「ムキムキになる薬をぜひ。ムチムチじゃなくってムキムキになる薬を・・・・」 実験で忙しそうな涅マユリには言わずに、副官である涅ネムに、今度こそムキムキになる薬をと頼んでくる浮竹。 「さっきから騒々しいネ。浮竹隊長、一体なんなんだネ」 「ああ、涅隊長!ムキムキになる薬がほしいんだ。この前みたいな、ムチムチになる薬じゃなくって、ムキムキになる薬が・・・・・・・!」 この前、涅ネムがマユリに、浮竹隊長がムチムチになる薬を所望していると訴えられ、悪戯心もあって美女になれる薬と作ってやったというのに、それでは満足できないらしい。 当たり前だろう。 浮竹はムチムチの美女になりたいのはなく、バッキバキに腹筋の割れたムキムキになる薬が欲しいのだ。 「そんなにムキムキになりたいなら、ちゃんと食事をとって筋肉トレーニングをしていれば、自然とムキムキになるだろニ。それでは、不満なのカネ?」 「何度もちゃんと食事をして鍛錬した。でも、ムキムキになるどころか、発作で倒れて体重は減るわ、痩せるわで・・・・・・・・」 ムキムキになれないのだ。 バッキバキに割れた腹筋とか、一度でいいからなってみたいと熱弁すると、涅マユリは浮竹にぽいっとなんかの薬を渡した。 「ムキムキになれる薬だヨ。副作用には注意だがネ」 「ムキムキになれる薬!ありがとう、涅隊長!」 浮竹は、風のような早さで去って行った。 さっそく薬を服用してみた。 「養命酒の味がする・・・・・」 この前、日番谷隊長にもらった養命酒を思い出す。お菓子をあげすぎたせいか、怒った日番谷が皮肉の意味で送ってきた養命酒であったが、普通に浮竹は喜んでもらっていた。 「・・・・・・おおおおお」 エネルギーが、体に漲る。 筋肉がもりもりと、浮き上がってくる。本当に、浮竹はムキムキになった。その姿を京楽に見せたくて、雨乾堂を出た瞬間、ぽんっと音がして全身の筋肉が消えた。 「・・・・・・・・・あれ?」 念のために、薬の瓶の奥に入っていた説明書を読む。 「限定時間ムキムキになれる。効き目は個人別。ただし、副作用で子供の姿になる」 「ええええええ!?」 体が縮んでいく。ぶかぶかの死覇装と隊長羽織を着ているのがやっとの状態で、10歳くらいの子供の姿になっていた。 「清音!清音〜〜〜!」 「はい隊長〜おおおおお!?なんですか、そのかわいらしい恰好は!」 「また、薬で体がバグった。すまないが、日番谷隊長のところにいって、服を借りてきてもらえないか」 今の体で一番近い死神といえば、身長が133センチしかない日番谷だろう。私服も子供用だし。 清音は、なんとか日番谷の死覇装を手に戻ってきた。ただし、日番谷本人と松本も一緒に。 「やーんかわいい浮竹隊長!」 「うっ」 神々の谷間に押しつぶされる浮竹。 「子供になったっていうから、嘘だと思ってついてきてみれば、本当だったとはな・・・」 日番谷は、笑いをこらえていた。 同じ目線になった浮竹と、背の比べいあいをする。浮竹の方が若干高かった。 「くそ・・・・負けた」 「勝った・・・・・・じゃなくって」 いそいそと、日番谷の死覇装に着替えながら、浮竹は声を低くした。 「京楽には、内緒にしておいてくれ。あいつのことだ、俺がこんな姿になったと知ったら、きっと大変なことに・・・・・・」 「僕が、なんだって?」 にーっこりと現れた京楽に、浮竹は脂汗を浮かべた。 「浮竹の霊圧がすごく強くなった後に、急激に弱くなったから、何かおこってると思ってきてみれば・・・・・・まぁまぁ、かわいい姿になっちゃって。また、涅隊長の変な薬でも服用したのかい?」 こくこくと、無言で浮竹は頷いた。 女体化してしまったときは、交わっては元に戻れないと書かれてあったため、なんとか操は守れたが。 さすがに、子供姿になった浮竹に情欲はしないだろう。いくら京楽でも。 京楽は、軽々と浮竹を抱き上げた。 「肩車しようか?」 「いや、普通に接してくれ」 「無理でしょ。めっちゃくちゃかわいいからね」 雨乾堂の池に映る自分を見てみる。