もう一度出会うために「予兆」







パラレル注意!
ティエリアが、イノベーターとして生きていたらのお話。
ちなみに、リジェネも出てきます。
時間は2期。ロックオン生存で、ライルは出てきません。

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「リボンズ、ガンダムマイスターたちは殺さないの?」
ティエリアが、石榴色の瞳でリボンズの横にくると、ソファに座った。
ソファは最高級のもので、とても座りごこちが良かった。
リボンズの手が伸びる。
イノベーターの中でも、一番美しいティエリアに、リボンズはすっかり魅了されていた。
同じ容姿であるリジェネも美しいが、それをもこえる美しさである。
同じDNAでできており、リジェネとは対の存在となるティエリアであったが、無性の中性体ということもあって、まるで天使のように無垢で美しい。
リジェネはれっきとした男性だ。それでも、中性的な美しさは変わることはなかったが。
ティエリアの白い頬に、リボンズの手が触れる。
それを、リジェネの手が阻んだ。
「僕のティエリアに手を出さないでくれる?たとえリボンズであっても、許さないよ」
ティエリアと同じ石榴色の瞳で、リジェネがリボンズを睨みあげた。
リボンズも男性であるが、イノベーターたちは皆人形のように美しい。
そういう外見に作られているからだ。男性であっても華奢で、まるで少女のようにも見える。

「リジェネ、お帰りなさい」
ティエリアが、自分の半身であるリジェネに抱きついた。
「本当に、油断もすきもない。この前は、ティエリアとキスしていたね。全く、君ならいくらでも美しい女性を虜にできるだろうに。どうしてティエリアに手を出そうとする?」
「リジェネには分からないさ。ティエリアは、リジェネと同じ顔を持っているが、リジェネより美しい。本当に天使だ。どんなに美しい女でも、ティエリアの前では霞んでしまう」
「とかいいつつ、この前は例の財閥のお嬢さんとSEXしたくせに」
「この地位を保つためには仕方のないことだ。あの財閥の資金力は必要だからね」
「綺麗な顔して、ほんとに食えない奴だね、君は。君に食べられた女の子が可哀想だよ」
「なら、リジェネ、君が僕のかわりに財閥のお嬢さんと寝るかい?」
「はっ、寝言は寝てからにしてくれる?どうして僕が、下等な人間なんかとSEXしなきゃいけないのさ。僕の存在が穢れるよ」
リジェネは、ティエリアと違って感情の起伏が激しい。
一言でたとえるなら、女王様タイプだ。

「リジェネ、僕はこの前、ある財閥の御曹司からラブレターを貰ったんだ。資金面で協力するから、俺のものにならないかって。僕も、リボンズのように人間とSEXしないといけないの?」
心底嫌そうに、ティエリアが眉を寄せていた。
下等な人間とSEXするなんて、考えるだけでもおぞましい。
イノベーターは新人類である。
下等な猿とは違うのだ。
ただの人類は、イノベーターにとっては下等な猿に他ならない。

リジェネが、ティエリアを抱き寄せた。
「ああ、ティエリア、なんてことを言っているんだ。ティエリアが下等な人間なんかとSEXする必要はないよ!そんなこと、この僕が許さない」
「でも、あの財閥の資金力は必要だってリボンズが」
「リボンズ!!」
怒鳴り散らすリジェネに、リボンズは耳を塞いだ。
「その御曹司とやらの母親は、僕の熱烈的な信者だ。同じように、夫である男もね。イノベーターとしての美貌は、本当に役に立つよ」
小悪魔のように、クククと笑って、リボンズはテーブルにあったワイングラスを手に、それにワインを注ぐ。
注がれていく、血のような色のワイン。
それを、頭上に掲げる。
紅い影が落ちる。
「まるで、ティエリアとリジェネの瞳の色だな」
ゆっくりとワインの中身をまわし、口にする。
年代もものワインは、えもいわれぬ芳香と味をしていた。

