優しく優しく接した後、浮竹は京楽の腕の中で眠ってしまった。 最近、浮竹はよく肺の病の発作を出すので、抱くことはしていない。 ただ、何度も甘く口づけを交わして、全体の輪郭を確かめるように体のラインをなぞる。京楽は、自分で欲望を始末して、浮竹の負担を減らしていた。 ふと、眠っていた浮竹が薄く目をあけた。 翡翠色の瞳はとても綺麗な色をしている。 「京楽・・・・・・その、しなくていいのか?」 もう1か月近く交わっていない。 「何、浮竹。僕としたいの?」 「いや・・・・・・ただ、我慢を強いてるんじゃないかと思って」 「僕のことはいいから。君は、早く元気になることだけを考えて」 長い白髪に手が伸びる。優しく髪をすいていく指の動きに、気持ちいいのか浮竹は京楽にすり寄った。 「もう。誘うようなこと、しないでよ・・・・・」 我慢が、限界をこえてしまう。 「その、よければ俺が処理してやろうか?」 「いいのかい?」 京楽の雄は、熱をもっていた。 おずおずと、自分から京楽に口づけて、浮竹は京楽の熱に指をからめる。 いつも自分がされているようにすれば、京楽の熱はあっという間に弾けて、浮竹の手に欲望を放った。 「ん・・・・・・・・・」 まだ硬い熱に、浮竹は意を決して唇を這わせた。 「浮竹!」 今まで、ほとんどしてこなかった行為だ。浮竹は、京楽の熱に舌をからめると、京楽をくわえこんだ。 「無理、しなくていいから・・・・・・・」 浮竹の、白い髪を掴む。少し微熱を出しているのか、浮竹の潤んだ瞳と目が合った。 「浮竹、体が熱いよ?もしかして、熱だしてるの?] 「・・・・んう」 片方の手でしごきあげて、硬くなった熱にちろちろと舌を這わす。先端を吸い上げれば、先ほど放った京楽の体液の青臭い味が、口内に広がった。 何度か舐めあげられ、しごかれているうちに、京楽は熱い浮竹の口内に欲望を迸らせた。 ごくり。 音を出して飲み込む浮竹。 ぺろりと、自分の唇を舐める。 ああ、この子欲情してるんだ。 京楽は、けれど熱のある浮竹を思いやって、浮竹の誘いには乗らなかった。 「きょう・・・らく?」 不思議そうに、小首を傾げる浮竹。 その姿がかわいくて、京楽は浮竹の顎に手をかけた。 「何・・・・?」 綺麗だと思う。浮竹は、その容姿も、まとう色も、綺麗だ。 真っ白な長い髪をなでながら、京楽は浮竹の唇に触れるだけのキスをした。 「んっ・・・・・・・・」 浮竹は、甘い声を出した。 「今日は抱かない。熱もあるみたいだし。もうちょっと回復したら、ね?」 「気遣わなくても、いいのに・・・・・」 「気遣うに決まってるでしょ!バカ言わないで」 優しい優しい京楽。その京楽に、甘える浮竹。 浮竹は、自分から触れるだけの口づけを京楽にして、京楽の腕の中で微睡みはじめた。熱が出ているようで、起きたら解熱剤を飲ませなければ。 「愛してるよ、十四郎」 熱のせいか上気した浮竹の白い頬に唇をあてて、京楽はただ浮竹の白い髪を指ですいていた。 サラサラと零れ落ちていく長い髪。 伸ばせと囁いて、ここまで長くなった。 浮竹からは、甘い花のかおりがした。 寝ているだけなのに、どこか淫靡に見えて、京楽は視線をずらす。雨乾堂で、二人はただ抱き合いながら、朝を待っていると、京楽もいつの間にか眠ってしまっていた。 「浮竹?」 腕の中に、浮竹がいない。探して視線を彷徨わせると、雨乾堂の隅でがさごそしている浮竹と目が合った。 「どうしたの?」 「あ・・・・・薬、飲んでただけだから・・・・」 解熱剤といつも処方されている漢方薬を飲んだのだと、浮竹は白湯の入ったコップを手に、京楽の元まで戻ってくる。 白湯を全部飲みほして、浮竹はまた京楽の腕の中に戻ってきた。 「熱ひかないみたいだから、もう少し寝る」 「うん、おやすみ」 浮竹を抱きしめて、京楽はその火照った体から熱が去っていくのを、ゆっくり感じた。 浮竹が起きたら、好物の梅干し茶漬けでも食わせてやるか。 そんなことを考えて、腕の中の麗人を抱きしめる。 「大好きだよ」 返答はなかった。 浮竹が飲んでいる解熱剤には、少し睡眠薬も含まれているらしくて、スースーとよく眠っている。 昼になって、浮竹が起きた。彼が起きるまでずっと抱きしめていたので、体のあちこちが痛い。でも、甘い痛みだ。 京楽は、浮竹のために梅干し茶漬けを用意した。 雨乾堂の近くの隊舎に控えていた清音に、材料をそろてもらった。 食の細い浮竹は、お茶漬けが好きだ。特に、梅干しをいれたものを好んだ。 そういえば何も食べていないな・・・・・・・京楽は、自分の腹がすいているのを感じて、浮竹と同じ梅干し茶漬けを食べた。 思ったより美味しくて、おかわりしてしまった。 「浮竹、熱は下がったかい?」 「ああ・・・・・」 梅干しを頬張る姿に、苦笑する。 後で、甘味ものでも、食べさせてやるか。京楽は思った。 甘い甘い時間を、何百年も過ごしている。けれど、全然飽きない。 京楽は、浮竹の長い白髪を、螺鈿細工の値のはる櫛ですいてやった。今から20年ほど前に、誕生日プレゼントにと、あげたものだ。 大切にされているので、新品同然の輝きを放っている。 「後で、一緒にお風呂入ろうか。昨日入ってなかったから」 「ああ」 その長い白髪を、洗ってあげよう。浮竹の髪を洗うのは、好きだった。 京楽も、大部髪が伸びた。そろそろ、切ろう。そういえば、浮竹の髪もいつもより大分伸びてしまっている。ついでだし、切ってあげよう。 とりとめのない、日常。 それが、とても幸せだ。 願うならば、こんな幸せがいつまでも続きますように。 |