「よくきたな、ティエリア・アーデ」 「はい。召集の知らせをうけ、三つ星ヴァンパイアハンター、ティエリア・アーデ、今もってハンター協会に参じました」 長は、若かった。普通は長というと老齢を想像するのだが、彼は三十代前半だろうか。男性としては美しい容姿を持った、華奢な体つきをしている。しかし現役のヴァンパイアハンターである。七つ星でもトリプルA、AAAを持つ数少ないヴァンパイアハンター。種族は人間ではなく、エルフであった。褐色の肌から、ダークエルフであろうことが分かる。 この世界には、様々な種族がヴァンパイアハンターについている。 エルフ(ウッドエルフ、ダークエルフ、エンシェントエルフ)、フェザリア(羽耳族)、ダークフォーリング(黒翼族)、セラフィス(白翼族)、エターナルヴァンパイア(夜の血族)、ビーストレス(獣人族)、エレメンス(精霊族)がこの世界の主な人間以外の種族。 エターナルヴァンパイアは血の帝国に住む者たち。裏のハンター協会で、皇帝の命令を受けて貴族たちがヴァンパイアハンターをしている。 エレメンスは、いわゆる召還され使役される精霊が人型をとった種族の総称である。様々な精霊が入り乱れており、精霊界から人間界に移り、人型のまま暮らすことを決めた精霊たちである。 精霊界のように、精霊族であるエレメンスだけが暮らす国が存在する。エレメント王国だ。 他の種族も、それぞれ種族だけの国をもっている。フェザリア共和国、エルフ民主主義共和国、ダークフォーリング皇国、セラフィス皇国、ビーストレス公国・・・・そして、有名なエターナルヴァンパイアと人間が共存するブラッド帝国。 どの国も、人間と共存しており、世界の80%を占める人間とうまく協和している。 様々な種族は、人間国家に自由に出入りできる。 だが、あまり人間世界に出たがらない種族もいる。人間を受け入れ、共存はしているが、ブラッド帝国の今は解かれた鎖国状態のような国もある。 それぞれの種と、人は結婚し子を儲けることができるが、どの種もハーフを嫌い、純血の種族を保つために、人間との婚姻は法律で禁止していた。 そうでもしなければ、種族が滅びてしまうのだ。ハーフばかりが生まれ・・・純血の種族がいなくなってしまう。 ヴァンパイアは人間だけでなく、上記の種族の血も吸うため、人間以外の種族からもヴァンパイアハンターが生まれる。他にも、魔の一種の生物なども・・・知能があれば、ヴァンパイアハンターになれる。 世界に蔓延るヴァンパイアを駆逐するためには、種族など選んでいる状況ではないのだ。 ヴァンパイアに血を吸われた者は知能のないヴァンピールと化して人々を襲う。それに血を吸われた人間もヴァンピールと化して・・・・とにかく、ヴァンパイアは人類だけでなく、この世界に住まう人型をとった種族全ての共通の敵であった。 「今回は・・・・お前でも駆除できる。相手はダークエルフのヴァンパイアだ。ヴァンパイアとの共存地区でロードに血族にされたが、ヴァンパイアとして生きることに快感を生み出し、人を殺戮するまさに「ヴァンパイア」の道を選んでしまった者。名前はシェゼル・ディーマ」 「ディーマ?長、ディーマの家名は・・・・・」 「仕方ない。ヴァンパイアの血族になることを自分で選んだのだよ、あの子は。ロード以上のヴァンパイアは血族にする者を選ぶからな」 「よいのですか。治癒術士に診てもらわなくても」 「もう遅いのだよ、ティエリア。シェゼル、我が息子は血族に迎えられた。ヴァンピールであれば、聖都の治癒術士に元に戻してもらえる可能性も高いが・・・・血族では」 ティエリアが所属するヴァンパイアハンター協会の長は、ダークエルフのシェキア・ディーマが治めている。 何百年も生きるエルフ種族。長は、腕を組んで、哀しげに目を伏せた。 「・・・・・・聖都から派遣された治癒術士よりも上のハイプリースト、リエット・ルシエルドになんとかシェゼルを診てもらったが、無駄だった。リエット・ルシエルドに吸血し、逃げ出した。リエット・ルシエルドは一命を取り留めたものの・・・。他に襲われたシスターたちはヴァンピールになることもなく死んだ。あの子は、もうヴァンパイアだ。殺してやってくれ。親である私が殺すのは辛い・・・・・すまない、こんな命令を」 「いえ・・・・了解しました。ティエリア・アーデは今もってシェゼル・ディーマの討伐にあたります」 「頼む。我が息子を灰にして、楽にしてやってくれ。今回は、ハイプリーストのリエット・ルシエルドが共に行動をすることになっている。君のパートナーと三人で、駆除にあたってくれ」 「はい」 ティエリアは、シルフの風を纏ってホームに戻った。 「・・・・・・・・」 「どうした、ティエリア。浮かない顔してるな」 「長の・・・・・子を、駆除しろと」 「どういうこった?長ってダークエルフだろ?」 「はい。長の子のダークエルフが、共存地区のロードヴァンパイアの血族になったのですが、殺戮を好むヴァンパイアになってしまったようで。排除命令がきました。長は、長であるが故にヴァンパイアハンターとして行動はそうそうできません。お気の毒に・・・」 「長の子か・・・あの長、俺は好きだけどな。俺のこと理解してくれるし・・・名前はシェキアだっけか。一緒にティエリアが他のハンターの人間から命令を受けているとき、よく一緒にお茶したなぁ。茶を運んでくるのが、長の使い魔のジャボテンダーで・・・ティエリアが持ってる、あのジャボテンダーと一緒だ。めっちゃかわいい」 「う、羨ましい・・・・ジャボテンダーさんにお茶をいれてもらうなんて!」 暗い雰囲気をなんとか明るくしようと、ティエリアも頑張っている。 「今回は・・・・ハイプリーストのリエット・ルシエルドという女性も同行することになっています」 「げぇ!リエットかよ!」 「何か・・・問題が?まさか・・・・昔の恋人とか、そんなおちありませんよね?」 部屋の空気が十度ほど下がった気がした。 「いや、まじでそんなんじゃないから!!」 ロックオンは、頬を引きつらせていた。 「にゃあ。ロックオンは嘘が下手だにゃ」 「ロックオ〜〜〜ン?」 バキボキと骨をならすティエリアに、ロックオンは投げ飛ばされた。 「まじで、ちげぇぇぇぇ!!」 投げ飛ばされながら、ロックオンは叫んでいた。 NEXT |