リボンズは、ワインを全部飲み干すことはなかった。
リジェネに渡す。
リジェネは、迷うことなくその中身を口にする。
イノベーターたちはみな未成年に見えるが、その細胞は老化を知らぬだけで、実際の見た目より多く年を刻んでいた。
アルコールを飲むことも、決して法律違反ではない。
「僕も、飲みたい」
空になったワイングラスを手にしたリジェネに、ティエリアが羨ましそうな目をした。

ティエリアは、つい最近イオリアの研究所の地下深くで見つかったイノベーターであった。
量産型タイプのイノベーターの少年たちと同じ姿をしていたが、リボンズが目覚めさせた量産型イノベーターたちには皆欠点があった。
カプセルの中でしか、生命を維持できないのである。
唯一の、リジェネだけがカプセルの外に出ても生命を保てた。
他の量産型はゴミか。
とりあえず、処分に困るので、カプセルの中でまた眠らせておいた。
リジェネは目覚めたが、しばらくの間まるで人形のように動かなかった。リボンズは、リジェネも欠陥品かと思い、処分を考えていた。
だが、そのあまりの美しさに、自我を持たぬこのままでも、生きさせてみてもいいかもしれないと思った。
どのイノベーターよりも美しい、絶世の美貌。
リボンズは、今までこれほど美しいイノベーターも人間も見たことがなかった。
そして、リジェネは完全に覚醒した。
リボンズや他のイノベーターたちと同じように、イノベーターとして生き、そして世界を裏から操った。

あるとき、リジェネに封印されていた記憶が蘇った。
大きな姿見の鏡が、リボンズのいる邸宅に運び込まれた時だった。その鏡に映った自分の姿をみたリジェネは、半狂乱になった。
すぐに収まったが、自分には片割れがいるとリジェネは言い出した。
その言葉を、リボンズははじめ信用していなかった。
リジェネは、美しいが、やはり精神的にどこか欠陥品であるのだと思い込んだ。
だが、リジェネは脳量子波を使った。
今まで脳量子波を使えなかったリジェネが、まるで訴えかけるかのように、リボンズに脳量子波で自分の片割れの存在が、今もイオリアの研究所の地下深くに眠っているのだと。
リボンズは、そのときはじめて、リジェネを一人前のイノベーターとして認めた。
そして、自らリジェネと共にイオリアの研究所に出向いた。リジェネは、生前知っていたかのように、迷うことなく隠し扉を開き、地下の迷宮を迷子になることもなくティエリアの眠っている場所にリボンズを案内した。

ティエリアを見たリボンズは、その瞬間にティエリアの虜となっていた。
リジェネと同じ顔をしたイノベーター。
その体は男性でなく、女性でもない。無性の、イノベーターの天使。
目覚めたティエリアは、リジェネが目覚めた時のようにしばらく壊れた人形のように動かなかった。
そのまま、リジェネとリボンズはティエリアの体を、イノベーターたちが集うリボンズの邸宅に運び込み、空いた部屋の寝台に寝かせた。
懇々と、眠り続ける天使。
やがて起きたティエリアがはじめて口にした言葉は「ニール」という名前だった。
その名前は、確かガンダムマイスターの一人である青年の本名であった。
なぜ、眠っていたはずのティエリアがニールという名前を知っているのかは知らなかった。
そのまま、ティエリアはイノベーターとして覚醒する。
そして、リジェネの片割れのイノベーターとして生きた。

空のワイングラスを見つめるティエリアが、リボンズにねだる。
それに、リボンズも表情を緩めて、ワイングラスに少しだけワインを注いだ。
紅いワインと同じ色の石榴の瞳。
無性の天使は、ワインを飲み干した。
そして、酔ってしまったからと、一人バルコニーに出た。

ティエリアの瞳は金色に輝いていた。
「待っていて、ニール。僕はまた、あなたに出会う」
夜の闇に包まれ、ティエリアははっと我に返った。
「僕は、今何を言っていたんだ?」
不思議な表情で、下限の月を見上げた。




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