「ここがフェンリルの国だ。ネイ、ティエリア」 ダークエルは、12枚の黒い翼を羽ばたかせて、精霊界へ二人を誘うと扉を閉じた。 しんしんと降り積もる雪深き国、それがフェンリル一族の住む国。 「さぁ。ここからどうする?私は報酬は受け取った。力はかそう」 ダークエルが12枚の黒い翼を広げる。大きな翼だった。両方あわせると5メートルはある。 「ゼイクシオンを・・・僕のフェンリルが何処にいるか分かる?」 ティエリアは、疼く痛みで熱をもった眼帯を抑えて、ダークエルに問う。 「ゼイクシオンか・・・しばし待て。探る」 ネイであるロックオンは、精霊界で精霊の個体を見つけることはできない。 血の神は、ヴァンパイアの神であって、精霊の神ではないのだ。力はあっても、個体を広大な精霊界から見つけることはできない。 フェンリルたちに質問したとしても、答えは返ってこないだろう。 だから、異端児と呼ばれる。 フェンリルが異端児であることはティエリアも承知であった。承知の上で契約を交わした。異端児は、普通精霊界では抹殺処分される。死。それが異端児に待つもの。 ティエリアの生まれた頃に似ていた。何度もできそこないのゴミは分解処分にかけられ、やっとティエリア・アーデが世界に誕生し、それでも異端児、力なき不要物と呼ばれた。 「待っていて、ゼイクシオン。君を、助けるから」 ロックオンもゼイクシオンを助けることには、無論賛成だ。 ゼイクシオンは、二人の大切な友人であり、家族なのだ。二人にとっては、かわいい本当の子供のような存在である。 「・・・・・・・・・北に塔がある。そこが、幽閉の場所。ゼイクシオンという個体の反応があった」 ダークエルは、北を指差す。 精霊神だけに、個体名だけで何処にいるのか場所が分かる。 「北に、行こう」 「おう」 ロックオンは、ナイトメアを呼び出して、ティエリアを前に乗せて二人を乗せたナイトメアは空を、北の方角へと走る。 「・・・・・・・・・フェンリルの精霊王ゼクノシアが、何故僕にゼイクシオンを託したのか分かる気がする。精霊界では、たとえ精霊王の子とはいえ、異端児は幽閉、いずれ処分される運命なのかもしれない。それを避けるために・・・・人間界に、わざと逃がしたんだ、父である精霊王は」 ティエリアが、ゼイクシオンと出会った当時のことを思い出した。 あまりに唐突すぎた出会い。精霊王の庇護はない、人間界で生きろという言葉。 精霊王の庇護でも、幽閉から出してあげることができなかったのだろう。そして、庇護とはきっと処分を避けることを意味しているのではないだろうか。 「まぁなぁ・・・・俺も精霊について詳しくしるほうじゃないけど。その種族と違う種族は結婚はできるし子供はできる。でも、生まれた子供は親のどちらかの種族になり、属性も一つなんだ。ゼイクシオンみたいに、火と氷、二つの属性を持つ個体なんて始めてみた。いろんな精霊王や精霊と契約してる俺がだぜ?精霊王に誘われて、精霊界に遊びにきたこともあるけど・・・・2つの属性を持った精霊なんて見たこともねぇよ。なぁ、俺の言葉あってるか、ダークエル?」 「ネイ。お前の言葉通りだ。違う種族同士で結婚しても、生まれてくる子は親のどちからの種となる。2つの属性をもつのは精霊界では異端だ。そんな異端児が生きていることが私にとっては驚きだ。普通なら、生まれてきてすぐに処分されるべき対象だ」 「処分なんて・・・・死なせたり、するもんか!!」 ティエリアは、手を握り締める。爪が食い込んで、血が滲んだが、こんな痛みも右目をくりぬかれた痛みも・・・ゼイクシオンが今まで生まれてきて、精霊界で扱われたその環境に比べれば。 「見えた。北の塔。通称、帰らずの古塔」 ダークエルがバサリと12枚の黒い翼を羽ばたかせ、風を切る。 「どうする?フェンリルの個体がいくつかこちらに気づいて、襲ってくるようだが」 「突破する!!」 ティエリアが、右手をさっとあげる。 「我が召還に答えよハイサラマンダー!!」 精霊界でも、召還されれば精霊はやってくる。 ハイサラマンダーは、炎の猛烈なブレスを、襲ってくる銀色の狼数匹に向けて吐く。 「ティエリア・・・・お前、ハイサラマンダーと契約したのか」 「いでよ、フェニックス!燃やしつくせ!フレア・フレーディア!!」 今度は、炎の精霊フェニックスを呼び出し、サラマンダーの炎のブレスに鳳凰の炎を追加する。 炎の爆発が、大気を振るわせる。 ロックオンは驚いていた。いつの間に、こんなに上位の精霊と契約したのだろうか。いくらネイであるロックオンの血族であれ、ロックオンが契約した精霊の力を借りることができるといっても、こうして直接召還はできない。まぎれもない、ティエリア自身の力。成長しているのだ、ティエリアは、確実に。ヴァンパイアハンターとしても、精霊を召還する魔法士としても。 二つの精霊を同時に召還し、使役するなんて、普通の魔法士にもできないこと。ティエリアは強くなっている。 フェンリルたちは、炎の威力に氷のブレスを吐いて対戦する。力は五分五分といったところだろうか。 「ヘルファイア!!」 ロックオンが、さらにそこに炎獄の吐息を追加した。 「ありがとう、ロックオン」 フェンリルは炎の勢いに圧倒されて、人型に戻って墜落していく。 戦いをする場合、精霊界では精霊は皆人型をとっているのだが、戦う場合は人間界で形どる、本来の姿に戻る。精霊王や精霊神など、もともと人型を多くとる場合は別だが。 ティエリアに召還されたハイサラマンダーは炎の蜥蜴の姿を、フェニックスは鳳凰の姿をしていた。召還されるまで、普通にさっきまで日常生活を送っていた二人は、やれやれと召還者の召還に応じて姿をかえて、精霊界の日常生活から飛び出して、力を貸してくれた。 NEXT |