夏休みのある日







「一護、この問題の答えを写させろ」
夏休み。
蝉の鳴く声がうるさい。今年は冷夏だそうで、去年ほど暑くはないが、蒸し暑い。ジメジメとした湿気が多い。
「おまえなぁ。一応は学生だろ。宿題くらい自分でしろ」
「私はそれどころではないのだ。忙しいのだ。だから宿題を写させろ」
ルキアは、ごそごそと一護の机の上をあさって、数学の同じ宿題を発見すると、いそいそと中を写しはじめた。いかに死神とはいえ、一応は高校に通っているのだから、勉強ができないと困るのではないだろうかと思ったが、ルキアは勉強ができないわけではない。
水を吸収するように、授業にもすぐに溶け込んで優等生(見た目は)になってしまった。
一護より学力テストの順位は下だが、成績が悪いわけでもない。
一護は髪が目立つので、何かと教師や上級生に文句をつけられやすいので、わざと成績を上位を常に保っていた。
「この問題は解いていないではないか。私が解いてやろう」
「あー、それ後でしようと思ってた問題・・・」
ルキアはすぐに解いてしまった。
「おまえさ。頭いいのか悪いのかどっちだ?」
「何をいっておる。朽木家の者たるもの、勉学も無論励まなければならぬ。目立たないように、成績はある程度加減しておる」
「ふーん。分かるなら自分で解けばいいのに」
「そんなめんどくさいことしてられるか」
ルキアはベッドによじのぼって、本を読んでいる一守の上にドスンと座ると、後ろからそのほっぺたをひっぱった。
「おまえは〜〜何がしたいいい〜〜」
「暇だ、構え」
「構えつったってな。ほら、コンとでも遊んどけ」
「ねえさあああん!!」
飛び出してきたコンを、ルキアは足でグリグリと何度も踏んづけた。
「ナイスアングル!」
見上げた時にルキアの下着が見えてコンはそのまま、ルキアに中身の綿が出そうなくらいにぞうきんのように絞られた。
「ああ、綿でる綿でるううう」

コンを頭に乗せて、ルキアは一護が持ってきたアイスを食べている。
こうしてみると、秀麗な顔立ちをしているのだが、言動がいかんせん。ルキアという存在を彩るものに華やかというものはない。ソウルソサエティで、着物をきて髪を結っていたルキアは、朽木家という大貴族の令嬢に似合いの格好で、とてもしとやかに見えたが、やはりルキアはルキア。
こうしてだらだらして、時に一護に蹴りをいれてひっぱたいて・・・そんなルキアのほうが、一護は好きだった。
「何を見ておるか。見てもアイスはやらんぞ」
「いらねーよ」
「浮かぬ顔だな。そうだ、兄様を専用の携帯電話で呼び出して、三人でトランプでもするか?」
「白哉はやめてくれ!あいつまじで俺殺そうとしてないか」
「そんなことはない。おまえを、ちゃんと認めている」
「いや、そんな気はしない・・・」
バンカイ状態でルキアに不貞を働いたとつめよる白哉に、認められたというのは敵としてだろうかと一護は頭の中で思った。

「まだ嫁にはやらん」
そういっていた白哉の後姿を思い出す。
あの白哉は、クールにみえてかなりのシスコンだ。
そしてルキアも超がつくほどのブラコンだ。
「兄様にも、機会があればこんなアイスを食べさせてあげたいものだ」
「今度ソウルソサエティにいくことがあればお土産に持っていけばいいんじゃないのか」
「おお、なるほどその手があったか。いや、やはり兄様を呼び出そう」
「俺、用事があるから」
逃げる一護に蹴りをいれて、その場に這いつくばらせるルキア。鳩尾にもろにはいった。
「兄様、ルキアです。アイスを、一護の家で一緒に食そうではありませんか」

かりにも隊長だろうに、白哉は。
なのに、妹によびだされてほいほいと現世にやってくる。
「おいしいですか、兄様」
「ああ」
すっかり居候と化した二人を見ながら、一護は机に向かって残りの宿題をするのであった。
蝉の声が、近くでうるさいほど聞こえていた。
そんな夏のある日。