翌日、刹那とマリナをバーチャル装置に入れて、連結させた。 ティエリアも、バーチャル装置のマスターとして、はじめてバーチャル装置を利用するマリナにもしものことがないように、連結し、三人で仮想世界にダイブする。 「わぁ!なんて綺麗なの!」 マリナが感嘆の声をあげた。 咲き誇る花畑に、舞う蝶、吹き抜ける風。 五感で全て体験できる。 花の匂いさえ、一つ一つ違うのだ。色彩だけではない。 花をつみとって、蜜のある部分を吸い取ると、本当に蜜の味がした。 マリナは、嬉しそうに花畑を駆け回った。 それを、刹那とティエリアが見守る。 (マスター、おはようございます。マスターの脳波をキャッチしました、マスター・・・・) 「いいんだ。今は、そっとしておいてくれ」 (了解しました。AIマリアは、マスター、ティエリア・アーデの命令を従守します) 青空はどこまでも青く、白い雲はどこまでも白く。 泉の水はキラキラと太陽の光を浴びて煌く。 ひらひらと舞う蝶は、瑠璃色から翠、赤、橙といろんな色があってカラフルだ。 花畑の向こうには城があり、その向こうには城下町がある。 美しくさざめくエメラルドの森から、昨日のユニコーンがやってきた。 「まぁ、ユニコーン!素敵!」 マリナは駆け寄って、その白い綺麗な毛並みを撫でる。 ユニコーンは、気持ちよさそうにマリナに擦り寄る。 足元には、白い兎がピョンピョンとはね、狐がそれを狩るわけでもなく追いかけて、追いかけごっこをしていた。 「アザディスタンの王宮に戻ったみたい!ここまで美しくはないけれど、綺麗な花畑があったわ」 ティエリアは、刹那に白いテーブルと椅子を指差した。 「あそこで、二人で寛げばいい。お菓子と、最高級の紅茶を用意してある。味も感じれるはずだ」 「まさか、ただの戦闘用バーチャル装置がここまで変わるとは思っていなかった。ありがとう、ティエリア・アーデ」 「もともと、このバーチャル装置は人の夢をかなえるために作り出されたものだからな。戦闘用にするほうがおかしいんだ。僕は、現実世界に戻る。二人で、好きなだけこの空間を楽しんでくれ」 「ああ」 ティエリアは、仮想世界から消えた。 そして、二人きりになった刹那は、マリナの体を攫うように横抱きにする。 それに、マリナが刹那の首に腕を回す。 そして、ティエリアが用意してくれた白いテーブルと椅子があるところまでやってきて、二人は互いに椅子に座った。 「なんて綺麗な光景なのかしら。仮想空間というから、てっきりもっと粗末なものを考えていたわ。ここまでリアルだなんて」 刹那が、マリナの前にあるカップに紅茶を注ぐ。 それと一口飲んで、マリナが微笑む。 「おいしい」 「菓子もある。食べるといい」 勧められるままに口にする。甘い味が広がった。 二人は、そのままデートをするかのように仮想空間を楽しんだ。 花畑で二人で寝転がり、青空を見上げる。 「刹那の本当の名前は、ソランだったわね」 「ああ」 「綺麗な響き。もう、捨ててしまったの?」 「捨てた。俺には必要のない名前だ。たとえ、この世界から歪みがなくなったとしても、俺はもうソランに戻る気はない」 「綺麗な名前なのに」 「マリナ・イスマイールという名前も綺麗だ」 「ありがとう」 口付けをかわす。 花畑で、抱きしめあって倒れる。 蝶が、ロンドのように二人のまわりを舞った。 「いつか、アザディスタンも、こんな美しい景色をとりもどすようにするわ」 「ああ」 「いつか、アザディスタンを訪れてね?」 「マリナがいるのであれば、どこにでも会いにいく」 長い黒髪に口づける。 ブルーサファイアの瞳と、ルビーの瞳が交差する。 美しい、幻想的な景色。 現実ではありえない、神秘的な美しさ。 二人は、また抱きしめあう。 そして、刹那が起き上がって、花びらを摘んで花冠を作り上げた。 「まぁ、上手ね」 「昔、母が作り方を教えてくれた」 「そう、お母さんが」 刹那は、もう一つ花冠を編み上げた。 それを、マリナと自分の頭の上にのせる。 「刹那、まるで皇子様みたい」 「マリナは元々皇女だな」 鳥のさえずりが聞こえる。 ユニコーンが近くにやってきて、寝そべっている二人のそばにやってくると同じように膝を折って座り込んだ。 「ユニコーン。神話上の生き物ね」 「ああ。ティエリアは、わりと少女趣味なところがある」 「そうね。こんなに美しい風景を、戦闘にあけくれている男性が作り出せるなんて考えられないわ。ティエリアさんは、本当に美しいですもの。その思考さえ美しいのかしら」 「ティエリアは、少し変わっているんだ」 「そうね。何か不思議なものを感じるわ」 (・・・・・・・・・・刹那・F・セイエイさん) 「なんだ?AIのマリアか?」 突然響き渡った声に、刹那もマリナも身を起こした。 (マスターの身体が異常でした。体温が37.6度をこえていました。マスターの平熱は普通の人より低いです。どうか、マスターを助けてあげてください) 「ティエリア!!」 刹那は、叫び声をあげた。 そして、マリナを無理やり仮想空間から現実世界へと戻す。 「まぁ、大変」 その言葉のわりには、マリナはおっとりしていた。 37.6度といえば、熱が出ていることにはかわりないが、高熱ではない。 「ティエリアさん、風邪かしら?」 その言葉に、刹那が固まる。ティエリアは、刹那に口移しで薬を飲ませていた。感染していてもおかしくない。しかも、ティエリアは痛みというものに対する神経が通常より鈍くできている。同じく病気に対してもだ。 「ティエリア!!!」 刹那は叫び声をあげて、マリナを無視して、駆け出していた。 NEXT |