腰までの位置の長い白髪に、緑の瞳の・・・見た目は、髪のせいで思いっきり女の子だった。 「黒髪には、戻らないのか」 髪が白くなったのは、もっと幼い頃だ。 8歳頃だろうか。 日番谷が、浮竹にペロペロキャンディーを差し出した。 「食うか?」 こくこく。 頷ずくと、日番谷に頭を撫でられた。なんだか妙な気分だ。 「やーん、隊長、そうやってしてると京楽隊長と兄弟みたい。白髪と銀髪と髪の色も似てるし、瞳も緑色でおそろいだし」 松本は、絶えずきゃーきゃーと騒いでいた。13番隊の清音もいい勝負だが、松本にには勝てないだろう。 「わかめ大使だ。食うか?」 日番谷に好物になったわかめ大使を渡されて、また浮竹はこくこくと頷いた。 頭を撫でらる。 「少し、浮竹の気持ちが分かる気がする・・・・・・・」 日番谷に、お菓子を与えて撫でてくる浮竹の気持ちを。 「とにかく、その姿のままでは、これから何か任務がある時に支障をきたす。いつもとに戻れるのか、分からないのか?」 日番谷の問いに、浮竹は飲んだ薬の瓶に入っていた紙をまた広げた。 「副作用は、2日間続きます・・・・・・」 「やーん、浮竹隊長、現世にいって服かいにいきましょ!絶対かわいいの似合うから!」 「いや、いい。涅隊長のところにいって、元に戻れる薬がないか聞いてくる」 瞬歩をしようとしたが、できなかった。 仕方なく、京楽の腕の中に納まる。 「涅隊長のところへ。瞬歩でだ」 「はいはい」 京楽は、浮竹を頭を散々なでまわして、それから瞬歩で12番隊隊舎にやってきた。 「おや、珍しいお客人だネ」 「涅隊長。浮竹を元にもどす薬はないかなぁ?」 「ないネ。2日で自動的に戻れるからネ。解毒薬とかそういうのは一切つくってないヨ」 「だそうだよ、浮竹ぇ」 「もういい。雨乾堂に帰って、元に戻るまで閉じこもる」 世話は、清音と仙太郎がしてくれるだろう。 「勿体ない。子供なら、飲食店も半額だったりするよ。流石にお酒は飲ませれないけど」 飲食店が半額ときいて、おなかが減っていたのでわかめ大使を貪り食っていた浮竹が、問う。 「甘味屋もか?」 「うん、そうだろうね。いつも君がいってる店、12歳(見た目)以下は半額のはずだよ」 「そうか!」 浮竹の目が輝いた。 日番谷と松本も誘って、4人で甘味屋にいき、思う存分食べた。流石に今回は自腹だったが。 残った時間を、京楽が見守る中、子供目線で流魂街を彷徨い、同い年くらいの少年少女たちと仲良くなった。 2日という日数は、あまりにも早く過ぎてしまった。 大人に戻った浮竹は、あんな風にはしゃいで遊んだのは、肺の病を患う前のほんの幼い頃なので物足りなさを感じていた。 「もう少し、小さいままでもよかったかもな」 「勘弁してよ。大好きな君に、キスさえできない。何かしたら、性犯罪者になっちゃう」 「ははは・・・・・確かに、あんな子供の姿の俺に手を出したら、性犯罪者だな」 「そうでしょ?」 雨乾堂で、寄り添いあう。 子供の浮竹は活発で、元気があった。 だが、大人の浮竹は、落ち着いていた。元気はあるが、子供独特のものではない。 まだムキムキになれる薬は残っていたが、京楽が中身を捨ててしまった。 「子供は、純粋に残酷だよな」 幼い頃、遊び友達がたくさんいた。肺の病で血を吐いたとき、みんな悲鳴をあげて逃げ出した。 髪の毛が真っ白になった時、老人みたいだと指をさして笑ってくる。近づこうとしたら、病気がうつるからあっちへいけと石を投げられた。 院生時代にも、一部の上流貴族から、病がうつるかもしれないから近づくなと言われたことがある。 「君の白いその髪・・・・・・僕は、大好きだよ?」 「俺は、嫌いだ・・・・・・」 「君の髪からは、甘い花の香がする・・・・・・・」 京楽の肩に、頭をもたせかけて、浮竹は目を閉じる。京楽の動きがわかる。 触れるだけの口づけをされて、浮竹は目をあけた。黒い瞳と視線がぶつかり合う。 「愛してるよ、浮竹」 「俺も愛している、京楽」 二人で、寄り添いあう。 比翼の鳥のように。 ただ、静かに。 |