隊長羽織







「おい、浮竹」

「なんだい、日番谷隊長」

「おまえ、また隊長羽織、間違えてるぞ」

「え?」

自分の着ている隊長羽織を、浮竹は脱いだ。

「ああほんとだ。8番隊のになってる。道理で、少し大きいわけだ」

「お前なぁ。もうちょっと、しっかりしろよ」

「まぁまぁ。よくあることだし」

浮竹は、隊長羽織を間違えて出歩くことがある。それは京楽も同じで、京楽の場合は13番隊の羽織を着ていた。

つまり、お互いの隊長羽織を間違えているのだ。

大抵は、そんな日の前は肌を重ね合わせたか、泊まっていった日が多い。

「あんなもじゃもじゃのおっさんのどこがいいんだか」

「はははは。もじゃもじゃだけど、優しいぞ?」

「浮竹の気が知れない」

「まぁ、日番谷隊長も、雛森副隊長の傍にいたくなるだろう?」

日番谷は、顔を少し赤くした。

「そんな気持ちと同じさ」

「俺と雛森はそんな関係じゃねぇ」

全然違うと、日番谷は否定する。

でも、顔を赤くしているので、それは嘘だとすぐにわかった。

「あいつとは、数百年の付き合いだからなぁ。それこそ、院生時代からの友人で、親友で、恋人だ」

浮竹は、京楽との関係を隠そうとしない。

ある意味、器は大きいのかもしれない。

「俺は、もっと強くなる」

雛森を、守るために。大事な彼女を二度と傷つけないために。泣かせないために。

「あ、シロちゃーん」

少し遠くから、雛森が手をふりながらやってきた。

「あれ、浮竹隊長。京楽隊長のにおいがする。変なの」

雛森は、浮竹と京楽の関係を知らない。

「どうして、浮竹隊長が京楽隊長の隊長羽織をきてるの?」

「それはだな」

日番谷は、言葉を濁す。

正直に打ち明けるのが、いいことなのか悪いことなのか分からない。

「ああ、昨日京楽が酒を飲んで寝てしまってね。雨乾堂に泊まっていったんだ。朝から今日は何かと忙しかったから、そのせいで隊長羽織を間違えてしまったみたいだ」

それは、本当だった。

浮竹は、暇森が気づかないならそのままでいいと判断した。

「浮竹隊長は、京楽隊長と、ほんとに仲がいいんですね!」

お互いの隊舎の隊長室に、泊まったりするくらいに。

もっと厳密にいえば、恋人同士だからだ。

「暇森副隊長、体調はいいのかい?」

「ええ、怪我も大分癒えましたから!シロちゃんが、早く元気になれってうるさいし」

雛森は、太陽のような明るさで、日番谷の腕をとった。

「シロちゃん。昨日約束してた、甘味屋にいこう?」

「お、甘味屋にいくのか。俺もご一緒してもいいかな?」

「僕も、ご一緒していいかな〜?」

にょきっと現れた京楽。霊圧を完全に消して、忍び寄ってきたのだ。

「京楽、ちょうどよかった。隊長羽織、互いに間違えてるって」

「おや、ほんとだね。13番隊のを着てた。道理で、きついわけだ」

浮竹は、身長はあるが病に伏せることが多いので、あまり筋肉がついておらず、細かった。その体に合わせて採寸されているので、がたいのいい京楽はには浮竹の隊長羽織は少し窮屈だった。

