「何食べる?」 「んー。お子様ランチ」 車で外出したロックオンが馴染だというレストランで、ティエリアはメニューを見てそれを指差して、注文した。 ロックオンは、顔を両手で覆っている。 にまにましているのが、手の隙間から見えた。 「かー。もうかわいいな、お前」 髪をぐしゃぐしゃにされる。 「ロックオンは?」 「ミッスクピザに・・・白ワインを」 「かしこまりました」 オーダーを受けて、ウェイトレスが下がっていく。 その間も、ロックオンの表情は緩みっぱなしで、にまにましていた。 「何か、僕の顔に?」 「いや。お前、ずっと思ってたけど思考とか行動とか・・・・なんか幼いんだよなぁ」 「そうですか?」 「かわいいからいいの。そのままでいてくれよな。無垢で・・・天使みたい」 「褒めすぎですよ」 ここがレストランでなければ、ロックオンはティエリアを抱き寄せて深いキスをしていただろう。 やがて注文の品がやってきた。 ティエリアは、お子様ランチを食べ、白ワインも飲んだ。 はじめて飲むアルコールは、少し甘いかんじがした。 そのまま帰宅する。 ロックオンは慣れているだろうが、ティエリアはアルコールに慣れていない。 すっかり酔いつぶれたティエリアをソファーに寝かせる。 「あ”〜〜。うるぁ、水もってこーーいい!!」 「酔っ払うと人格かわるなぁ。今度から酒は飲まさないでおこう」 ふにゃふにゃになりながらも、ふてぶてしい態度をとるティエリアは、でも何処かとても愛らしかった。 水をペットボトルごと渡すと、ティエリアはそれを受け取って飲み干す。 「私には・・・・アルコールは、向いていないようです」 ペットボトルの水を全て飲み干して、酔いから覚めたティエリアは正直に答える。 外は、しんしんと雪が降り積もっている。 白い隔絶された世界の中で、二人の恋人は肌を寄せ合う。 「ん・・・・」 舌が絡まるくらいの深いキスをする。 ロックオンからは、白ワインの味がかすかにした。 服を少し乱され、ラインをたどるようにロックオンの唇が優しく伝う。 でも、そこまで。 ティエリアは人工バイオロイド。 セクサロイドではない。 そういった行為ができないわけではないが。 「ごめんなさい・・・・あなたを、受け入れられなくて」 顔を覆うティエリアの髪を優しく撫でるロックオン。 「いいんだよ。そんなことする必要なんてないから。おれは、ただ純粋にお前が愛しいんだ。お前の傍に入れて、お前の顔が見れるだけで・・・・それだけでいいんだ、ティエリア」 「ロックオン」 二人は、またキスをした。 そして、互いに風呂に入ってから、同じベッドで丸くなって眠る。 どこまでも、人間に近く作られたティエリア。 でも、人間じゃない。人間になれない。 「愛してるよ」 眠るティエリアを抱きしめて、ロックオンは思う。 もしも、ティエリアが人間だったらと。 こんなに身を切るような苦痛を感じることも、いつ喪失するかも分からない恐怖感に苛まれることもなかったのかもしれないと。 でも、ティエリアはティエリア。 人間だろうが人口アンドロイドだろうが、ロックオンには関係なかった。 愛しい存在。大切な存在。 それが、ロックオンの中のティエリア。 外は、雪がしんしんと降り続ける。 白く積もる雪に埋没されるかのように、二人の愛は密やかに燃え上がる。 白銀に包まれた、世界の欠片。 降り注ぐ冷たい、冬の吐息。 真っ白に、真っ白に。二人の心のように、真っ白に、閉じて、そして溶けていく。 NEXT |