桃太郎/I>







昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんはコンといい、おばあさんは恋次といいました。

「ちょっと待てえええ!なんでばあさんの役なんだ!」

恋次が叫びますが、物語の配役は一度決まってしまったら覆りません。

「おれもじいさんなんてやだよー」

コンは、もきゅっと音たてて泣き出します。


「うわあああん姉さん!」


とにかく、コンは山へ芝刈りに、恋次は川へ洗濯へ行きました。

するとどういうことでしょう。川上から、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてくるではありませんか。

「なんだ、桃?うまそうだな」

恋次は、桃を自宅に持ち帰りました。

「おい恋次!この桃はなんだ!」

「川で拾ってきたんだよ!」

「そんなあやしいものを食うつもりか・・・・」

「よだれたらすんじゃねぇよ!きたねぇだろうが!」

恋次は、桃を斬魄刀で一刀両断します。

「吠えろ、蛇尾丸!」

ボタボタボタ!

大量の血液と、肉片が飛び出しました。

中にいた桃太郎を、斬魄刀で切り殺してしまったのです。

「どどどどどど、どうしよう」

「そそそそそんなこと俺にいわれても」

「全くいきなりバラバラにするなんて、ひどいじじいとばばあがいたものだネ」

肉塊と血は渦巻き、一人の死神になりました。

「涅マユリ!」

恋次が叫びます。

桃から生まれてきたのは、ルキアでも一護でもなく、なんと涅マユリでした。

「普通、一護かルキアだろ!なんでお前が桃太郎なんだ!」

恋次の突っ込みを、マユリは聞いていません。

「さて・・・・・・きびだんごはここにあるし、刀は斬魄刀がある。よし、鬼ヶ島へ出発するとするかネ」

マユリは、コンと恋次を残して旅に出ます。

旅の途中、猿の一護と、雉のルキア、犬の白哉をきびだんごで仲間にしました。

「今回は猿かよ・・・・けっこうひでぇな」

「私も雉なぞいやだぞ。食べられてしまうではないか!」

「私は犬か。そして兄が主人か・・・・・・・・卍解」

「兄様、ここで卍解してはいけません!物語がむちゃくちゃになります!」

ルキアは白哉をとめますが、一護は我関せずというかんじで、白哉をとめません。

「たわけ!貴様も兄様を止めぬか!」

「ここで卍解したって、どうせ最後は鬼を倒してめでたしめでたしになるんだろ?涅マユリも不死身っぽい生き物だし、好きにさせたらどうだよ」

「ほう。兄はよく分かっているな。そんな兄にはこれを進呈しよう」

「わかめ大使・・・・・・こんなのいるかっ!」

わかめ大使のストラップを渡されて、一護はそれを投げ捨てました。

「ああっ、兄様!」

白哉の霊圧が高まります。

「散れ・・・・・千本桜」
「うわっ!いててててて」

たくさんの桜の花になった刃が、一護を襲います。

「白哉、俺が悪かった!」

「分かればよい」

「兄様、一護・・・うむ、何事も仲良しが一番大切だ」

「茶番はそこまででいいかネ。もう鬼ヶ島についたのだがネ」

マユリは、3人が争いあっているうちに、船をすすめ鬼ヶ島へとたどり着いてしまっていました。

「ふむ・・・・・鬼退治か。水の呼吸、壱ノ型 水面斬り!」

「うわあああ、ルキア、それ漫画違うから!鬼滅の刃になってるから!」

ルキアをとめている間に、マユリはいなくりました。

「鬼とはなんと希少な!実験体を確保しなくては!ここは、研究心が沸いてくる!まるで、楽園だネ!」

マユリの機嫌は最高潮でした。

一方残されたお供の一護とルキアと白哉は、真面目に鬼退治をしていました。

猿と雉と犬ですが、強すぎました。

向かってくる鬼たちを斬魄刀で切り倒し、ボスの鬼も殺して、マユリを置いて金銀財宝を手に入れ、桃太郎の家のコンと恋次の元に帰還しました。

旅の途中で、一護はルキアに惚れ、ルキアも一護に惚れ、二人は交際を開始しました。

「こんな金銀財宝などはした金。兄らにくれてやる」

白哉は四大貴族の朽木家の当主です。


義妹のルキアに、白哉は尋ねます。

「本当に、あのような貧相な男でよいのだな、ルキア」

「兄様!一護は貧相ではありません!確かに頭が悪そうなオレンジの髪ですが、高潔な猿です!」

「頭が悪そうで悪かったな。俺のこの髪の色は生まれつきだ。高潔な・・・まではいいけど、猿かよ!そこで物語通りにするな!」

なにはともあれ、ルキアは一護が好きで、一護もルキアが好きでした。

「結婚式を、執り行うことにする」

「兄様!?では、一護との仲を認めていただけるのですね!?」

ルキアの細い体を抱き上げて、一護は白哉に礼をいいます。

