「海に行こう」 雨乾堂に遊びにきてそうそうに、京楽は浮竹をそう誘った。 秋も終わり、冬がきた。 「この前は、雪を見に行こうといっていなかった?」 北の方にいけば、雪国になる。 「雪国ももちろん行くよ。でも、その前に海だ!」 「もう、冬だぞ?」 「何も、海にいくのが夏だって限られたわけじゃないよ」 「そうか」 「そうだよ。七緒ちゃーん」 京楽は、副官の名前を呼んだ。 「どうも、浮竹隊長、お久しぶりです」 やってきた七緒の姿をみるのは久しぶりだった。京楽が仕事をしないと、昔は雨乾堂にまでやってきて、その耳をひっぱって8番隊隊舎に帰って行ったりしてた七緒だが、最近は京楽がちゃんと仕事を片付けてから浮竹のところにくるので、顔を合わせるタイミングがなかったのだ。 「頼まれていたものです」 そう言って、七緒は京楽と浮竹に、ルアーのついた釣り竿を渡した。 「明日には、現世から戻ってきてくださいね。隊長格が現世に遊びにいくなんて、本当なら許されないのですから。京楽隊長が大量の仕事を数日で片付けたご褒美です。二人で、楽しんできてください」 「七緒ちゃん、ありがとね」 「別に・・・・・」 七緒は、瞬歩で雨乾堂から去って行った。 技術開発局に頼んで、作らせておいた義骸に、二人そろって入る。現世に遊びにいくには、死神姿では人々には見えないからだ。 別に見えなくてもいいだろうにとは思ったが、用意されてあったので義骸に入った。 「さてさて。技術開発歔欷に頼んで、穿界門’(せんかいもん)を開いてもらいますか」 通信機で、12番隊の技術開発局に連絡をいれて、穿界門’が目の前に現れた。 尸魂界に、海はない。 穿界門を通り、現世にくると海が広がっていた。 「本気だったんだな。何を釣るんだ?」 「ははははははは」 いきなり大声で笑う京楽に、浮竹はびっくりした。 「成功成功。さて、いきますか」 京楽は、浮竹から釣り竿を奪って、自分の分もあわせて、ポイッと捨てた。 それから、浮竹を抱きかかえて瞬歩で街中まで移動すると、衣服を売っている店に入った。 京楽は、上級貴族だ。金がありあまっている。 「いらっしゃいませ」 「この子と、僕に似合いそうな衣服を、見繕ってくれないかい」 死覇装と隊長羽織では、現世では目立ち過ぎる。札束のお金をちらつかせると、店員はカジュアルな今時の服装を浮竹に、シックな装いを京楽にと、見繕った服を渡した。 着換え室で着替える。着換えおわると、お互いにお披露目する。 「浮竹、似合ってるよ」 「そうか?でも、京楽も似合っているぞ」 「ありがとう」 お金を現金で払って・・・京楽は、浮竹の手をとって歩き出す。 「おい、どこにいくんだ、京楽!」 「ディズニーランド!」 「はぁ!?男二人でか!?こんな寒い中!?」 「そうだよ。たまには遊ばなきゃ。息抜きもかねてね」 結局、京楽に誘われるままに、ディズニー―ランドにいって、ミッキーマウスと握手したり、絶叫マシーンに乗ったり・・・・・その日のは、目まぐるしく過ぎて行った。 「楽しかったかい?」 「楽しいが・・・少し、疲れるな」 なにせ、何百年も生きてきたが、現世の遊園地やレジャーパークにきたのは初めてだった。 「でも、たまにはいいいかもな。こんな息抜きも・・・」 京楽は、クレープを買いに行った。浮竹に数種類の味のクレープを渡す。それを口にして、浮竹は目を輝かせた。 「やはり、現世のお菓子はおいしいな」 「きて、よかったでしょ?」 「そうだな」 クレープを食べにきただけでも、おつりがくる、そんな思いだった。 すっかり、夕刻になってしまった。 京楽は、フランス料理の店を選んで、浮竹と食事をした。値段とはりあうだけに、とても美味しかったが、料理の値段に浮竹は本当にいいのかと、京楽に聞いたくらいだ。 ここでも札束が飛んで行った。 どれだけもっているんだと思うが、現世は何事も金次第なので、黙っておく。 そして、夜になった。 「どこに泊まるんだ?」 「怪しいとこ」 「は?」 ネオン街につれていかれた。 尸魂界にある花街のような場所だった。 「あそこがいい。最近できたてで、いろいろあってベッドが回転するんだよね」 「京楽!?」 ラブホテルに連れ込まれて、浮竹は慌てた。 そんなつもりは全然なかったので、いきなりの京楽の行動に吃驚する。 フロントで自動でキーを手に取り、先にお金を払って部屋をとる。 ラブホテルの一室に連れ込まれて、浮竹は覚悟を決めた。 でも、京楽は浮竹の頭を撫でて、回転するベッドではしゃいでいた。 「京楽?」 「いやー現世は楽しいねぇ。この回転するベッド、一度体験してみたかったんだよね」 「その、しなくていいのか?ここは、そういう場所なんだろう?」 京楽は、浮竹を抱き締めて、触れるだけの口づけをした。 「ハッピーバースディ、浮竹。君が生まれてきたことに感謝を」 「京楽・・・・・・・・・」 わざわざ、浮竹の誕生日を祝うために、現世を選んでいろんな場所に遊びに連れて行ってくれたんだと思うと、目頭が熱くなる思いだった。 「ありがとう、京楽」 「愛しているよ、十四郎」 「俺もだ、春水」 回転するベッドをとめて、照明も普通なものにかえて、湯あみをして二人で豪華な広いベッドに寝転がる。 「現世で誕生日を祝われるのは、初めてだ」 「悪くないでしょ?」 「俺は、ただの魚釣りでもよかったんだがな」 傍に京楽がいれば、それだでいいんだと囁くと、京楽は嬉しそうだった。 「来年の僕の誕生日、期待してもいいかな?」 「ああ、何か考えておく」 現世でデートのような、こんな楽しい時間は作れないかもしれないけれど。 浮竹の誕生日の夜はふけていく。 たくさんの隊士たちに囲まれて、祝われるのもうれしいが、京楽と二人で穏やかな時間をすごすのも、浮竹をとても幸せな気分にしてくれた。 どうか、願うならば、こんな時がまた何十年、何百年と続きますように・・・・・ けれど。 その願いが叶うことは、許されなかった。 |