ティエリアは、ホームに戻る途中、よっていた町で声をかけられた。 相手は、真っ白な翼をもつエターナルヴァンパイアだった。貴族だろうか。血の匂いの濃さから、相手がロードヴァンパイアだと分かる。真っ白い翼を持つヴァンパイアを見ても、人は恐れない。裏のハンター協会はエターナルの貴族で構成されているし、町を歩ていることもある。人を襲わないヴァンパイアは、白い翼をもっているというのが、人々の思考であった。 「えっと・・・何か?」 相手は、額に第三の瞳を持っていた。 帝国騎士である。 今日別れたウエマという帝国騎士も、瞳に第三の瞳を持っていた。 帝国騎士は皆、瞳に第三の瞳をもつ。 それは、皇帝を裏切らないため。皇帝を殺すほどの力をもつ帝国騎士は、皇帝を守り、そして帝国を守る任についている。ブラッド帝国の民であるエターナルヴァンパイアも、そして共存している人間も両方守るのが、帝国騎士の役目である。 任を解かれて、相手を選んで警護するフリーの帝国騎士は実に少数である。任を解かれるのは、その帝国騎士が帝国騎士としてあまり向いていない場合だ。性格が主に問題であった。 アホすぎたりする帝国騎士は、フリーとなる。 ウエマはアホだから、リエットのパートナーの帝国騎士でいられるのだ。 「俺は、哀しんでいます。我が友を殺したあなたが憎い」 「え」 さっと、脳裏に今日退治したダークエルフのヴァンパイア、長の息子のシェゼルの顔が浮かび上がる。 「まさか・・・・あなたが、シェゼルを、長の息子を血族にしたロードヴァンパイア?」 まさか、帝国騎士だとは。 「帝国騎士が何故・・・・帝国騎士は、血族を持つことを禁止されているのでは」 「それは昔の話。今の皇帝メザーリア様は、帝国騎士でも血族を、友や、恋人を、血族にして同じ時間を生きることを許された。偉大なる皇帝メザーリア様。許しをもらい、第6共存地区、エタナリア6区を守るのが俺の使命です。そして、俺は共存地区に住んでいたシェゼル、友に出会った。そして、血族に迎えた・・・なのに、あなたが殺してしまった。もう、シェゼルはこの世界のどこにもいない」 「それは!シェゼルが、共存地区の人間を殺したから!!」 ティエリアは首を振る。頭に乗っていたフェンリルが、毛を逆立てて威嚇する。 「主は、悪くないにゃ!!」 「フェンリル・・・」 「そう、あなたはきっと悪くない。シェゼルは血の快楽を求めて人間を何人も虐殺した・・・・ヴァンパイアハンターに退治されて当然のことをした。でも、我が友であることは、血族であることは真実。シェゼルは、我が友であった・・・4百年以上生きて、やっと見つけた血族なのに!!あなたが殺した!!」 「だったら、何故あなたは止めなかったんだ!こんな結末を迎えてしまう前に、なぜ友を止めなかった!」 「おかしなことを言う・・・・人間の命など、守るに値しない」 その帝国騎士は、喉の奥でくくっと笑った。 ああ。 この帝国騎士の貴族は、帝国騎士でありながら、皇帝メザーリアの目指す人間とヴァンパイアの共存を知っていながら、人間は守るに値しない存在と吐き捨てる。 エタナリア区。 それは、ブラッド皇帝と人間の国が盟約をかわして作り上げた、人間とヴァンパイア共存の地。 いつか、エタナリア共和国を作るという皇帝メザーリアの願いを、まずは実現している古来よりある正当な共存区画。 ブラッド帝国以外にも、ヴァンパイアと人間が共存する国を。エターナルではなく、ただのヴァンパイアも受け入れる共存の共和国を。それが皇帝の願い。 ブラッド帝国は、エターナルヴァンパイアしか住めない。ただのヴァンパイアは帝国に住むことも許されず、その権利すらない。ただのヴァンパイアとエターナルヴァンパイアは違う。堕ちた天使と天使のように。 堕ちた者、それがただのヴァンパイア。 ただのヴァンパイアは血と殺戮を好む傾向にあり、血の絆で結ばれた夜の一族とも呼ばれるエターナルヴァンパイアとは種として違うものだ。 そして、貴族、皇族、皇帝以外はブラッド帝国の領地から出ると、ただのヴァンパイア化する傾向が多いため、多くのエターナルヴァンパイアたちは皇帝の庇護の下、ブラッド帝国で生き続ける。 「呪いを、受けるがいい。闇に囚われてしまえ!!」 そのロードヴァンパイアの帝国騎士は、ティエリアに向かって何か呪文のようなものを唱えると、そのまま白い皮膜翼をバサリと広げて、飛び去っていったしまった。 「・・・・・・なんにもない?なんだろう・・・・」 ティエリアは、飛び去っていったロードヴァンパイアの方角を見ながら、全身を確認するが、何も変化はなかった。 「とりあえず・・・・ロックオンが待っているホームに戻ろう」 ティエリアは、シルフの風をまとって、フェンリルを腕に抱いてホームに帰還した。 NEXT |