永遠の絆「愛で壊れていく」







シンシンと降り注ぐ雪が、ティエリアの髪にも肩にも降り注いだ。
ロックオンは、その光景を見ていた。美しいティエリア。白い雪の中でも、煌いているようで。

身を切る北風を避けるように、人々は足早に家路へと急ぐが、それでも大通りに人影が絶えることはない。
道行く者は、必ずティエリアの傍を通る時、一度は振り返る。
ティエリアは興味なさそうに表情さえ変えず、ロックオンと並んで歩きだす。時折、降り積もる雪に視線を落とすが、人間の視線に慣れているティエリアは、その美貌ゆえに注目を集めることが多い。
白銀の中で、二人は手を繋いでロックオンの実家に向かって歩き続ける。

実家につくと、ロックオンは鍵をとりだして中に入った。
定期的にハウスクリーニングをしているので、そこに人が生活している匂いは全く感じなかったが、それでもロックオンが生まれ育った家なのだと考えると心も体も、何かとても温かいものに包まれている気がした。
「僕はこの家が好きです」
「ああ。俺も好きだ。だから処分せずに残していた」
いつだったろう。
ティエリアは、もう覚えていないが、確かにこの家にロックオンはティエリアを連れてきてくれたことがある。ティエリアが記憶回路をリセットする前のことだ。
リセットして新しい記憶回路を埋め込まれると、ティエリアは以前の記憶回路をスキャンして、少しだけ昔の記憶を取り戻していた。
でも、完全なものにならない。
ただ、そんな気がする。スキャンでは、その程度しかできない。

ほとんど真っ白に近いティエリアを、ロックオンは愛し続ける。
ティエリアの記憶回路が取り替えられたのは今で二回目。
つまりは、二回白紙状態になったティエリアを、ロックオンは愛しているのだ。ただ、愛し続ける。そしてティエリアもまた、恋人同士であったことを覚えているようにロックオンにまた恋をして惹かれ、愛する。

「荷物は置いて、レストランにでもいくか」
「はい」

ティエリアは、懐かしい気がするその家の部屋という部屋を探索した。
そして、寝室にきて立ち止まった。
首を傾げる。

ここで、何か大切なことがあった気がする。
分からない。
なんだろう。

「覚えてないよな。何度だっていうさ。お前をずっと愛し続ける。お前を守る。神に許されなくてもいい、法律に触れてもいい。お前と結婚したい」
「ロックオン・・・・だめだ」
「ティエリア?」
ティエリアは、涙で歪む視界の中、懸命に声を出した。
「ダメ。それ以上言わないで。僕が・・・・愛で壊れてしまう」
「ごめんな。愛してごめんな。俺がお前を愛さなければ・・・・お前は壊れてメンテナンスされて、記憶回路を取りかえれることもなく、普通に暮らせてたのに」

愛で壊れてしまうティエリア。
そう、複雑な愛の感情はティエリアをもてあまし、愛という重荷に歓喜すると同時に絶望を覚えた。
愛が単純なら、こんなに苦しんだりしないだろう。
人間だって、愛で壊れるのだ。人口バイオロイドのティエリアの繊細な感情には、刺激が強すぎるものだった。本来なら、こうなってしまった後はもう触れずにそっとしておくべきなんだろう。
でも、ロックオンはそれもできない。

もう、愛してしまったから。
何度忘れられても、何度もで愛する。何度でも覚えてもらう。
それがロックオンの愛し方。

「僕・・・・・忘れたくないよ。あなたのこと、あなたといた記憶、あなたと一緒にいれた時間、あなたと愛し合えたこと・・・・忘れたく、ないよ・・・・」
ロックオンの胸の中で、ティエリアは吐息を零す。
伝い落ちる涙の雫が、床で跳ね飛んで、そして世界から消えた。
「ごめんな。俺すごく苦しい・・・・お前を愛すれば愛するほどに、お前は壊れていく。でも、お前を手放したくない。愛されずにいられないんだ・・・・・ごめんな、ティエリア」
「愛で壊れたくないよ、ロックオン。あなたのことまた忘れたくない。真っ白にされたくないよ。あなたといるこのかけがえの時間を、ずっと覚えていたいよ」

僕が人間なら。
人間なら、ロックオンを困らせることもなかったのに。苦しませることも。

歯車が軋む音が聞こえる。僕のレプリカの心臓が悲鳴をあげている。繊細な神経回路が、僕の感情で狂っていく。

愛で、壊れていく・・・・・






NEXT