わかめ大使







「やぁ、白哉」

浮竹は、朽木家の屋敷にまで来ていた。

「なんだ。兄は、何用で我が屋敷にきているのだ」

「いや、わかめ大使のお菓子、ほしいなぁと思って。隊長室を尋ねたら、屋敷にいるっていわれたので来てみたんだ」

白哉が考案したわかめ大使なるお菓子は、堂々と発売されていたのだが、あまりの人気のなさに発売中止になっていた。

「わかめ大使、うまいからな」

「兄は、見る目があるな。少し待て」

白哉は人を呼ぶと、大量のわかめ大使のお菓子をもってこさせた。

「えっと、いくらになる?」

財布をとりだした浮竹に、白哉は首を振った。

「兄から金をとる気はない。好きなだけもっていくがいい」

「お、悪いな。じゃあ、お言葉に甘えて・・・・・・京楽!」

浮竹は、京楽の名を呼んだ。

屋根の上にいた京楽は、浮竹の元にやってくると、紙袋の中にわかめ大使をつめこんでいく。

「わかめ大使ねぇ・・・・・」

あんまりおいしそうじゃないなと思いながら、つめこんでいく。

浮竹も、もってきた紙袋に大量のわかめ大使をつめこんでいた。

「全く浮竹はもの好きだねぇ」

こんなこと、3席である清音や仙太郎に任せればいいのに。

「そういうお前も、もの好きだろう。わざわざ荷物もちについてきてくれたんだから」

「僕は、ただ浮竹傍にいたいの」

わかめ大使を詰め終えて、けっこうな重さに少し辟易となるが、愛しい浮竹のためだ。

「兄には、特別にこれをやろう」

白哉が、浮竹にわかめ大使のキーホルダーを投げてよこした。

「お、ありがとう白哉。大切にする」

「礼など、いらぬ」

白哉は、わかめ大使を好きだといってくれた浮竹に、好印象を抱いた。

わかめ大使は、見た目こそ変だが、上品なあんこが入っていて甘くておいしい。

甘いもの好きな浮竹は、部下であるルキアからわかめ大使を渡され、それを食べてからもっと食べたいと思うようになっていた。

そして、今に至る。

「じゃあな、白哉」

手を振って去っていく浮竹と、それに黙ってついていく京楽を見て、白哉は少しだけ分からないほどの笑みを浮かべた。



「やっぱり、美味い」

雨乾堂で、浮竹はわかめ大使を食べていた。

「見た目は変なんだけどねぇ」

京楽は、わかめ大使を食べる気にはなれなくて、食べていく浮竹をただ見つめていた。

「お前はいらないのか、京楽」

「んー。僕はこれでいいよ」

わかめ大使を食べていた浮竹に、深く口づけすると、甘いあんこの味がした。

「なっ!」

浮竹は、真っ赤になってわかめ大使を飲み込んだ。

「ばかっ、食っている最中にキスするやつがあるか!」

「えー。別にいいじゃない。減るもんでもなし」

「減る!」

浮竹は、またわかめ大使を食べた。

「ほんとに、甘味ものはよく食べるねぇ」

いつもは食の細い浮竹。この甘味ものを食べるくらいに食事の時に食欲があれば、少しは肉がつつくんじゃないかと京楽は思った。

浮竹は、軽すぎる。病や熱を出して寝込むことが多いし、食も細いので、体が細い。

20個くらいわかめ大使を平らげて、浮竹は満足した。

京楽は、部屋で控えていた清音からお茶をもらって、それを飲みほした。

浮竹はというと、今度はおはぎを食べだしていた。

「ほんとに、甘味ものは別腹ってかんじだねぇ」

その細い体のどこに、こんな量が入るのだろうというほど食べる浮竹。

そんな浮竹を見て、京楽は苦笑した。

そして、酒瓶をとりだして、一人で酒盛りをはじめた。

「こんな朝っぱらから酒か」

「だって、どこかの誰かがかまってくれないんだもの」

二人は気づきているのだろうか。

雨乾堂に、清音と仙太郎が控えていることを。

京楽は、平気でキスをしていたので、きっと存在を忘れているのだろう。いや、気づいていて見せつけるためにキスしたのかもしれない。

「隊長・・・・・私たち、お邪魔のようですし、下がりますね」

「清音、いたのか!仙太郎も・・・・・うわぁ」

二人の目の前で、浮竹は京楽にキスされたのだ。

いつも二人のいない時にする。

仲の良すぎる浮竹と京楽に顔を赤くさせて、清音と仙太郎は雨乾堂を後にした。

「見られてた」

「別にいいんじゃない。僕たち、関係隠すようなことしてないしね」

日本酒を杯に注いで、それを呷る京楽の頭をはたいて、浮竹は顔を手で覆った。

「恥ずかしくて、しばらく清音と仙太郎の顔見れない!」

「浮竹は恥ずかしがりやだねぇ。別にえっちしてたわけじゃないんだから、いいじゃない」

「よくない!」

酒を飲む京楽に足蹴りをかます浮竹。

「ほんとに、君は足癖が悪いねぇ」

杯を空にして、その細い足首をとらえた。

「放せっ」

「悪いことする子には、お仕置きだよ」

足首をきつく吸われて、キスマークを残された。

まぁ、人目につくところではないので、浮竹も怒らない。

「浮竹も一杯やるかい?」

「ああ・・・・」

京楽から杯を受け取り、注がれた中身を呷る。

「今日は仕事もないし、もうやけだ」

浮竹は、雨乾堂の奥から、よく飲む果実酒を取り出して、京楽と飲み始めた。




一方その頃、朽木家では。

「ルキア、この調子でもっとわかめ大使を広げるのだ」

「はい、兄様!」

ルキアが、浮竹にわかめ大使を食べさせたのは、偶然ではなく謀(はかりごと)だった。

ルキアは、愛しい義兄のために、わかめ大使を恋次や一護に食べさせて、さらには他の隊の隊長や副隊長に広げてくのであった。