血と聖水外伝「フェンリルを取り戻せ!」4







見張りのフェンリル種族の兵士二人は、上空での戦いを見て、ティエリアとロックオン、それに精霊にとっては絶対存在である精霊神ダークエルの姿を見て慄き、道を開ける。
二人の兵士は、フェンリル種族であるが、精霊界であるべき人型をとっていた。

そのまま、螺旋階段を登っていく。

牢獄がいくつか見えるが、中は全て空っぽ。
上へ上と登り、ついに最上階が見えた。
「おい、ほんとにここにゼイクシオンがいるのか?」
「ネイ、私を疑うのか?闇の精霊神だぞ、私は。それに報酬の覚悟する者の瞳も・・・・・ほら、こんなに綺麗な魔石になった。うっへっへっへ」
「あ、お前本性やっと現しやがったな!何が「私」だ。てめぇ、自分のこといっつもダークたんとか言ってるだろうが!」
「何、演出も必要じゃなかと?ダークたん、これでもがんばってん、うんすごいがんばってん。とっても神秘的に見えるようにがんばったんよ。でも私とか、普通の会話疲れるわ。すごいしんどい。やっぱ自然体が一番やね」
ダークエルは・・・・関西弁をしゃべるおかしな精霊神であった。
精霊は個体によって性格が違う。
いろいろと、濃い性格をもった精霊王や精霊神、普通の精霊が何人も存在する。

「にゃーん」
「ゼイクシオン!?」
鎖に繋がれた子猫と、それを無言で見つめる幼い少女が最上階の牢屋にいた。
7、8歳くらいの少女。人型をとったフェンリル種族だ。
「あー。ダークたんがあけたるさかいに」
針金をとりだして、ダークエルは牢屋の鍵を開ける。キイと、重い音を立てて、牢屋が開く。
粗末なベットに腰掛ける、幼い少女をティエリアは見つめる。
「君は?」
ふるふると、少女は首を振る。
「口が聞けないの?」
ふるふると、少女はまた首を振った。
「にゃーん」
「猫になる魔法かけられちまってるぜ、こいつ」
ロックオンが、完全な子猫になって言葉もしゃべれないゼイクシオンの頭を撫でる。
ゼイクシオンは、にゃーにゃーなきながら、かりかりと、壁を何度もひっかく。
ティエリアは、首に繋がれた鎖を銀の短剣で断ち切り、そしてボロボロになって傷だらけで泥だらけのその体を抱きしめた。
「帰ろうぜ、ゼイクシオン」
ロックオンが、ゼイクシオンをティエリアから受け取る。
「にゃーお、にゃーお」

「ダークたんの仕事はここまでや。フェンリルの精霊王ともめとうないさかいにな。ネイ、お前なら精霊界から人間界に通じる扉くらいなんとか開けれるやろ。じゃあな。おおきに。お邪魔しましたさかいに」
ダークエルは、漆黒の闇に塗りつぶされて精霊界の神の座がある神宮殿へと帰っていった。
ライフエルの弟ダークエル。美しいが、見た目よりも濃い性格、関西弁をしゃべる麗しい青年であった。見た目と性格が一致していなかったが、それもまた個性だろう。

ゼイクシオンを頭に乗せて、ロックオンは人間界へと続く扉をあける。
「さぁ、ティエリア帰ろう。フェンリルの精霊王がやってきたら厄介だ。お嬢ちゃん、鍵あけといたから・・・・逃げていいよ」
ロックオンが、膝をついて幼い少女の頭を撫でる。
「帰れ!さっさと帰れよ!!私は大丈夫。そのゼイクシオンの世話を命じられていたただの小間使いだから」
ロックオンはぶすーっとふてくされた。
「ああお前に言われずとも帰るとも!行こうぜ、ティエリア。こんな小間使いほっとけ」

ティエリアは、疼く右目を眼帯ごと押さえると、少女と視線を合わせる。
少女の右足と右手首には、鎖がつけられており、それはベッドで固定されていた。
首には、首輪がつけられていた跡が、血を滲ませている。衣装はボロボロで、見える皮膚には鞭打たれたような傷痕がいくつもみえる。銀色の髪はボサボサで、体からは異臭さえ漂っていた。
「なんか悪さして罰されたただのフェンリルのガキだろ?ほっとけ。ゼイクシオン以外に関わっても、こっちが不利になるだけだ。ゼイクシオンは精霊王が一度、人間界に連れ出した。精霊王の意思だ。ゼイクシオンだけなら、人間界に連れ戻せる。この子供は無理だ。ゼイクシオンと同じ牢屋に入れられてたってことは、何か罪を犯したんだろう。俺が精霊界を前に訪れた時は、子供の精霊が大人を殺すとこうやって塔の牢屋に入れられると聞いた。罪人を無理に連れていくと、フェンリルという精霊種族と敵対する可能性がある。流石の俺もそれは避けたい。かわいそうかもしれないけど、ほっとけ。このガキも、これでもフェンリル一族だろう。カギあけてれば、逃げ出せるさ」
ロックオンは、少女の鎖を引きちぎる。
「ほら。お前は自由だ。好きな場所にいけ」
蒼く澄んだ瞳は、とても・・・ブルーサファイアよりも美しく、気高く見えた。
孤高なる、瞳。

「帰れよ!」
パン!
少女が振り上げた手が、ティエリアの頬を張った。
「てめぇ!!」
怒るロックオンを、ティエリアは手で制した。
「ねぇ。素直になろう?帰りたいんでしょう?」
ティエリアは、少女の頭を撫でる。
その手を、少女はパンとはねのける。
「誰が!私はここにいたいの!!」
少女はティエリアを足蹴りする。

ロックオンが、人間界への扉を開く。
「行こうぜ」
ティエリアの手をとる。
ティエリアは、傷だらけの少女をベッドの上に座らせると、優しく優しく抱擁した。

「ゼイクシオン。帰ろう?大丈夫、僕が君を守るから。君は何も罪なんて犯していない。生きていることに罪も罰もないよ。君は、父である精霊王に愛されている。僕もロックオンも、君にいて欲しい。君を愛している」
ボロボロボロボロ。
少女の瞳から、たくさんの涙が溢れ出した。
「う・・・・うわわああああああんん」
泣きじゃくる幼い少女に、ティエリアは浄化の精霊を呼び出して体を清潔にさせてから、リーブの精霊を召還して傷を治してあげた。
「帰ろう、ゼイクシオン。僕の友達。君は、僕の親友だよ。僕の家族だ。大好きだよ。愛してるよ」
「ティエリア、ティエリア!!」
少女は、ティエリアに抱きついて、蒼い王の瞳から涙をたくさん流した。
蒼い瞳。
それは、フェルバルトさえももっていなかった、王の子である証。
蒼い瞳は、フェンリル王族の証。
 



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