椿の狂い咲きの王







昔、王がいた。

その名を、狂い咲きの王。

冬に咲く、椿の姫を娶った。

やがて、椿の狂い咲きの王と呼ばれた。









「お前は朝顔に似ているな。瞳の色が、庭で咲き乱れる水色の朝顔にそっくりで綺麗だ」

まだ、髪が黒かった頃、幼馴染の少女にそういうと、少女は嬉しそうに照れて、いつも浮竹の後ろをついてきた。

肺の病にかかり、病気がうつっては困るのだと、少女の両親は浮竹から少女を遠ざけた。浮竹は髪が真っ白になった。

治ることのない病をかかえた浮竹を、少女の両親は汚いものを見る目つきで見ていた。我が子をそんな目で見るなと、浮竹の両親は少女の両親と縁を切った。

ほんの幼い頃の記憶・・・・・少女の名前はもう忘れてしまった。

でも、庭に植えて咲き乱れていた水色の朝顔と同じ瞳をもった少女に、確かに恋慕していたと記憶している。

今思えば、あれが初恋だったのだろう。

「どうしたんだい、浮竹」

「いや・・・・ちょっと、昔のことを思い出して」

京楽を酒を飲み交わしていた。

なんで、今のタイミングでこんな幼い頃の、忘れていた記憶が甦るのだろうか。

紫煙をくすぶらせる京楽の、煙草のにおいは嫌いではなかった。多分、どっちかでいうと好きなんだろう。

京楽からは、いつも酒と煙草と、あとなにか香水でもつけているのか、柑橘系の香りがした。





「たまには、気分を変えて飲みに行こうか」

高級の居酒屋に行くのかとおもったら、廓だった。

酒と豪華な食事が用意されていた。

しゃりんしゃりんと、簪の揺れる音がする。

座敷に通されて、数人の遊女が浮竹と京楽の元に侍った。

「気に入ったのなら、どの子でも、手を出していいよ」

冗談だろう。

浮竹は京楽を見た。

京楽は、珍しく酔っているらしかった。

「もっとも、僕がその前に君をさらっていくけどね」

やっぱり、冗談だった。

確かに、美しい女性と飲む酒はうまかった。少しアルコール度の高い酒を飲みほして、すみっこで震えている遊女に声をかける。

「そこの君。怖がらなくていい。何もしないから」

「でも護廷13番隊の隊長さんでありんしょ?わっち、とても勇気がでないでありんす」

たどたどしく、遊女の言い回しをする女性は、思ったより年がいっているらしかった。他の遊女が10代後半〜20代前半なのに比べて、30代の終わりと見てとれる遊女は、けれど美しかった。

その美しさは、他の遊女にはないものがあった。

「朝顔?」

瞳の色が、すごく稀な水色していた。

「君、朝顔か?いや、名前を覚えてなくて悪いんだが・・・・・その、俺は浮竹十四郎という。君、僕の幼い頃の幼馴染に似て・・・・・・・」

「シロちゃん?シロちゃんなの!?」

そうだ。思い出した。あの朝顔の水色の瞳をもつ少女は、いつも浮竹のことをシロちゃんと呼んでいた。

遊女は、名をカナといった。

なんでも思春期に両親を亡くし、莫大な借金が残った。年頃の彼女は貴族というわけでもなく、当たりまえのように冷たい世間に翻弄され、借金のかたに廓に売られ、廓を転々としては体を売ってきたのだという。

