「おはぎ食べる?」 「食べる」 「羊羹食べる?」 「食べる」 「あんこ餅食べる?」 「食べる」 「桜餅食べる?」 「食べる」 「団子食べる?」 「食べる」 「たい焼き食べる?」 「食べる」 もっきゅもっきゅ。 京楽がもってきた甘味ものを、浮竹はすごいスピードで平らげていく。 「相変わらず、甘味ものはよく食うねぇ」 「そうか?」 清音がいれてくれたお茶を、ずずーっと飲んで、浮竹は小首を傾げた。さらさらと、白い髪が零れ落ちる。 「もう、かわいいねぇ、浮竹は。でも、甘味ものを食べても全然脂肪つかないもんね。食事はちゃんとしてるかい?」 「最近は、1日3食ちゃんと食べているぞ」 「ほんとに?」 「ああ」 「どれ」 京楽は、浮竹を軽々と抱き上げた。 「やっぱ、細いよ君。もっと肉つけなきゃ」 抱き抱えられ慣れているので、抵抗はなかった。 「お前がごついだけだろう。最近は寝込んでないし、ちゃんと食べてるし鍛錬もしてる」 「でも、細いよ。腰なんかこんなに細い」 「くすぐったい」 清音がいることを、すでに二人は忘れていた。 清音は顔を真っ赤にして出て行った。 「おはぎのおかわりあるんだけど、食べる?」 「食べる」 おはぎは浮竹の好物だ。 「お前も食うか?俺ばっかり悪いだろ」 「いやいいよ。全部、君に食べてもらうために買ってきたものだしね」 京楽は甘いものが好きというわけでも嫌いというわけでもない。ただ、浮竹は甘いものが大好きだ。 「今度、尸魂界に新しい、現世の甘味ものを出す店ができたんだよ。一緒にいくかい?」 「行く!」 即答だった。 「朽木がいっていたんだが、パフェとかいうものがおいしいそうだ。出るかな?」 「出ると思うよ。アイス系の甘味ものも多いらしいから」 「よし、今すぐ行こう」 「ええ、こんなに食べたのにまだ食べるの?」 「甘味ものは別腹だ」 デザートは別腹というやつだ。 京楽の腕から降りて、浮竹は京楽を促した。 「仕方ないねぇ」 二人そろって、新しい店に行くことになった。 尸魂界でも、治安が比較的良い場所にその店はあった。 洋風の建物で、ドアをあけるとチリンとベルが鳴った。 「お洒落な店じゃない」 京楽は、店の洋風な中にも和風を取り入れた内装が気に入ったようだった。 「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」 「ああ、そうだよ」 浮竹は、高そうな店だなぁと、金は足りるだろうかとか考えていた。 「ああ、浮竹、心配しなくても僕のおごりだから。好きなもの、好きなだけ食べるといいよ」 案内された席につき、メニュー表をみた浮竹は、京楽のおごりという言葉に甘えることにした。 酒を飲むときとかでも、しょっちゅうおごられているので、もう違和感さえない。 「すまない、この上からこの5つまでの品をお願いしたい」 パフェ系を5つも注文する浮竹に、京楽は笑った。 「本当に、甘いものには目がないね、浮竹は」 京楽は、上流貴族だ。隊長としての給料以外に莫大な財産を銀行に預けている。 それに対して、浮竹は下級貴族だ。貧しくこそなかったが、金持ちというわけでもなかった。高額な隊長としての給料の半分は、仕送りしている。 残りの半分で、飲み食いすればもう残らない。 京楽におごられることに、申し訳ないという心はすでに麻痺していた。 しばらくして、パフェがテーブルの上に5つ並んだ。 「京楽は、頼まないのか?」 紅茶を頼んだだけの京楽に、少し申し訳なさそうにする浮竹の頭を、京楽は撫でた。 「君の食べてる姿を見てるだけでいいんだよ、僕は」 「そうか」 パフェにスプーンをいれて、口に運ぶ。ひんやりとしたアイスが、おいしい。 「うまいぞこれ。京楽も食べてみろ」 アイスをスプーンですくって、京楽の口元にもっていく。 それを、京楽はさも当たり前とばかりに口にした。 「うん、おいしいね」 京楽は、浮竹に触れるだけのキスをして、頬に手をあてる。 白い髪に手を伸ばすと、翡翠の瞳がふせられた。睫毛の長い浮竹の翡翠の瞳は、宝石のようだ。 周囲のことなど、二人は気にしていないし、気にするつもりもなかった。関係を隠すことのない二人のやりとりを、女性だけでなく、男性死神も顔を朱くしていた。 「例の隊長だぞ。仲いいな」 「しーっ!せっかくの目の保養なんだから、邪魔しないで」 「浮竹隊長って、あんなかわいかったっけ」 「京楽隊長かっこいい」 「浮竹隊長は、どちらかというと綺麗よね。美人だもの。女の私でも嫉妬しちゃうくらい」 さざめく見学者たち。 二人の関係を、汚いものとして見る者はいない。 何百年も恋人関係を続けていたら、もう周囲の者のことなど、あまり気にしなくなるものだ。 パフェを全て平らげて、浮竹は満足そうだった。何回か京楽にも食べさせた。 「また、こようね。おごってあげるから」 「ああ」 浮竹の外での飲食の3分の2以上は、京楽が出している。 女なら、高いブランドもののバックや化粧品、衣服などに金を費やすだろうが、浮竹は男だ。 衣服はあまり欲しがらないし、高価な贈り物も拒絶する。そんな浮竹にできるのは、食べ物や酒をおごってあげるくらいだ。 浮竹は、酒なら高いものでもあまり嫌がらない。 高い酒ほど、美味いからだ。 「ごちそうさま。勘定、ここにおいていくからね。おつりはいらないよ」 多めにだした金銭をテーブルの上に置いた京楽は、傘をかぶり直して、店を先に出た浮竹の後を追った。 「すまないな、京楽。いつもおごってもらってばっかりで」 「いいのいいの。僕が好きでやってることなんだから」 浮竹をおごるのは、好きだった。浮竹は、初めの頃は逡巡しがちだったが、今では京楽が甘やかせばそれにすり寄るように、おごられてばかりだ。 「よっと」 「うわっ」 道の真ん中で、浮竹を少し抱き上げると、やはり悲しいくらいに細かった。 「うーん、まだまだだなぁ」 もっと肉をつけてもらいたい。 浮竹をおろすと、京楽は傘をあげて、浮竹をみた。 「夕飯、どっかに食べに行こうか」 「いいが。そうだ、今日の夕飯は俺がおごろう。たまにはいいだろう?」 「うん、うれしいね。高い店じゃなくていいからね」 馴染みの料亭でいい。 値段はほどほどで、酒がうまい。 京楽は、笑った。それにつれられて、浮竹も微笑む。 風に、長い白い髪が流れていく。 どうか、願うならばこんな穏やかな毎日がずっと続きますように。 |