やちる







「うっきーお見舞いにきたよー」

「ああ、草鹿副隊長。お菓子、好きなだけ食べていってくれ」

雨乾堂にたまに遊びに来る草鹿やちるは、浮竹のお見舞いにきては、お菓子を食べて去っていく。

子供が好きな浮竹は、やちる用に用意してあったおやつをやちるに与えて、二人して清音がいれてくれたお茶をすすった。

「うっきー、少しは元気になった?」

その小さい体で、畳に座り込んだ浮竹の膝に乗ると、小さな手で額に手をあてる。

「うっきー熱あるよ?」

「ただの微熱だ。薬も飲んだし、大丈夫だ」

やちるの好きなようにさせていると、やちるは浮竹の白い髪を三つ編みにして遊んでいく。

「またくるね、うっきー」

ばいばいと手を振って、去っていく後ろ姿を見守ってから、浮竹はやちるの食べ散らかしたお菓子の後片付けをしていた。

「浮竹、入るよ」

「ああ京楽か。少し散らかっているから、ちょっと待ってくれ」

「やちるちゃんがきたのかい?」

霊圧の名残を察知して、京楽は苦笑した。

やちるがくると、浮竹は寝込んでいても歓迎する。少しばかり無理をする浮竹が心配で、京楽は浮竹の額に自分の額をあてた。

こつんと、小さな音がする。

「熱があるね。素直に、布団に横になりなさいな」

「いや、ただの微熱だ」

その割には、少し苦しそうだった。倦怠感を覚え、浮竹は京楽の前で、弱さを見せたくないのだが、京楽の手を借りて布団に横なった。

「水を・・・・・・」

コップにいれられた水を渡されて、その中身を飲もうとしたら、咳き込んでしまった。

「ごほっ、ごほっ」

ぱしゃり。

水をこぼしてしまった。

着物が濡れた。

京楽は、すぐにタオルでふいてくれたのだが、布団も濡れてしまった。

「新しい布団だしてあげるから。その間に、着替えれるなら着替えて」

京楽は、てきぱきと動いてくれる。

新しい着物に手を伸ばすと、眩暈を覚えた。どさりと倒れこんで、京楽が慌てる。

「浮竹!?」

「すまない・・・少し、眩暈がしただけだ」

額に手をあてられる。

微熱ですまない温度まで、体温はあがっていた。

「じっとしてて」

着替えさせられ、新しくしかれた布団に横たえられる。半身を起こすと、解熱剤と白湯を渡される。

「一人で、飲めるかい?」

白湯の入ったコップは、京楽の手で支えられていた。

「京楽・・・・・・」

「なんだい?」

「傍にいてくれ・・・・」

「いるよ。君が寝ても、傍にいるよ」

解熱剤の他にも、肺の病のための漢方薬をいくつかのんで、浮竹は布団に横になる。解熱剤に含まれる睡眠薬成分が効いてきたのか、浮竹は苦し気な様子から解放されて、まどろみだす。

「・・・・・・・寝てしまう。京楽ともっと話をしたいのに」

「いいから、寝なさいな。寝て起きれば、きっと体調もよくなっているよ」

「・・・・せっかく遊びにきてくれたのに、いつも寝込んでばかりですまない」

「慣れてるからいいよ。おやすみ」

目を閉じさせる京楽の手の暖かさを感じなら、浮竹は眠りにおちていった。




数時間寝て、浮竹はふと目覚めた。

隣に、京楽の寝顔があって、少しびっくりした。

ああ、寝ている間も言葉通りずっと傍にいてくれたのか。その気づかいが嬉しくて、浮竹は京楽を起こさないようにそっと布団から這い出した。

熱は下がったようだ。少し倦怠感が残っているが、肺のほうの発作も大丈夫みたいだし、薬がきいたのだろう。

いつもなら、浮竹が起きると同時に起きてしまう京楽なのに、今日は深い眠りに入っているのか、起きてくる様子がなかった。

清音に頼んで、夕餉を二人分もってきてもらう。

ぎりぎりまで寝かせてあげたくて、浮竹は京楽を起こさなかった。

京楽が、目を覚ます。

浮竹は、すでに夕餉を終えてしまい、文机で仕事をしていた。

「浮竹?熱はいいのかい?」

伸びてくる手を額に触れされて、安心させる、

「京楽、夕餉を食べて帰るだろう?」

「ああ、もうそんな時間か・・・・・大分、寝てしまったみたいだね」

「起こしたほうがよかったか?」

「うーん。でも、ちょっと仮眠しすぎたね。夜が寝れないよ」

「眠くなるまで、ここにいればいい。8番隊には、地獄蝶で連絡を入れておくから」

浮竹は、京楽の見守るなか仕事を片付けて、二人で湯あみをすませると、雨乾堂の外にでた。

星が綺麗で、甘い果実酒を飲み交わしあいながら、他愛ない昔話に花を咲かせる。

「山じいは妖怪だと思うんだ。千年前から、姿が変わってないらしいよ」

「元流斎先生は、長生きだからな」

夜風が少し冷たくなって、京楽は浮竹に上着を羽織らせた。

「季節の移ろいはあれど、夜は少し冷えるからね」

リーンリーンと、雨乾堂の近くにある草原から、虫の鳴く声が聞こえる。パシャンと、池の鯉がはねた。

「また、立派な鯉だねぇ」

「ああ、最近また増えた。どうしてだろうな?」

「さぁ・・・・・・・」

それが、やちるのせいであるとは、二人は露知らず。


夜は、静かに更けていく。