またいつか







一護が完全に霊圧をなくして1年が経った。
 
「懐かしいな、この町も」
 
ルキアは、名も知らぬ家の屋根にたって、その町を見下ろす。
一護が生まれ、育った町。
 
「さて、いくか」
 
死神の衣装を纏い、斬魄刀を手に、ルキアは屋根伝いに走り出す。
 
一護の住んでいる黒崎医院までくると、勝手に窓をあけて中に入る。
中には、誰もいない。
 
この時間だと、一護は学校にいっている時間だろう。
 
「ね、ねえさんん!!」
 
気配を感じ取ったのか、コンが押入れから飛び出してきた。
それを蹴り倒して、ぐりぐりと踏みにじる。
 
「ああああ、姉さんの足!癖になるうううう」
 
口から綿がはみ出しそうな勢いのコンを放置して、ルキアは胸から一通の手紙を一護の机に置いた。
 
そして、何を思ったのかそのまま押入れに入ってうたた寝をはじめた。
 
「あー?なんだ、窓があけっぱなしじゃねーか」
 
帰宅した一護は、窓をとりあえずしめて、そして机の上に置かれた手紙に気付いて封を切る。
 
もう何度目になるかも分からない、ルキアからの手紙。
 
霊圧がなくても読むことが出きるような、特殊な紙で書かれたもの。
 
「はっ、変わらず字も絵もへたくそだな」
 
「へたくそで悪かったな」
 
「ぬおお、いたのか!」
 
押入れから飛び出した一護が見たのは、死神姿の見慣れたルキアの姿。
 
技術開発局に頼んで、霊力のない人間でも、姿が見えるような特殊な薬を作ってもらった。それを、先ほどルキアは押入れの中で飲んだところだ。
 
コンはガムテープでぐるぐる巻きして押入れの奥に、つっこんである。
 
「よお。元気かよ」
 
「たわけ。元気でないはずがなかろう」
 
「はは、そうだな」
 
他愛ない会話。
いつもの笑顔。
 
「きっと、またいつか。貴様が私の姿をいつでも見れるようなものを開発してもらう」
「そうだな」
 
じょじょに霞んでいく、ルキアの姿。
楼閣のように、崩れていく。足元から。
 
あの時のように。
消えていくルキア。
 
「なぁ。名を呼んではくれまいか」
 
「ルキア」
 
「貴様の声は心地よい」
 
ルキアは、笑顔を残して一護の視界から消え去った。
 
薬の効果が切れたのだ。
 
そして、唇に触れる感触。
ルキアが手を伸ばして触れたのだろう。
触れることはできる。でも声も聞こえないし、姿も見えない。
一護は少し屈むと、苦笑する。
 
「また痩せたか?」
「たわけ。そんなはずはない」
ルキアの声は一護には届かない。でも、応えずにはいられない。
 
一護は思いきりルキアを抱きしめた。
ルキアも一護の背中に手をまわす。
 
「いつか、元通りになれたらいいな。またお前と、笑って会話して・・・・」
「いつか、きっと。貴様に霊力を戻す方法を尸魂界でも探している。一護。好きだ」
 
届いていなくても。
声を、かけずにはいられない。
 
触れ合う唇。
音が止んだ。
 
「好きだぜ、ルキア。また遊びに来いよ」
 
勝手にまた開け放たれた窓から、風が入ってきた。
 
「またな、一護。虚退治に行かなくては。また、会おう」
 
姿が見えなくて声が聞こえなくても。
触れることはできるから。
心を重ねることはできるから。
俺は、私は一人ではない。
 
大好きだ。ありがとう。また、会おう。
 
また、いつか。
いつかまた、あの頃の日々を手に入れよう。
それまで、こうして貴様に会いにくるよ。一護。
 
今日もたくさんのありがとうを、貴様に。
 
「朽木ルキア、参る!」
 
タンと、窓を閉めて、虚の声に耳を澄ませ、ルキアは飛び立っていく。
一護は、掻き消えた温もりに、目を閉じるのであった。