「お前を、身請けする」

気づくと、そう口にしていた。酒を飲みながら、二人の様子を見ていた京楽は、浮竹の言葉に驚いたようだった。

「でも、借金がかなりありんす・・・・・」

「俺が、なんとかする」

自然と、京楽を見てしまった。目と目があって、状況を理解したらしい京楽は、どさりともっていた金子を見せた。

「こんなに・・・わっちを身請けしてもおつりが出るでありんす・・・・・」

ごくりと、遊女の喉がなる。

「京楽・・・・・すまない、一つ貸しになる。甘えてもいいだろうか?」

「浮竹のためなら、金子を出すなんてさほど大したことじゃない。ただ・・・・・・」

遊女を身請けした場合、その妻か妾になるのが当たり前。大抵が妾で、別宅で囲うのだ。

「結婚することも、妾にすることも許さない。浮竹、君は僕のものだ」

侍っている遊女を蹴散らして、浮竹の元までくると京楽は浮竹と舌が絡み合うほどの深い口づけをした。

「ばか、こんな女性たちが見ている前で何を・・・・・・・」

「君たちもわかってるよね?浮竹に手を出したら・・・・・殺すよ」

カチリと、斬魄刀を見せる。京楽は本気だった。

元々、こんな廓に連れてきたのは京楽だというのに。女を買う廓で、女を買うどころか遊女が手をだしてきたら殺すのだという。
なんという矛盾だろうか。

「わっちは、どうなるでありんすか?」

カナは、京楽の殺気に震えていた。水色の瞳に涙をためて。

「カナちゃんっていったっけ。まともな金額の結納金をあげるから、どこかに嫁ぐといい。いい嫁ぎ先、探してあげるから」

浮竹が身請けするのだ。その後の人生まで世話をしてあげないといけない。

金を与えて放り出すこともできるが、それは浮竹が許さないだろう。

「そうだ。ねぇ、君たち、浮竹をね・・・・・・」

ごそごそと、遊女たちと話をする京楽の声は、こっちまで届かなかった。

遊女たちは、面白そうに、あるいはびっくりしたように反応して、最後は京楽の見せる男の色香にやられていた。



「こっちへ来るでありんす」

「足元に気をつけて」

カナのことは話がついた。明日には、身請けをして一時は浮竹の元にくるだろう。そこから、上級貴族の京楽の手で、嫁ぎ先を探させる。おそらく、下級か中級あたりの貴族の妻になるのだろう。

