|
ハンター協会から指令のない、平和な朝の日。
キッチンで、ロックオンとフェンリルはケンカしていた。
フェンリルが食べるはずだったツナ缶を、ロックオンがサンドイッチにして食べてしまったのだ。
「こにょ、こにょ!!食い物の恨みは深いんだにゃ!!」
バリバリと、縦に追加で横にも顔をひっかかれたロックオンは、お決まりの台詞を吐く。
「いてえええええええ!!」
フェンリルは、子狼なのだが、語尾に〜にゃをつける子猫の姿をした精霊だ。それが、ティエリアのフェンリル、ゼイクシオンであった。
あまりのかわいさに、ご近所でもティエリアやロックオンが召還する精霊にも評判で、フェンリルがお買い物にいくと、その店ではおまけに多く商品をくれたり、値段をまけてくれたりととてもお得。
ティエリアが買い物にいってもそうなのだが、フェンリルはティエリアの手伝いをしたがって、一人でお散歩のついでにちょっとした買い物をしてくるのが最近の趣味だった。
「このにゃにゃにゃにゃ!!」
猫パンチは、子猫の姿のせいで足が短いのでロックオンには届かない。
首根っこをつまみあげられて、フェンリルはフーっと毛を逆立てる。
「ファイアだにゃー!!」
炎のブレスを吐いて、ロックオンの頭をアフロにした。
「ああああ、俺の髪がああああ!!」
「おまえにゃんて、アフロがお似合いにゃ!一生アフロで過ごせにゃ!このエロヴァンパイア!また主にエロいことしたにゃ!主、疲れて起きてこないのにゃ!!」
2Fでは、昼になったというのにフェンリルの主であるティエリアは、ベッドに眠ったまま起きてこない。
昨日、ロックオンとティエリアの寝室からは、ティエリアの掠れた喘ぎ声が聞こえていた。
「たまってたんだもん。1週間してなかったから」
「加減ってものを知れだにゃ!!」
フェンリルが、ティエリアのベッドに飛び乗ってティエリアを起こしにいくと、だるいので今日はずっと寝ているとティエリアは言った。
主に構ってもらうことができずに、フェンリルの機嫌は悪かった。
「お前、フェンリルのくせに炎のブレスなんて吐くなよ」
ロックオンの手から逃れたフェンリルは、ロックオンに今度は氷のブレスを吐いていた。
カッキーンと顔を凍らせて、ロックオンは椅子に座る。
アフロの髪型のまま顔だけ凍らせたロックオンは、いつものかっこよい男前も何処へやら。ただの大道芸人かアホに見える。いや、アホだろう。
「僕は母上がハイサラマンダーなのにゃ。だから炎のブレスも吐けるすごいフェンリルなのにゃ!」
えっへんと威張るフェンリル。
「ほーれほーれ」
ロックオンは、顔の氷を溶かしてアフロの髪型を魔法で元に戻してから、猫じゃらしを取り出してフェンリルの前でわざとらしく揺する。
「にゃ!!」
フェンリルの前足が、猫じゃらしを捕らえようとする。
「ほれほれ」
「にゃにゃにゃ!猫じゃらしの誘惑には勝てないのにゃあああああああああ」
フェンリルは、猫じゃらしを両手で掴んだし、飛び跳ねたりして、本当の子猫のように無邪気に遊ぶ。
「お前もなぁ。かわいいんだけどなぁ。ティエリア取り合うライバルだもんなぁ」
「そうだにゃ!主は僕のものだにゃ!ロックオンとはライバルにゃ!男ならせいせいどうどう、勝負するにゃ」
「勝負してるだろ。ほーれほーれ」
目の前で動く猫じゃらすの誘惑に勝てないフェンリルは、猫じゃらしを捕まえようと飛び跳ねる。
「にゃんにゃの、体がとまらにゃいの!にゃんにゃの!!」
「それが、本能ってやつだよ」
「にゃああああ!悔しいのにゃ!!」
ロックオンが猫じゃらしを止めた瞬間をねらって、シャキーンと爪を伸ばしてフェンリルはロックオンの顔をひっかいたあと、がじがじと頭をかじる。
「にゃー!ロックオンに勝利したにゃ!」
ロックオンは頭から血を流してテーブルにつっぷしていた。
「ふあああ・・・・フェンリル、おいで」
「にゃ!主にゃ!」
惰眠を貪っていたティエリアが、体の不調を命の精霊リーブでなんとか元に戻してもらい、2Fから降りてきたのだ。
フェンリルは嬉しそうに、ティエリアの頭によじ登る。
そこか、ティエリアの腕の中がフェンリルの定位置。主であるティエリアの頭の上にちょこんと乗るのが、フェンリルは大好きだった。
視界が高くなって、いろんなものを見下ろせる。
ティエリアは、普段着に着替える。ふわふわしたミンクのコートに、半ズボン、白いニーソ、白のブーツ。ロックオンの趣味丸出しな私服であった。ティエリアの持っている服は、簡素な長衣がほとんどで、その下にズボンをはいて昔はよく戦闘に出ていた。今では、ロックオンの趣味な服ばかりが揃っている。女の子の衣服も多い。ティーンズ向けの少女のファッションを、ティエリアはロックオンと出会ってから着るようになった。
かわいいと契約した精霊にも評判だが。ティエリアはどちらかというとユニセックスな服を好む傾向にあった。
美しい少女のようなティエリア。永遠の中性。
ティエリアは、いつこのように腰のホルダーに2丁の拳銃をしまいこみ、コートの裏側には銀の短剣をしまいこんで、リュックサックに聖水やヴァンパイアの灰をつめこむカプセルなどを入れて、外に出る。
ちゃんと施錠してから、ティエリアはお日様を見上げて、もう一度大きな欠伸をしてフェンリルを頭に乗せて散歩に出かけた。
NEXT
|