満月の夜は、魔の存在の凶暴性がまして、そして魔力が高まる効果がある。 ヴァンパイアたちは、好んでフルムーンの夜に狩りを行う習性がある。 「血と聖水の名においてアーメン!!」 ティエリアは跳躍すると、ホルダーから二丁の拳銃を取り出し、ヴァンパイアに向けて引き金をひく。 その銀の弾丸を腕に受けて、相手は腕を灰にしながら緋色になった濁った瞳でティエリアを正視してから、伸びた白い牙を唇からのぞかせる。 ハンター協会から、駆除対象になったヴァンパイア。 エターナルヴァンパイアが、皇帝の庇護もなく、帝国を出て、殺戮したいままに本能にまかせて堕ちたヴァンパイア。平民のエターナルは、ブラッド帝国を出てしまうと特殊な庇護が受けれずに、ただの人間世界を彷徨うヴァンパイアに堕ちる。 エターナルヴァンパイア、夜の一族としての誇りも全て失い、血を求めるだけの魔物となる。 「フェンリル、炎のブレスを!」 「はいだにゃ!!」 ごおおおおと、フェンリルが氷の属性とは反対の、炎の属性をもつがゆえに使える炎のブレスをヴァンパイアに向かって吐く。 その炎を全身に浴びながら、ヴァンパイアはティエリアに向かって伸びた牙をちらつかせ、ティエリアに襲いかかる。 「アーメン!」 ティエリアは、ヴァンパイアの牙に覗く口に銀の短剣をさしこんだ。 「ぎゃおおおお」 銀で口内を焼かれ、重症な火傷を負いながらも、ヴァンパイアはティエリアの細い肢体を攫って、その喉に、頚動脈に噛み付く。 「ああああ」 吸血される。 血が吸われていく感触。恍惚感に支配されるが、すぐにそのヴァンパイアの頭に銀の弾丸をたたきこんだ。 「ぐるあああああああ!!」 喉を、ティエリアの血液に含まれた水銀で焼かれたヴァンパイアは、のたうちまわりながら、苦しげに絶叫する。 「てめぇ、俺のティエリアに噛み付くなんざ、死ねよ!!」 その体を思い切り蹴り飛ばして、ロックオンは、ビームサーベルを取り出す前のティエリアを後ろに匿い、伸びた爪を尖らせてヴァンパイアの心臓を、狙い違わずに貫いた。 サラサラサラ・・・・・。 死体は、一瞬固まったかと思うと、真紅の瞳から光を失わせて灰となっていく。 その灰を、ティエリアはリュックから取り出したカプセルに入れて、殲滅対象の完全駆除、終了である。あとは、このカプセルをハンター協会に提出して、報酬金を指定の口座にいれてもらうだけ。 そして、また日にちがたてば、新しい排除対象の命令を受けて、パートナーのロックオンと親友であるフェンリルと共に、ヴァンパイアハンターを続けていくのだ。 銀色の月が新円を描く日。 フルムーン、魔力が最高に高まる夜は、ヴァンパイアの中に潜む魔の存在も高くなる。 ティエリアは、頭にフェンリルを乗せて、ハンター協会にカプセルをつめた灰を提出する。それを確認し、ハンター協会の人間はティエリアに新たな命令が来ていないかを確認してから、長の元にいき、ティエリア・アーデのヴァンパイア・ハンターとしての能力の向上もしくは命令の遂行度などを相談する。 長であるダークエルフのシェキアは、ティエリア・アーデの能力の向上が著しいことに気づいていたが、まだしばらく三つ星のまま様子を見るつもりであった。 いずれ、四つ星として昇進を伝えるつもりである。 ティエリアが所属するヴァンパイアハンター協会は、ダークエルフが長を務めており、裏のエターナルも多く、エルフやエレメンス、ダークフォーリング、フェザリア、セラフィスなど、多種族のヴァンパイアハンターも数多く登録されている。刹那とリジェネは登録されていない。違うハンター協会所属である。 「さて、帰ろうかフェンリル」 「はいなのにゃ」 今日は満月の夜だ。あまり、外にいたくない。満月のフルムーンの光を浴びていると、嫌がおうでも、自分の中に流れるロックオンの、ネイの血が騒ぎ出す。 人工ヴァンパイアのイノベイターは、普通のヴァンパイアと違ってフルムーンの月を見ても興奮したりしないし、通常であるが、ティエリアはロックオンに血を与えられ、永遠の愛の血族にされている。 ネイの血を与えられたヴァンパイアハンターであった。確かに体の中に流れるネイの血が、満月を見るとざわめいてしまう。 シルフの精霊を召還し、体にまとって、ティエリアは、ホームに帰還した。 NEXT |