「さぁこっちへ」

誘われるままに、奥の座敷に踏み入ると、浮竹は隊長羽織と死覇装を慣れた手つきで脱がされてしまった。

「ええ!?ちょっとまってくれ!」

制止の声も空しく、襦袢姿にされる。そして、それも脱がされ、女ものの襦袢をまずは着せられた。

「!?」

何枚も女のものの着物を着せられて、手を引かれる。遊女たちは、白粉を浮竹の顔に塗るか塗らないかで、喧嘩しだした。結局、肌が元から白いので、白粉はなしにされた。

綺麗に整った足と手の爪を、綺麗に紅色でぬって、長い白髪を編み上げて、いくつもの簪で彩りを加える。

最後に、その桜色の唇に紅をさして、遊女たちは満足げに溜息をこぼした。

「わっちらより美しいでありんす」

「本当に」

「さすがは京楽様の想い人でありんす」

手鏡を見せられて、浮竹は天を仰ぎたい気持ちになっていた。

何故、京楽が廓に連れてきたのかが分かったというものだ。始めから、こう企んでいたのであろう。

「恥ずかしいなこれは・・・・・」

足元がスースーする。簪をたくさん飾った頭が重い。

浮竹は、花魁の恰好をさせられていた。



「京楽様、できたでありんす」

「いやぁ、ありがとう。・・・・・・・ほんとに浮竹かい?」

「俺以外の誰が、いるというんだ」

花魁姿の浮竹は、磨き上げられた立派な遊女に見えた。

女装姿・・・・・しかも花魁の恰好にさせられて、浮竹は気分を害していた。

「褥は、奥の部屋にありんす」

その先にまつものに、赤面する。

「それでは、わっちらはこれで。酒は置いておくので、好きにするといいでありんす」



カナも遊女も、去ってしまった、

浮竹はぷんすか怒っていた。まずは、それをなだめるのに必死な京楽。

「酒を注げ」

命令口調で、大きな杯に酒を注がせると、一気に飲み干した。

「酔わなきゃ、やってられん」

女装の趣味などない。何が悲しくて、花魁姿にさせられねばならないのか、納得がいかないようだった。

「いろんな浮竹を見てきたけれど、今宵の浮竹は本当に綺麗だね」

「そんな台詞で、ほだされるとでも思っているのか」

「思っていないけれど、本当に綺麗だよ・・・・・・・」

唇が触れるだけの口づけをされる。それから、京楽は酒を口に含むと、口移しで浮竹に飲ませる。

「この廓は、色子も置いてあるんだよ。その姿で見世に出れば、女も男も関係なく、人が群がるだろうね。想像するだけで、嫉妬心で身が焦げそうだ」

「こんな姿のどこが・・・・・・あっ」

首筋をきつく吸われて、痕を残されれる。見える部分で痕を残されるのが嫌いな浮竹は、京楽の手に噛みついた。

「痕を残すな・・・・・・」

綺麗に整えられた爪は、紅色に塗られていた。手入れをしていないが、爪は綺麗に伸びていて。

指先を口に含むと、浮竹は長い睫毛に彩られた瞳を伏せた。

「春水」

「愛してるよ・・・・・十四郎」

触れるようなキスを何度も繰り返す。

浮竹の鼓動の音が聞こえる。

京楽は少しずつ花魁の着物をはいでいく。帯をしゅるるとはずせば、最後に真紅の女物の襦袢があった。

「見るな・・・・・・」

手を交差して、目を塞ぐ浮竹の手をとって口づける。

「あっ」

襦袢の中に、手が入ってくる。全身の輪郭をたどる手の平の動きに、意識が集中してしまう。

何度も口づけられる。

「ん・・・・・っ」

舌と舌とをからませあい、お互いの唾液を混ぜて、歯茎をなめて口内を蹂躙する動きに、呼吸が早くなる。

「あっ」

胸の先端をやわやわともまれ、きつくつままれた。知らない間に性感帯にされてしまったその場所は、じんじんと疼いた。

「く・・・・・・」

もう片方を舌で転がされて、 声がどうしても漏れる。それがいやで、指を噛んでいると。

「声、我慢しないで聞かせて?」

そう京楽が甘く囁いて、指にキスを落とした。

膝で膝を割られる。

もうすでに限界なのだと主張する京楽の雄が、臀部にこすりつけられて、びくっと体が反応した。

「んっ」

内ももをはう手が、刺激で少し反応している花茎を手でしごいていく。

「あ、あ、あっ」

直接の刺激に耐え切れなくなって、浮竹は啼いた。

口に含まれ、じゅるじゅると唾液をすりつけられて、鈴口を吸うように舐められると、限界を迎えて射精した。

びゅるるるると勢いののった体液が、京楽の口の中へ。それを見せつけるように飲み込まれて、浮竹はこくりと喉を鳴らした。

「んっ」

潤滑油を手に塗り付けた指が、つぷりと内部に侵入してくる。はじめは1本。次に2本。最後に3本。

指をくわえこんだ蕾は、与えられる刺激に歓喜していた。

「・・・・・っ」

内部を解すように動いていた指が、前立腺をかする。そのもどかしさに、浮竹は涙をにじませる。

ぐりぐりと、前立腺をすりあげられると、飲み込み切れなかった唾液が褥に零れた。

「力抜いて?」

「やっ、そんな大きいの、無理っ」

浮竹の倍以上はある京楽の雄は、今にもはちきれんばかりだ。

「大丈夫、馴染ませるから。力、ぬいててね?」

「いっーーーーーー」

いくら潤滑油の力を借りれているといっても、本来はそんなことに使う器官ではないのだ。排除しようとする動きは、中をしめあげるのに似ていた。

「いった・・・・・・」

京楽は、馴染ませるといった通り、しばらく動かなかった。

「中が、吸い付いてくる」

「やっ、しらないっ」

ずくりと、腹の中で京楽が弾けた。

「?」

