我慢







「一護、早く!」

その日は、ルキアの誕生日だった。

一護の贈り物は、「一日俺を自由にしていい券」

ルキアの誕生日をすっかり忘れていて、金を使い込んでしまい、ルキアの好きそうなものを買うことができなくて、いろいろ悩んだ結果の贈り物だった。

「待てよ、ルキア」

「次はあの乗り物に乗ってみたい!」

ルキアは紫色の瞳を輝かせていた。

すでに白哉からプレゼントをもらったのか、ルキアはチャッピーのリュックサックを背負っていた。

この遊園地にくる交通費と、遊園地に入る金は親父に頼み込んで借金して支払った。

ルキアは、「一日俺を自由にしていい券」を手にすると、顔を輝かせて本当に何をしてもいいのだな?と言ってくるので、何をしてくるのかと構えていたら、一護と遊園地に行きたいと言い出したのだ。

そのかわいい願いに、自然と頬が緩くなる。

「こんなことでいいのかよ・・・・・」

「そうだ。一度、貴様と遊園地に行きたかったのだ」

メリーゴーランドに乗って、ルキアははしゃいでいた。その姿がかわいかったので、ついスマホで写真をとった。

「次はこっちだ、一護!」

ジェットコースターだった。

「絶叫マシーンだぞ?大丈夫かよ」

「何、これくらい・・・・・・」

ジェットコースターが動き出す。どんどんスピードがでていく。

「わきゃあああああああああ!」

「ぬおおおおおおお!」

二人して、絶叫する。

「楽しいな、一護!」

ルキアは、衣服を風になびかせて、楽しげだった。

「はしゃぐのもいいが、そんな薄着だと風邪ひくぞ」

一護は、自分のしていたマフラーを、ルキアの首に巻き付けた。

「一護の匂いと温もりがする・・・・・・」

その言葉に、頬が朱くなる。

「次は、どれに乗るんだよ?」

「あれがいい。あれはなんというのだ?」

「あれは観覧車だ」

「行こう!」

手を引かれて、観覧車に乗る列に並ぶ。

ちらちらと雪が降りだした。

「雪か・・・・・貴様と雪を見るのも、初めてだな」

「ああ・・・・・・・・」

「はじめてのことだらけで、嬉しい」

本当に子どものように無邪気だ。

少女の姿のまま時を止めているルキアは、小柄で細かった。

観覧車に乗ると、ルキアは頂上で、一護に触れるだけのキスをした。

「なっ・・・・・・」

「今日の、お礼だ・・・・・・」

互いに、好きだと言いあった仲だ。だが、男女の関係には至っていなかった。

観覧車から降りると、手を繋ぎあって、歩く。

「貴様の手は暖かいな」

「ルキアの手は冷たいな」

そうだと、想い出す。苦し紛れに百均でかった手袋をとりだすと、一護はルキアの手にはめた。

「安っぽいけど・・・・・・ないよりは、いいだろ?」

「ありがとう、一護」

ルキアは、微笑んだ。

「ああもう!」

可愛い顔ばかりされて、一護はルキアを背後から抱きしめた。

「ルキア・・・・・・」:

耳元で囁く。

「たわけ!人が見ているではないかっ」

「見たいやつには、見させておけばいいんだよ」

「んっ・・・・・・」

深い口づけをすると、ルキアは甘い声をあげた。

一護はいろいろと我慢している。我慢しまくって、今までやってきたのだ。さらに我慢させられることなど、平気だ。

「家帰ったら、皆で祝おうか。ケーキ、買ってあるんだぜ」

黒崎家の住人とされているルキア。一護の父親に、行くところもないと涙で訴え、黒崎家に居候していた。

「もうこんな時間か・・・・・・・」

時計を見ると、夕方の6時をこえていた。

「夜景を見るのもいいけど、さみーしな。また今度な」

「また、貴様は誘ってくれるのか?」

「ルキアが望むなら。叶えられる願いは、叶えてやりてぇ」

「ありがとう、一護」

寄り添いあいながら、岐路につく。

ダイニングルームで皆でルキアの誕生日を祝って、ケーキを食べた。一護の妹たちから、ぬいぐるみをプレゼントされて、ルキアは嬉しそうだった。

一護の父親からのプレゼントは、セーターだった。

冬も大分深まった。

寒さに強いルキアは薄着でも平気そうだが、見ているこちらが寒くなるのだと、一護の部屋に戻ってきたルキアに、一護は自分の上着を羽織らせた。

親父のセーターに対する嫌がらせも兼ねていたが。

一護の父親は、ルキアを本当の娘のようにかわいがっていて、油断ならない。

ルキアを愛でるのは俺の特権なのだと、よく喧嘩しあった。

「誕生日、おめでとう、ルキア」

一護は、改めてルキアの誕生日を祝った。

「まだ、「一日俺を自由にしていい券」は有効か?」

「ああ、まだ0時になってないしな」

「では、抱き枕になれ」

「は?」

「いいから、ベッドに横になれ!」

ルキアの命令通りベッドに横になると、ルキアがすり寄ってきた。

何これ。どういう拷問だよ。

一護は、我慢しまくっていた。

「貴様は暖かいな・・・」

ルキアは、本当に無防備だ。一護が男であることを忘れているのではないかというほどに。

ルキアを腕に抱き寄せると、ルキアはくすぐったそうにしていた。

「これ、拷問かなにかか?」

「たわけ。だが、少しなら手を出していいぞ」

一護は、ルキアを抱き締める腕に力をこめる。それから、額に、頬にキスをする。

首筋を吸って痕を残すと、一護は止まった。

「虫よけ」

「なっ・・・・・・学校があるのだぞ!たわけ、貴様というやつは!」

朱くなって、怒り出すルキアをなだめる。

一緒のベッドに横になっていると、自然と眠ってしまった。

「ん・・・今、何時だ?」

「あー?夜の3時だ」

「もう、貴様を自由にできないのだな」

しょんぼりするルキアの頭を撫でた。

「俺でできることなら、叶えてやるよ。だから、そんなしょんぼりするなよ」

「どうして、貴様はそこまで私によくしてくれるのだ?」

「決まってるだろ。ルキアが、好きだからだ」

「私も、貴様が好きだ」

「一応、俺たち、付き合ってるんだよな?」

「そうではないのか?」

聞き返してくるルキアに、一護はルキアの黒髪に口づけた。

「いつまで、おあずけくらってればいいんだ?」

「たわけ。まだ付き合いはじめて1か月だろうが。まだまだ早い」

まだまだ我慢を強いられるのかと、一護は欠伸をかみ殺しながら思う。

生ぬるい、ぬるま湯のような関係だが、心地よくもある。

心を重ねているから。

絆は、消えないから。

「好きだぜ、ルキア」

一護は、ルキアを抱き締めたまま、またまどろむのだった。