「ありがとな、白哉。いろいろあったけど、俺たちは二人でなんとかしていくから。貴族とかそういうしがらみ嫌いなんだよ。すまねぇ」

「ああ、一護!兄様、さよなら〜〜〜〜〜」

一護は、朽木家からルキアを攫いました。

白哉は、追ってきませんでした。

「それが兄の決断ならな、兄に敬意をひょうして、自由にすることを認めよう」

白哉は、大切な義妹を攫っていった一護を、怨みはしませんでした。

鬼が島に一人残ったマユリは、毎日鬼を実験体にして楽しく過ごしています。

おじいさんのコンも、おばあさんの恋次と適当に仲良く暮らしています。

「隊長、なんで屋敷にもどらねーんすか」

「兄には、関係のないことだ」

コンと恋次の家には、白哉も住み着いてしまいました。

「ははははは、鬼というのは最高な種族だね!もっともっともっと!もっと研究しつくしたいヨ!」

鬼が島での、マユリは、止める者が誰もいないので暴走していました。

一護とルキアは、都にでました。

もう、猿と雉ではありませんでした。

一護は死神代行として毎日働き、ルキアもまた死神として働きました。

二人は、いつも一緒でした。

心は、そこに在るから。心を重ね合わせて。

二人は、いつまでも仲睦まじく過ごしたそうです。







「んあ?変な夢、みちまったなぁ」

夜中に起き出した一護は、同じベッドで眠るルキアを起こさないように階下におりると、冷蔵庫をあけてペットボトルを取り出し、水を飲んだ。

部屋に戻ってくると、ルキアがベッドから落ちていた。

「ほんとに、寝相わりぃんだから」

ルキアをベッドの上に戻すと、一護もまたベッドに横になる。

ぴーぴーぴー

アラームが鳴った。

「なんだ、虚か!?それとも、破面か!?」

ルキアの伝令神機がなり、ルキアが飛び起きた。

「この霊圧・・・・・ただの虚か・・・・よかった・・・・」

ルキアが、ほっとする。

「俺がいってくるから、ルキアは寝とけ」

頭をぐしゃぐしゃと撫でられて、けれどルキアはチャッピーの義魂丸をのんで、死神化する。一護も、代行証を取り出して死神化すると、夜だしまぁいいかと、コンを体にいれなかった。

「行くぞ、一護」

「おう」

虚は、影に隠れてしまう能力のある、ちょっと厄介な虚だった。

だが、夜の闇の中で影はそうそうに生まれない。

なんとか二人連携をとって倒すと、一護はルキアの頬に手をあてて、血があふれる傷口を押えた。

「止血、しねぇと」

「大丈夫だ。この程度の傷なら、私の回道でも治せる」

頬にあてられた手に、手を重ねると、しばらく無言になった。

「・・・・・・・べ、別に貴様の手の暖かさが心地よかったとか、そんなんじゃないからな!」

「・・・・・・・・・俺だって、瞳の色がアメジストみたいで綺麗だとか、そんなので見惚れてたわけじゃねぇ!」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

しばらく、沈黙する。

「はははははは」

「ははははは」

そして、声を出し合って笑った。

ひとしきり笑いあうと、すっきりした。

いろいろ、最近精神がピリピリしていた。

破面が侵攻してきた。

守るために、この世界を軋ませないために、動かなければならない。

街を、人を、世界を。

守るために。

一護の部屋に戻ると、一護の体に勝手にコンが入っていた。

チャッピーの義魂丸が入ったルキアの義骸に、プロレス技をかけられていた。

「痛い、痛い!骨折れる!」
「コン!? 何、勝手に人の体に入ってんだ!」

「ぼきりとしてぴょんとなく〜」

ルキアが、チャッピーの義魂丸を回収して、義骸に戻る。

そして、一護の口に手をつっこんで、コンを出した。

「たわけ。夜とはいえ、体を無防備なままにするな。何が起こるのか、分からないのだぞ」

自分の体に戻った一護は、ルキアの頭をぐしゃぐしゃに撫でて、欠伸をした。

「こんな夜中に、誰も襲ってきたりしねぇよ」

その細い体のどこに、こんな力があるんだろうという勢いで、ベッドに押し倒された。

「私が、貴様を襲うことだって、あるかもしれないのだぞ?」

「冗談だろ・・・・・・・・」

「ふふっ。確かに冗談だ」

上からどいていくルキアの動きを制して、抱き寄せる。

「一護?」

「男を押し倒すなんて真似、俺以外にはするなよ?」

「いや、恋次にもするが?」

「だめだ!今度から、絶対俺以外にするな」

「変な奴だな」

「襲い受しそうな状況つくっといて、そうくるか!」

無防備なルキアに、一護が深い溜息をつく。誘っているとしか思えない行動を、ルキアはたまにとる。

一護の心配は尽きない。




水面が揺れる

ゆっくりと、静かに

時を刻んで


時はまた、動き出す

ゆっくりとゆっくりと



軋む世界の扉は開かれた