いつもなら、何度も突き上げてから果てるのに、今日はどうしたのだろうかと思う浮竹が、京楽を見る。

「君の中がよすぎて、いっちゃたよ。お互い、気持ちよくなろうね?」

「やめっ」

浮竹が抗議の声を出すのも無視して、京楽は動き出した。限界にまで広げられた内部を、何度もこすりあげていく。

「やあっ・・・・・・」

前立腺をすりあげられて、浮竹は啼いた。

「あ、あ、あ」

ぱちゅんぱちゅんと、浮竹の腰に京楽は雄を押し付けて内部を侵す。最奥を突き上げると、浮竹の翡翠の瞳から生理的な涙が零れ落ちた。

それを唇でなめとって、またぱんぱんと音がなるくらいに交じりあう。

「あーーーーーーーーーーっ」

浮竹が、前立腺をこすりあげられたことで、白い体液を弾けさせる。その根元を、京楽が手で戒めた。

「やっ、いきたい。やだっ、やだっ。いってるのに、侵さないでっ」

浮竹の鎖骨のラインにそって舌を這わせて、京楽は思い切り突き上げた。

「っ!」

手の戒めを解放すると、びくびくと浮竹の体が痙攣した。

オーがムズでいかされることを覚えた体は、精液を吐き出すことと中をいじられることで同時にいってしまっていた。

「やああ、もうやだぁっ」

ぐずぐずに、内側から溶けていく。

「っ」

どさりと、体を反転させられる。

浮竹の綺麗な背骨のラインを、舌がはい、指がなでていく。

髪を梳きあげられる。

ほんの刹那に見せられた優しさに、浮竹はぐすぐすになって溶けていく。

「もう一回、いいよね?」

「無理っていっても、するくせに!」

「ご名答」

体位が変わったことで、ごりっ内部をえぐる箇所がかわる。深く深く挿入されて、浮竹は声も出なかった。

「っ」

「おいで・・・・・・・・」

騎乗位になった。浮竹は、その体位があまり好きではない。

「やっ、奥までくるっ」

軽いとはいえ、浮竹も男だ。自分の体重で京楽の雄をかるがると飲み込む蕾がいやで、首を振る。

「これ以上、くるなっ、あ、ああっ!!」

下から何度も突き上げられて。簪が落ちていく。綺麗に結い上げられていた髪が、動きの激しさに耐え切れず、零れ落ちた。

宙をまう白い髪が綺麗だと、京楽は思う。

「好きだよ、十四郎」

「あっ、あっ!〜〜〜〜〜春水っ!」

腹の奥で、京楽が弾けるのがわかった。じんわりとした熱が広がっていく。

京楽の形を覚えこまされたそこは、潤滑油と互いの体液がまじりあって、濡れていた。

「女の子みたいだね、十四郎?こんなにここを濡らして・・・・・」

「やっ、知らない!」

もう交わるのはいやだとばかりに、浮竹は京楽が去ってもまだ火照っている体を見られないようにと、女ものの襦袢で体を隠す。

足首を掴まれた。

ちゅっと音がなるキスがされる。

「あと1回・・・・ね?浮竹も、まだ熱をもっているようだし」

「いやだっ!」

拒絶の言葉も構いなしに、また京楽のペースで侵されていく。

「この性欲の塊がっ!」

最後は、浮竹がもてる力をふりしぼって京楽に頭突きをしたことで、呆気なく終わった。



廓の湯殿をかりた。

死覇装で見えない場所にいくつも痕を残された。

「んー」

京楽の手で、髪を洗われるのは好きだった。

「お姫様、どうかご機嫌なおして」

「誰が姫だ、この性欲の権化がっ」

ぷんすかと、浮竹は怒っていた。女装させられただけでも頭にくるのに、男なのに同じ男である京楽に好きなようにされて散々啼かされたのだ。

「腰と尻が痛い」

「もんであげようか?」

「どこさわってる!このどすべがっ!」

「ぐげっ」

京楽の鳩尾に、肘をたたきこんで、浮竹はちゃぷんと湯船に浸かる。

ぶくぶくぶく。

意識を飛ばしたのは、いった瞬間くらいだ。後は熱にうなされたかんじに近いが、けっこうはっきりと覚えている。

今日中には、カナを身請けにこなければ。交わったあと少し眠ったので、もう朝方だ。仮眠もといりたいので、廓にくるのは昼過ぎでもいいだろう。

体を清めて、伸びている京楽を無視して、浮竹は湯殿からあがった。

「・・・・・・・・・椿?」

死覇装の上に、椿の花が置かれていた。

「もうそんな季節か・・・・・・」

冬も、大部深まった。

くすくすと、子供の笑い声が聞こえた。色子になる前の子供たちの声だった。その輪に交じってしまうと、憐憫から子供たちを欲望の手から救い出したくなってしまうだろう。

だが、浮竹の財力には限りがある。

等しく接することもできない。一人だけなら救い出せるかもしれないが、その子を育て上げる自信もない。

隊長羽織まできちんと着ると、京楽が湯殿からあがってきた。

「おや・・・・それは、椿かい?かしてごらん」

椿を京楽の手に乗せると、京楽はそれを白い浮竹の髪に飾った。

「椿のお姫様だねぇ」

「バカをいうな。さっさと、雨乾堂に戻るぞ」

京楽のすねを蹴った。

「あいて。本当に、君は足癖が悪いなぁ」

体重が軽く体力に限りがある分、拳では不利で、威力の高い蹴りを主体とした体術を学んだ。

お陰で足癖が悪いと京楽に言われるがが、どうでもいい。

浮竹の白い髪に飾られた椿は、真紅の色をしていた。






                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        
昔、王がいた、

その名を、狂い咲きの王。

冬に咲く、椿の姫を娶った。

やがて、椿の狂い咲きの王と呼ばれた。