永遠の絆「人間になりたい」







永遠。
それが本当にあればいいのに。
永遠という時間が、本当にこの世界の何処かにあればいいのに。
時を止めた虚像のように。永遠を結ぶ、絆。

「ティエリア・アーデといいます。よろしくお願いします」
怜悧な氷の女王のような美貌は、性格もけっこうきつかった。少年なのか少女なのか判断のつかぬ中性的な美貌は、けれどたまに見せる幼い部分から、少女の色合いを濃く感じたのは何故だろうか。
美しいから、だから惹きつけられただけでは説明のつかぬこの感情。
相手が中性であると聞いて、余計に戸惑った。相手が異性、少女でも女性であれば、この感情も素直に受け入れることができただろうに。
分化することのない、永遠の中性体。
少女よりの、中性。
ロックオンは、ティエリアに惹かれ、恋をした。ティエリアもロックオンに惹かれ、恋をした。
ありがちな、小説のような展開。
惹かれあう二人は恋人同士となり、愛し合った。穏かに、ただ愛し合えたらよかったのに。

愛の中にある矛盾、憎悪がいつもティエリアの胸の中に渦巻いていた。
どんなにどんなに愛しても、彼はいつか置いていってしまう。どんなに愛されても、いつか忘れてしまう。
恐怖がティエリアを支配する。

「泣くなよ」
もう何百回になるかも分からない台詞を、ロックオンはティエリアに与えて、その紫紺色の髪をすいていた。
優しいロックオン。何故、彼が自分を慕ってくれるのか・・・・。疑念を抱いたことは何度もある。彼の愛は偽りではないのかと。
嘘と欺瞞。
でも、ロックオンはとても純粋な人だった。
テロを憎む、平和を愛する、けれど武力で世界から紛争を根絶するという大きな矛盾を抱えた、自分と同じガンダムマイスター。

いつか、こんな日がくるのは分かっていた。
だって、私は・・・・・・・・だもの。
どんなに望んだって、彼のようにはなれない。彼と同じ人間にはなれない。どんなに祈ったって、どんなに神に願ったって、私は・・・・・だもの。
人間になりたい。いつしか、ティエリアはロックオンの傍にいて、彼に包まれながらそう考えるようになっていた。
人間に、なりたい。
ロックオンは、ティエリアの頭を撫でていつもこう言ってくれた。
「人間になれるよ。お前は、もう立派な人間だよ」
本当に、その言葉通りなら良かったのにね。
言葉の通りになれたら、涙も零さないですんだのに。

ロックオンは、ゆっくりと確実に人間として時間を刻んでいる。
ティエリアは、17歳の容姿のまま時間がとまったまま。そこで永遠なのだ。その姿が、ティエリアの限界。それ以上年をとることはない。
だって・・・・私は・・・・・・・だもの。

「ロックオン。お願い、ずっと傍にいて」
「どうした?ちゃんと傍にいるだろ?」
「うん・・・・僕があなたを忘れても、僕はきっとまたあなたに恋をするから」
「不吉なこと言わないでくれよ」
ロックオンは多分、全てを知っていた。
なぜ僕が、ロックオンに異常なまでに依存しているのかも。なぜ、「あなたを忘れても、きっとまたあなたに恋をするから」といつも言うのかも。
全てを理解した上で、ロックオンはティエリアという存在を愛していた。

「愛しています」
「俺も愛してるよ」
唇を重ねると、彼の鼓動がトクントクンと聞こえてきた。
ティエリアの心臓も脈うっている。模造品のレプリカが。
涙は、白い白磁の肌を零れ降ちて、ロックオンの手の上ではじけた。

「人間に・・・・なりたい。あなたと、同じ人間に。人間になりたい!!」
駄々をこねるように、子供のように首を振るティエリアを抱きあげて、ロックオンはいつもティエリアに言い聞かせている言葉でティエリアを包み込む。

「ティエリアは、人間だよ。もう、立派な人間だ」
「そうだと、いいな」
ティエリアはあどけなく微笑む。

本当に、そうだったらいいな。
でも僕は・・・・・・だもの。
どんなに望んでも願っても祈っても、人間になんてなれるわけがない。

ティエリア・アーデ。
量産型、ほぼ有機物のみで構築された、人工バイオロイド。
果てしなく人間に近い、人間の体とほぼ同じ造りをした模造品。脳を司る部分には、記憶回路とナノマシン、そして脳に似せて作った有機物。働いているのは人工バイオロイドの心臓でもある記憶回路だ。
ナノマシンがティエリアをサポートしている。より、人間らしく見せるために。

「人間に・・・・なりたいよお、ロックオン、ロックオン」
ロックオンの服を掴んで、ティエリアは泣き出す。

食事もできる最先端科学技術をもって作られた、人工バイオロイド。有機物で大半はできているが、ロボットにはかわりない。腕が千切れれば、火花だって飛ぶ。
それが、ティエリアを形作るもの。物体。

「人間だよ・・・ティエリアは、人間だ」
泣き叫び続けるティエリアをあやしながら、ロックオンはエメラルド色の瞳を閉じた。

もうすぐ、ティエリアの定期メンテナンスの日だ。
機械の部分が不調を起こしているそうだ。脳にダメージを与えているらしい。原因は記憶回路。複雑になりすぎたティエリアの心が、ティエリアの精神を自ら壊しているのだ。
このままでは、ティエリアは完全に壊れてしまう。
だから、元に戻してもらうのだ。
真っ白な、ティエリアに。

「真っ白になっても・・・何度でも、お前を愛するから」
ミス・スメラギにティエリアが人工バイオロイドであり、人間ではなく半分機械であると聞いても、ロックオンは退かなかった。
もう、恋をして恋人同士になった後なのだ。
「覚悟はあるの?辛いわよ」
「覚悟はあるさ。何度だって、ティエリアに恋して、ティエリアを取り戻してみせるさ」
ロックオンは、ティエリアを愛すると決めたのだ。
たとえティエリアが機械でも。もう愛してしまった。
二人は、戻れないのだ。

カルマの愛。
愛しているのに一方はその愛で壊れ、忘れられる。

ティエリアが、本当に人間になれたらいいのにね。
ロックオンは、ティエリアを抱きしめながら、そんなことを思っていた。



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