小鳥(IF







「ん・・・・・朝か」

隣を見ると、浮竹がいた。

「何かあったのか?」

浮竹もさっき起きたばかりのようで、まだ眠たげだった。

同じベッドで、ただ眠っただけなのだが、それが久しぶりすぎてなんだが、昔よりも気恥ずかしい。

「起きるのか?」

「うん。仕事があるからね」

「京楽が仕事ね・・・・人って、変われば変わるものなんだな」



総隊長となった京楽の一日は、忙しかった。

「手伝おうか?」

暇そうにしていた浮竹が、そう言ってくれた。

「この書類に、ハンコを押してくれないかい。もう読んだから、後はハンコ押すだけ」

簡単な仕事だった。

ぺったんぺったんとハンコをついていくが、すぐに飽きてしまった。

「外に出ていいか?」

浮竹が生きているということを、もうたさくんの人が知っているので、ダメとは言わなかった。

「やぁ、日番谷隊長は、いつまでたっても背が伸びないなぁ」

「そういう浮竹は、死んだくせになんで生きてやがる」

甘味屋の前で、日番谷と松本に会った浮竹は、言葉を交わすのが本当に久しぶりなのだと、嬉しげだった。

「京楽から、お小遣いをもらったから、何か食べて行こうかと思って。日番谷隊長もどうだい?」

「お前のおごりならな」

「よし、じゃあ決定だな。松本副隊長もおごるよ」

「えーほんとですかー。嬉しいー」

じゃらりと、持たされた金子を見せる浮竹に、日番谷はお茶をふきだした。

「なんつう額、持ち歩いていやがんだ!」

「いや、京楽がなんでもかっていいって、もたせてくれた」

「屋敷でも買うつもりか!」

「そんなに価値があるのか?この金子は」

世間知らずな浮竹を、かわいがるだけの京楽からは、煙草のにおいと京楽がいつも使っている柑橘系の香水の匂いがした。

「お前・・・・・まだ、京楽とできてんのか?」

「あ?いや、一緒に寝ただけだが?」

「それができてるっていうんだよ」

溜息をこぼして、抹茶アイスを食べる日番谷に、浮竹はその頭を撫でた。

「ええい、鬱陶しいな」

「いやー、日番谷隊長といるとなごむなぁ。昔と、隊長副隊長が全然かわってて、正直話したことのない人すらいて悲しくなるんだが、日番谷隊長は変わらないな。髪型が少しだけ変わったくらいか?」

「そういう浮竹は・・・・死ぬ前より、顔色がいいな」

「ああ、もう肺の病はなくなったから。一度死んだ時よりは、健康だぞ」

けらけら笑う浮竹のところには、おはぎの皿が置かれた。

それを口にすると、浮竹は立ち上がった。

「シロに、餌やるの忘れてた」

「はぁ?俺のことか?」

「違う。京楽が飼ってる、小鳥のシロだ。この前猫の襲われて、籠の中で完治するまで飼っているんだ。その子の餌箱からにしてそのままなの、忘れてた」

京楽に、シロと名付けられた小鳥は、浮竹と同じ白い羽に緑の瞳をもつ野生の小鳥だ。本当なら黒い羽の色をしているのに、突然変異で色素が抜けてしまったのだ。

それがまるで浮竹のようだと、京楽は戯れにシロと名付けた。

可愛がるようになって、もう数年になる。

「すまない、日番谷隊長。お代はこの中から払っておいてくれ」

「おい、こんな額うけとれるか!きいてるのか、おっさん!」


浮竹は、瞬歩で1番隊の隊首室へと戻ってきた。

チチチチと、翼を羽ばたかせて怒っているシロを外にだすと、餌箱に小鳥用の餌をいれる。水もかえて、青菜もかえた。水浴び用の容器にも新しい水をいれる。

「浮竹?」

「ああ、京楽・・・仕事は、一区切りついたのか?」

「うん。今日の分は終わったよ」

「そうか。それならよかった。ちょっと、一緒に散歩でもするか?」

「そうだねぇ。天気もいいし・・・・・今度、花見に行こうか」

「ああ、もうそんな季節か・・・・・・」

チチチチチと鳴いて、シロが京楽の肩に止まった。

「よく、懐いてるなぁ。その種の小鳥は、人を嫌うはずなんだけど」

「君の分身と思って、可愛がってたんだ。そしたら、群れから弾きだされたようで、いつもこの近辺に住んでるよ」

浮竹の肩にとまった。そしてふんをされた。

「俺にはこうか」

「小鳥は、体の構造上すぐ排泄してしまうからね。仕方ないよ。僕も何度も隊長羽織にやられたし」

他愛ない話をして、手を繋いで人のいない道を選んで歩き出す。

小鳥は、どこまでも一緒についてきた。


青空が広がっている。

争いはもうない。

等しく訪れる平和に、浮竹は本当は自分は死んでいるはずなのにと、ふと思う。

でも、生きている。

生きている限り、京楽の隣にいようと、浮竹は思った。

それは、京楽のほうが強く抱いている願いだった。


小鳥は、青空の下を羽ばたき、飛んで行った。




浮竹は、花の神、別名「椿の狂い咲きの王」にもう一度命を与えられた。

浮竹は赤子の頃、両親がこの赤子が長生きをしますようにと、花の神に捧げられ浮竹は花の神に愛され愛児となった。浮竹の肌や髪から、花の甘い香がするのは、花の神に愛されている証。

この世界にもう一度生を与えられた。花の神の存在を、浮竹はまだ知らない。

ただ、この世界を生きる。

二人で----------------------------