに、京楽はすっかり日に焼けてしまったが、色素を失った浮竹は太陽の光を浴びても日に焼けることがない。 白い髪に白い肌、翡翠の瞳。秀麗な容姿。実に涼やかだ。 「浮竹は、日に焼けないよね」 「あー。そういえばそうだな。夏になっても、暑い日差しをどんなに浴びても日焼けしないな」 「羨ましいねぇ」 「そういう京楽は真っ黒だな。日焼けしすぎじゃないか?」 「なに、いつものように、屋根の上で寝てたら日に焼けちゃってねぇ」 「こんなくそ暑い時期でもお前は屋根の上で寝るのか」 「うん、そうだよ?変かな?」 「想像するだけで暑そうだ」 京楽は、メロンのかき氷をすぐに平らげてしまった。 そして、浮竹が食べていた宇治金時のかき氷を見た。 「見ても、分けてやらないぞ」 「わけてくれなくてもいいよ。こうするから」 かき氷の器を奪い取って、浮竹に口づけた。舌をいれられて、浮竹が京楽の頭をなぐった。 「痛いじゃないか」 「キスで味わるくらいなら、わけてやるに決まっているだろう」 「いやぁ。宇治金時の味がして、おいしかったよ。もっかいしていい?」 「だめだ。あと、ハグも禁止。暑いから」 「こういう時、現世のエアコンってのがほしくなるねぇ。まぁ、扇風機があるだけましか」 先ほどから、生暖かい風を扇風機が送ってくる。 現世のものを取り入れることが多くなった尸魂界では、扇風機はまだ珍しいが、隊長くらいになれば入手も困難ではなかった。 「氷枕がほしいくらい暑いし、いっそ日番谷隊長の氷輪丸で氷漬けにしてほしいくらいだ」 「そりゃ僕が止めるよ。浮竹は夏風邪をひきやすいんだから。熱中症対策もしなきゃいけないけどね」 「水浴びしたいなぁ」 「まぁ、この天気なら水浴びくらいしてもいいんじゃないの」 「よし、一緒に浴びるか」 「ええっ」 それっと、浮竹はどこにそんばか力があるのか、自分よりも重い京楽を池に投げ捨てた。 「ちょっと!」 「俺もだ」 ザパーン。 池に飛び込んだ浮竹を見て、京楽は眩暈を覚えた。 少年のような瞳で京楽に水をかける浮竹。 かわいい。ハグしたい。 「こっちもしかえしだよ」 池の水をかけて二人でしばし水のかけあいをした。 池にいる錦鯉が、二人の邪魔をしないように遠くを泳いでいく。 「あまり、長い間濡れたままだと風邪をひくよ。そろそろあがろう」 「そうだな。お陰で大分涼しくなったし」 水を吸った白い髪をかきあげて、浮竹は池からあがった。 それに、京楽も続く。 「冷えるまえに、着替えなさい」 京楽は、浮竹にバスタオルをなげると、新しい服を出してきた。 「心配しすぎだろう。これくらいで風邪をひいたりしないぞ」 「いいや、放置してると絶対風邪ひくね」 「そうか?」 「君は、自分が思っているよりも体が弱いんだから」 バスタオルで、白い髪をごしごしふいて、濡れた衣服を脱がしていく。 肌にはりついた衣服を見ていると、少し欲情してしまった。ぶんぶんと首をふって、京楽は濡れた自分の衣服も髪もふいて、浮竹に新しい服を着させてどっかりと、座り込んだ。 「扇風機の風に当たるのは禁止ね」 京楽だけが、扇風機の風を独り占めする。 「むっ。ずるいぞ」 「だーめ。今の状態で扇風機なんかにあたって体を冷やしたら、絶対熱だすんだから」 「今年の夏はまだ2回しか風邪をひいてないぞ」 「十分多い。普通の人は、ひかないよ」 「むう」 「いい子だから、いうことききなさい」 「京楽のどけち」 「はいはい」 まるで、ちょっとした痴話喧嘩だ。 「また今度日番谷隊長に、氷をだしてもらってかき氷をつくるか」 「日番谷隊長も大変だねぇ」 氷輪丸を、そんな使い方にされて気の毒だと、京楽は思ったが、浮竹が喜ぶのであれば日番谷隊長にはがんばってもらわねば。 「っくしゅん」 「あれぇ?隊長、風邪ですか?」 くしゃみをした日番谷は、松元の言葉に首を振った。 「多分、誰かが噂してるんだ。13番隊の隊長あたりが」 ビンゴだ。 日番谷は、夏によく氷を出してくれると頼まれる。もう慣れてしまったので、氷をだすくらいはしてやった。 「今年も夏も、暑いな」 暑さに弱い日番谷は、氷輪丸を使って涼んでいる。松本が、それをずるいと口をとがらせていた。 ミーンミンミン。 蝉も声がする。 夏は、まだ真っ盛り。 暑い日は、しばらく続きそうだった。 |