「にゃにゃのにゃ!」 ロックオンの足にかじりつたフェンリルは、おまけとばかりにロックオンの顔もバリバリと縦横斜めにひっかいた。 「いってええええ!!」 いつもの日常の一齣になりつつある、ロックオンとフェンリルのケンカ。ケンカというか、フェンリルが一方的にロックオンを敵対視して、バリバリと顔をひっかいたり、頭をかじったりする。 全ては、主であるティエリアを巡る争いだ。 もっとも、ロックオンは慣れたもので、フェンリルをブラーンと摘みあげて、頭の上に乗せたり、猫じゃらしで遊んだり・・・ケンカというよりは、遊んでいるようなものだ。 「いつも仲がいいね、二人は」 「おうよ」 「にゃー。ロックオン成敗したにゃ!」 ロックオンの頭からひらりと飛び降りて、ティエリアのところにとことこやってくると、背中からうんせうんせとよじ登って、大好きな主であるティエリアの頭の上でふあああとフェンリルは欠伸をした。 ティエリアは、フェンリルをおろして、全身をブラッシングする。 「ああにゃー。アハンにゃー。きもちいいにゃー。にゃー。ああ、もっとなのだにゃー。ああ、だめ、だめなのにゃー。ロックオンから教えてもらった主のいい声の真似だにゃ」 すかさず、ティエリアの拳がロックオンに飛んでいく。 「こんな子供に、なんて破廉恥な言葉を教えているんですか!」 綺麗にきまった拳で、ロックオンは壁にふきとんで床に沈没した。 「だって・・・・ティエリアいい声で啼くんだもん」 悪びれもせず、床に倒れたまま、ロックオンはいつもの軽いかんじのへらへらした笑いを浮かべていた。 ティエリアは真っ赤になって。 「ロックオンのバカ!」 「ロックオンのバーカ、うんこたれ、だにゃ」 フェンリルを抱いて、ティエリアは外行きようの衣装に着替える。 フェンリルには、今日のティエリアの髪を結ぶ、銀色のリボンとお揃いのリボンを首に結んで、ティエリアはヴァンパイアハンターの道具を全てリュックにつめ、腰のホルダーに二丁の拳銃をおさめて、銀の弾丸を確かめてから、銀のロッドを折りたたんで、家を出ることにした。 ハンター協会から呼び出されていた。 早朝に、ハンター協会の使い魔「サボテンダー」さんがやってきて、ティエリアを召集し、命令を伝えるとの内容を教えてくれた。サボテンダーさんはジャボテンダーさんの子供で、居間にあったクッキーを食べてからハンター協会に帰還した。 「俺、放置プレイ?」 「そうです。放置プレイです。ハンター協会にあなたを連れていくと、そこにいるヴァンパイアハンターたちがあなたを怖がって・・・・・協会の上層部の方から、ハンター協会にはパートナーのあなたを連れていくなと命令されました。仕方ありません。すぐに戻ってくるので、待っていてください」 「あいよ。何かあったら、すぐかけるつけるからな。俺はお前のパートナーだ。それを忘れるなよ」 「ありがとう、ロックオン」 「ざまーみろだにゃー。主は僕と一緒にいくのにゃー。放置プレイ万歳!だにゃー」 ロックオンは起き上がって、ゴロリとソファーベッドに転がる。 新聞を広げて、手をティエリアに振った。 「では、いってきます」 「いってらっしゃい」 玄関を出て、扉に鍵をかけるとそれをリュックにしまいこんで、ティエリアはシルフの精霊を呼び出した。 「風よ我は身に纏う、ウィンドファーン」 シルフの風で全身を包み、空を飛翔する。 「フェンリル、落とされないようにしっかり掴まっててね」 「もちろんなのにゃ。落とされても僕も魔力で空飛べるから平気なのにゃー」 ネイの血族の証である翼で空を飛ぶのにはあまりなれていない。シルフの風で空を飛ぶのが、ハンター協会に出かけるいつもの交通手段である。 ハンター協会は町の外れにある。 大きな町なので、歩いていけば3時間はかかる。 緊急収集ではなかったが、歩くよりも空を飛べるなら空を飛ぶ。時間を縮小するにこしたことはない。早く命令の内容を聞いて、ロックオンの元に帰りたかった。 ティエリアの家は、ロックオンがいるあのホームただ一つ。 ハンター協会につくと、何人かのヴァンパイアハンターが入った応接室にいた。 「よお・・・・三ツ星のティエリアちゃん。相変わらず美人だなぁ。一発やらせろよ」 「パートナーはどうした?ティエリアちゃん、首筋にキスマークあるぜ。流石色でヴァンパイアマスターを従わせているだけあるな。毎日やりまくりか?」 「お前みたいな低レベルがよく生きてられるもんだ。イノベイターだからって調子のんなよ。あの腐れヴァンパイアマスターもいつか協会が退治するぜ」 三人のヴァンパイアハンターに囲まれた。 三人は皆胸に五つ星を持っている。三つ星のティエリアよりも上のヴァンパイアハンター。 「ロックオンのことを悪く言わないでください。五つ星だからって、あなたたちのような下種に僕は負けません」 「なにおう?」 「いい度胸じゃねぇか」 「輪姦してやろうか、この」 ティエリアを含めたリジェネ、刹那のイノベイターのヴァンパイアハンターはハンター協会でも特別な存在である。それを目の仇にするヴァンパイアハンターは多い。 「・・・・・・・・怒らせるなにゃ」 ティエリアの頭の上に乗っていたフェンリルが、げらげら笑う三人のヴァンパイアハンターに氷のブレスを吐いて凍らしてしまった。 「フェンリル・・・・ごめんね」 ティエリアは、凍りついた三人を無視して、協会の奥、選ばれた者・・・普通は七つ星をもつ者しか通されないハンター協会の長がいる場所へ通された。 NEXT |