翌日、ティエリアは定期メンテナンスを終えて帰ってきた。 「ティエリア!!」 ティエリアの大好きなジャボテンダーをもって、待っていたロックオンは、ティエリアの姿が見えると手を振った。ティエリアは、最初にあった氷の女王の表情そのままに、冷たくロックオンを見上げた。 「ティエリア・アーデ。あなたは・・・・ロックオン・ストラトス。それでは」 ロックオンは、こんなことではへこたれない。ティエリアが真っ白になったというのなら、またロックオンの色に染め上げるだけ。 ティエリアの顎を掴んで上向きすると、舌が絡むくらいのキスをした。 「ううん・・・・あなたは、なんて・・・・破廉恥な!」 パァン! 容赦もなく、頬を張られた。 「ほら、これお前の好きなジャボテンダー」 「これは・・・・うん・・・好きだった」 その言葉に、ロックオンは涙が出そうになった。 完全に真っ白になったわけではない。ティエリアの心は残っている。記憶回路のどこかで、ロックオンと愛し合った時のことをきっと覚えているんだ。 「俺は、今日からお前さんと相部屋だ」 「何故!ミス・スメラギに部屋を変えてくれるように頼んでくる!!」 「だめだ」 暴れるティエリアを抱き上げて、自分たちの部屋に向かう。 「あなたという人は!以前は、もっとこんな強引な真似は」 「以前?以前のこと、覚えてる?」 ティエリアの顔を覗きこむ。 「覚えてない・・・・私は、壊れて記憶回路が真っ白にされたんだ。以前のことなんて何も覚えてない」 「だったら、なんでジャボテンダー好きだって覚えてるの?なんで、以前は俺が強引じゃないって覚えてるの?」 「それは・・・・」 ティエリアの石榴の目が、ロックオンを正視することを拒み、天井を見上げてからさまよって、床に落ちた。 永遠は瞬間の連続。永遠は瞬間を内包する。 永遠は、確かにそこにある。二人を包み込んで。 「やり直せばいいんだよ。記憶回路が真っ白になったっていうんなら、また最初から」 「ロックオン?」 「愛してる、ティエリア」 「僕は・・・・本気か?僕は人口バイオロイド、半分機械なんだぞ?」 「それでも、愛してる。何度忘れられようとも、愛してる。お前だけを」 「あなたは・・・・愚かだ」 ティエリアは、トンと、ロックオンを突き放す。 このままでは、この人を、この人の未来を滅ぼしてしまう。 ティエリアは怖くなって逃げ出した。 人間の愛が理解できない。その大好きな人間の愛で、ティエリアは一度壊れ、初期化されたのだ。 トレミーの廊下を走って、やがてロックオンとネームプレートがかかれた部屋にたどり着く。 そのネームプレートを、そっと手でなぞる。 ずるずると、壁に手をついて、ティエリアは石榴の瞳からボロボロと涙を零しながら、しゃがみこんだ。 「人間に・・・・人間になりたいよ。人間になりたいよ、ロックオン。あなたと同じ人間にうまれたかった。人間がよかった。どうして僕は人口アンドロイドなんだ。人間になりたい・・・」 どんなに願っても、叶わない願いはある。 ロックオンが、やがてティエリアを追いかけてきた。 「どうしたんだ?」 「人間に・・・・なりたい、です」 「なれるよ。いつか絶対、お前は人間になれる。俺が人間にしてみせる」 「本当に?」 「ああ、本当だとも。だから・・・・また、愛し合ってくれるか?俺の手をとって・・・・俺を拒絶しないでくれるか?」 孤独な色を孕んだ翡翠色の瞳に、答えるかわりに瞼にキスしていた。 以前のティエリア・アーデの記憶回路はみた。 そこで、ロックオンと恋人同士であるということも知った。きっと、ロックオンは自分にその関係を求めてくるだろう。 どうするかはティエリア次第。 永遠は瞬間の連続。永遠は瞬間を内包する。 永遠は、確かにそこにある。二人を包み込んで。 「愛して・・・くれますか」 「愛するよ。誰よりも、お前だけを」 「愛しています・・・・」 愛は永遠。連続する瞬間の時間の永遠。 ティエリアは、人間としてロックオンと歩きだす。何度もメンテナンスを受けながら。記憶回路を取替えながら。 「僕は・・・・ロックオン一人を愛し、記憶することもできないんだね」 二回目の故障。 人を愛するという行為に向いていないのだ、ティエリアは。それでもロックオンを愛し続ける。 ティエリアは、天井に手を広げて笑っていた。 涙を零しながら。 「人間に・・・・なりたいよ。ロックオンのこと、忘れたくないよ!!」 狂ったオルゴールの奏でる哀歌。 NEXT |