「あれ?京楽隊長から、浮竹隊長のにおいがする。どうして?」

京楽と、浮竹はお互いの顔を見合った。

「ま、それはいろいろとあってだね。甘味屋にいくんだろう?みんなまとめておごってあげるよ」

「わぁ、いいんですか、京楽隊長!」

うまく話をそらせた京楽に、浮竹は何を食べようかと、すでにスイーツのことで頭がいっぱいになりかけていた。

関係を知らない者に、わざわざ教える必要はないだろう。京楽と浮竹の、お互いの関係に気づいて問いかけれた時に、正直に答えればいいだけだ。

「とりあえず、おはぎとお汁粉・・・・」

浮竹は後何を食べようと、すでに迷っていた。

「ほら、浮竹も早く。雛森ちゃんに、日番谷君も、早く早く。昼時だし、店が客でいっぱいになっちゃうよ」

雛森と日番谷がいこうとしていた甘味屋は、尸魂界でも治安のいい場所にあり、かなり人気の高い店だ。浮竹が大好きな店でもある。

早めにならばないと、待たされる羽目になる。

「待ってください、京楽隊長〜。シロちゃん、いこ?」

「おまえなぁ。いい加減、シロちゃんはやめろ。日番谷隊長と呼べ」

「まぁまぁ、いいじゃないか。なぁ、シロちゃん?」

「なんだ浮竹まで。お前も、シロちゃんだろ!」

浮竹十四郎。シロちゃんと、いえないこともない。名前の一部に、シロという文字が入っている。


甘味屋につくと、混雑はしていたが、なんとか4人分の席は確保できた。日番谷と雛森は、おごりと言われたので好きなものをどんどん注文していく。

「浮竹も、好きなもの、頼みなよ?」

お汁粉と、おはぎだけ食べて、まだ食い足りないだろう浮竹に、京楽はアイスなんてどうだと、メニューを見せる。

その甘味屋は、現世で提供するようなメニューも置いてあることで、有名で、それゆえに人気が高かった。

「じゃ、ジャンボイチゴパフェ」

一人では食べきれない量のパフェである。いつも、頼む時は京楽と一緒に食べた。

「あ、それ私も食べたい。でも一人じゃ無理だから・・・・・シロちゃん、一緒に食べよ?」

「好きにしろ」

日番谷は、溜息をついた。

浮竹が頼んだジャンボイチゴパフェが、先にやってきた。京楽も、浮竹と一緒に食べる。

「ほんとに、仲いいんですね」

そりゃ、恋人同士だものな。日番谷はつっこみをいれたいのを、我慢した。

3人分をおごると、けっこうな金額になったが、上級貴族のぼんぼんである京楽にとってはたかがしれているだろう。

何せ、尸魂界にいくつかの屋敷を所有している。よく、浮竹と一緒に泊まったりする場所だ。

「美味しかった。京楽隊長、おごっていただいてありがとうございました」

ぺこりとおじぎをする雛森に、京楽はひらひらと手を振った。

「気にするな、雛森副隊長。こいつは、金持ちだからな。上流貴族なだけあるよ」

浮竹が、京楽の背中をバンバンと叩いた。

「じゃあ、俺たちは戻るからな」

「あ、待ってよシロちゃん!置いていかないで!」

「早くしろ、雛森」


残された浮竹と京楽は、二人が去っていく姿を見守っていた。

「若いって、いいねぇ」

「おじさんだもんな、俺ら」

「そうそう、いい年したおっさんだよ、僕も君も」

「その割は、随分と性欲があるようだが」

実は昨日は、泊まっただけではなかった。肌を重ねあった。風呂には入ったが、風呂上がりもいちゃこらしていたせいで、お互いのにおいがまぜこぜになってしまっていた。

「雛森ちゃん、僕らのことに気づいちゃったかな?」

「さぁ、どうだろうな」

気づかれたからといって、何があるわけでもない。

まぁ、京楽も浮竹も、一目のある場所でいちゃこらするのは控えていたが。

「京楽、今日の夜は俺がおごってやる」

「お、いいねぇ。果実酒の置いてある店にしようか」

「ああ、そうだな」

浮竹は、果実酒が好きだ。酒まで、甘いものを好んだ。

浮竹とて、隊長だ。それなりの賃金をもらっているのだが、半分を家族に仕送りをして、もう半分で飲み食いをして、そして病のための薬代をだせば、すっからかんになる。

はっきりいって、貯蓄している金額は雀の涙だ。

日々の生活に困るほどではないが、だいぶ京楽に依存していた。

何せ、お互い所帯をもっていない。外で飲食することが多い。


数百年を、一緒に過ごしてきた。

お互いが、比翼の鳥だ。

片方が欠けては、だめなのだ。

永劫の時を、刻んでいく。

何十年、何百年と。