京楽が、雨乾堂にきたのは夜の8時をまわった頃だった。 雨乾堂の板張りの廊下に、静かに降り立つと、乱れた浮竹の霊圧を感じた。 「浮竹・・・・・?」 雨乾堂に、勝手にあがりこむ。 ひょいと中に入ると、浮竹が苦しそうにしていた。 「浮竹!?」 発作でもおこしたのかと、駆け寄る。 赤い色はなかったし、ごほごほと咳込むこともなかった。 何が起こっているんだろうと、しばらく様子を見ていると、笑っているらしかった。 「あははははは、はははははは!」 笑いすぎで、苦しそうにしていたのだ。 「はははは!」 バタリ。 読んでいた雑誌を放り投げて、浮竹は畳の上を手で叩いて、音もなく笑っていた。 「何がそんなにおかしいんだい」 浮竹が放り投げた雑誌を見てみる。 陳腐なタイトルの小説がのっていた。 「僕は君にめろめろの凄い胸毛」 「胸毛が・・・・・あはははは」 なんでも、京楽を主人公にしたパラレル小説らしい。 「ドレス?僕がドレスだって?」 小説を読んでいくと、ドレスを着た京楽が、王子様のルキアに見初められて、初夜を共にしようとするのだが、胸毛がすごくてなんかすごいとこになっている小説。 「胸毛ビーム?なんだい、これ」 挿絵があるのだが、胸毛がすごいことになっている京楽がのっていた。 「女性死神協会の雑誌に連載中の、京楽受けの小説だ」 「はぁ?僕受けだって?」 京楽は、素っ頓狂な声をあげた。 「間違ってる!絶対に間違ってるよ!僕は攻めであって、受けじゃないよ!」 「安心しろ。相手は女性ばかりだ」 「そういう問題じゃないでしょ!」 「ちなみに俺受けの小説ものってるぞ。相手はお前だ」 「え、読みたい」 京楽は、雑誌をぱらぱらちとめくって、京浮の小説を見つけた。 内容を読んでいくと、京楽は朱くなって読むのをやめた。 「女性死神協会って、なんかすごいね。こんなものを堂々とのせるなんて」 「会員専用の雑誌だからな」 「なんでそんなの、持ってるの?」 「清音に借りた」 よくやるよと、京楽はため息をついた。 心配して損した。 ごろごろと、畳の上を転がった浮竹は、京楽の元にくると、その膝に頭を乗せる。 甘えているのは明白だ。 「キスして?」 甘えられるままに、屈んで浮竹に触れるだけの口づけをする。 「もっと・・・・・・」 せがまれる。 京楽は、浮竹を抱き起すと、その腕の中に閉じこめて深く口づけをした。 「ん・・・・・」 舌と舌が絡み合う。 クスクスと、浮竹は笑う。 まるで小悪魔だなと、京楽はその色香にくらりときた。 「今日は、抱いていいぞ」 ここしばらく、抱き合って眠るだけで、交わっていなかった。 OKサインが出たので、京楽は布団をだすと、浮竹を押し倒す。 「あまり、がっつくな・・・・・・」 体のラインをたどる手の動きが急速なので、浮竹は京楽の耳に囁いた。 「夜はまだ、これからだ・・・・・」 本当に、小悪魔のようだ。 乱れていく浮竹と一緒になって、白い闇に墜ちていく。 「愛してるよ、十四郎」 そう耳元で囁けば 「俺も愛している、春水」 と返ってくる。 その日は、流れのままに浮竹を貪った。優しく接したつもりだが、久方ぶりだったので少し無理をさせてしまったのかもしれない。 次の日、微熱を出した浮竹の看病をしながら、思う。 昨日の浮竹は凄かったと。 あんな浮竹を味わえるなら、陳腐な小説で笑っていたことなど、本当にどうでもいいことだ。 「愛している、春水」 浮竹は、微熱のことなど気にしていないのだろう。 「僕も愛してるよ、十四郎。薬を飲んで、少し眠りなさいな」 解熱剤を飲ませると、まどろんでいく浮竹。 その傍にそっと侍りながら、京楽は浮竹の白い髪を手で梳いていた。 「おやすみ」 白に墜ちる。 二人仲良く、寄り添いあいながら。 白に墜ちる。 ただ、愛し合いながら。 |