いつものように、雨乾堂を訪れた京楽は、文机に向かって仕事をこなしている浮竹を、酒を飲みながら見ていた。

「君も、相変わらず仕事にせいがでるねぇ」

「ああ・・・・・少し前まで、熱で寝込んでいたからな。健康な今のうちに、少しでも書類を片しておかないと」

「真面目だねぇ」

京楽は、仕事のほとんどを副官である伊勢七緒に任せきりにしている。

そうでもしないと、日中から浮竹のいる雨乾堂に遊びに行けない。どうしても隊長である自分が片付けないといけない仕事は、ある程度ためてから片付けていた。

「君の背中を見ながら、酒を飲むのもいいけど、やっぱり君が一緒に飲んでくれないと、美味しくないねぇ」

「もうすぐ終わる。それまで待っていろ」

浮竹の背中に背中を預けて、京楽は酒を呷った。

「京楽は、仕事は伊勢副隊長に任せきりか?」

「当たり」

「たまには、自分で仕事もしろよ」

「ちゃんと、片付けないといけない仕事はこなしてるよ」

「そうか、それならいいんだが。だが、伊勢副隊長にあまり無理はさせるなよ」

「大丈夫。七緒ちゃんも慣れてるし、無理はしないしさせないよ」

暇だとばかりに、浮竹の長い白髪に指をからめて遊んでいると、浮竹が苦笑した。

「そんなに暇なら、俺の仕事の手伝いでもするか?」

「うーん、やめとく」

想像していた通りの言葉に、浮竹は京楽から酒をとりあげた。

「こんな日中から酒ばかり飲んでいると、体を壊すぞ」

「大丈夫、自分の体のことは自分が一番分かっているから」

取り上げられた酒を取り返して、一口、口に含むと、浮竹に口づけしながら酒を流し込んでいく。

「ん・・・・甘い・・」

いつもの、喉が焼けるような酒ではない。苺の味がした。

「果実酒か?」

「浮竹と飲もうと思って、もってきたものだからね」

京楽は、酒の入った酒瓶を振って、中身はまだ十分にあるのだと知らせた。

「おはぎももってきてるよ」

「仕事、早く終わらせる」

浮竹の大好物であるおはぎをちらつかせても、浮竹が仕事を放棄することはなかった。

一度仕事にとりかかると、片付けおわるまで大抵は動かない。

だが、京楽の酒の誘いとおはぎのお陰なのか、浮竹の仕事をこなすスピードが早くなった。

「よし、終わりだ」

一刻くらいして、浮竹が軽く伸びをした。
時刻をみれば、4時を回っていた。

「少し早いが、夕餉もとっていくだろう?」

「ああ、そうだね。君と食べるとなんでも美味くかんじるしね」

清音を呼んで、夕餉を持ってきてもらうように頼んだ。おはぎとお酒は、夕餉をとった後でいいだろう。

今日のメニューは、ちらし寿司だった。うなぎがのっかっている。

「うなぎか・・・・・・」

「嫌いなの?」

「いや。せいがつくからと、子供時代によく食べていたと思ってな」

「僕の分もあげるよ」

うなぎを浮竹の器に置くと、浮竹はそれならばと、デザートについていた苺を、京楽にあげた。

「苺、君も好きなんじゃなかったっけ」

甘いものを好む浮竹は、果実も好きだ。苺を本当にもらっていいのかとみると、浮竹はかまわないと、首を振る。

苺は、現世から仕入れてきたものだ。ビニールハウスで育てられたもので、13番隊の食事は他の隊のものと比べると、若干豪華だった。

隊長が病弱であるせいで、せいがつくものをと、浮竹の食事はとくに繊細に作られていた。

「清音か仙太郎にいえば、苺くらいいつでも持ってきてくれるしな」

「13番隊の食事は、新鮮なものがおおいからねぇ。浮竹が甘いものに目がないせいで、デザートもあるしね」

この時期に苺は、季節外れのために少々値がはるだろうが、大切な隊長のためならと、喜んで仕入れをしてくるだろう、13番隊の死神は。
その金を、実は陰で京楽が援助していた。

それを、浮竹は知らない。知れば、きっと怒るだろう。もっと金を大切にしろ、と。

もっとも、上流貴族で金のあまっている京楽にとっては、そんな出費は微々たるものだ。

夕餉を終えて、浮竹と京楽は杯を交わしあう。

京楽がもってきてくれた果実酒を口にすると、食べ損ねた苺の味がした。

「苺の果実酒か・・・・」

珍しいものを、京楽は見つけたものだなと、浮竹は思う。

いつもの果実酒は柑橘系だ。たまに味わう違う味に、浮竹は嬉しそうだった、

おはぎを食べながら、どんどん飲んでいく。

幸いにも、アルコール度が低いせいで、飲み潰れることはなかった。

「今度また、新しい果実酒用意しておくから。またもってくるよ」

二人で飲んでいると、果実酒は尽きてしまった。

雨乾堂に用意しておいた、浮竹用の果実酒の封をあける。檸檬の果実酒だ。

今日は随分と飲むなと、京楽は浮竹の様子を見るが、別段普段と変わったところはなかった。

「俺の酒だと、飲み足りないだろうが・・・・・・」

喉が焼けるような日本酒をいつも、京楽は飲んでいる。でも、たまには浮竹の好むような甘い酒もいいなと、京楽は浮竹から酒をもらってそう思った。

「たまには、君の飲むようなお酒も、いいもんだよ」

口に含んで、浮竹に口づければ、檸檬味の酒が浮竹の喉を流れていく。

「ん・・・・・・」

こくりとなる喉の白さに、眩暈を覚えた。

京楽は、また浮竹に口移しで飲ませる。

「美味しいかい?」

「ん・・・・・京楽も、飲め・・・・・・」

浮竹から口移しで飲まされて、その甘さにまた眩暈を覚えた。

浮竹を抱きしめる。浮竹は、素直にされるままだ。

このまま、流れに乗ってしまえばいいかもしれないが、そんなことをするためにここにきたのではない。

ただ、浮竹と酒を飲みに来たのだ。

扇情的な浮竹を前に、京楽は我慢した。

互いに、杯を交し合い、酒を飲んでいく。

夜は深まっていく。


二人は、夜更けまで飲みあって、結局京楽は雨乾堂に泊まっていった。