血と聖水\−U「神の言葉」







「ティエリアーーー!!」
ホームで木霊したロックオンの叫び声。ティエリアは消えた。
神と共に。

数時間後、ティエル王国に現れたティエリアは使徒として覚醒し、神と共に世界を変革するために人類の数の調整に入っていた。
その日の死者は12万以上に及んだという。

ロックオンの使い魔により、刹那とリジェネがホームに急いでかけつけた。
ティエリアが神の使徒として目覚めてしまったこと、神に連れ去られていってしまったこと。
神、無の神アクラシエル。創造神3柱の一人ルシエードの子。
虚無の精霊神ゼロエリダが腹に宿したまま死んでしまったその神の子は、創造神ルシエードが命を創造して作り上げた絶対者。
絶対者とは、世界の理を支配する者とも、バランスを調整する者とも呼ばれる。
アクラシエルは無の神である。中性で、ルシエードに愛され、壊れたと本人はいっているが、本当に壊れたのなら自我が崩壊しているはずだ。
アクラシエル。かつて、初代ネイが愛した血族の神。
ルシエードがアクラシエルを愛していることを知って、別れを告げ血族を放棄した。それを、ずっと怨んでいたのだろうか。当時のアクラシエルは、血族放棄に反対もしなかったし、助けてくれとも何も言わなかった。ルシエードの傍で穏かそうにしていた。

言ってくれなければ、分からない。
神とて、万能ではない。

「主が消えちゃったのにゃん!!」
フェンリルはずっと泣きっぱなしだった。
「何か手がかりになるようなことは?」
「どこにいるか分からないのか?」
リジェネと刹那の言葉に、ロックオンは使い魔がティエル王国に二人が現れたという情報を仕入れ、話したが、すぐにまた二人は消えてしまったという。

「ティエリアを取り戻す。力をかしてくれ」
ロックオンは、二人に頭を下げた。
「そんなの、あたりまえじゃないか!」
「頭を下げなくてもいい。神が世界を変革するなど、間違っている」
「頼むわ」
ロックオンは、真っ白な六枚の翼を出すと、空間の扉をあけた。
「おい、どこにいくんだ?」
「ちょっと!!」
慌てる二人を置いて、その空間へ足を踏み入れる。
二人はロックオンの後を追おうとして、バリアーで弾かれた。
「ごめんな。ちょっと・・・・神にケンカ売ってくるわ」

懐かしい、生まれた頃すぐにその世界に入ったことを覚えている。
もっとも、住む選択はしなかったが。
魂に神格のある、神もしくはそれと同等の者しか入ることのできない世界。
神の庭。
真っ白な世界。続く天宮回廊。白亜の天宮は、「彼」が住む場所。
創造の3柱の一人、創造神ルシエードの住まう天宮。他にも天宮はあり、創造の女神アルテナ、創造の母ウシャスがそれぞれ住んでいる。
ロックオンは、一人天宮回廊をぬけ、天宮に入る。大きな水晶の間に出ると、血で剣を作り出して玉座ではなく、人工的に作られた色鮮やかな庭で、小鳥たちの鳴き声がするの場所に彼がいるのを感じ取って移動し、そして血の剣をつきつける。
「創造神、ルシエード。何を考えている?」
小鳥を指に止まらせた、虹色に耀く長い六枚の羽耳をもった創造神は、首を振る。
「世界を創造して一万二千年。一度滅びた文明は、新しくまた文明を築きあげた。だが、また同じ過ちを繰り返そうとしている」
「だから、人間を殺すのか!?」
「その未来が訪れるか訪れないかは人間次第・・・・。私は手を下すことはしない」
「ならば、なぜアクラシエルを絶対者にした!?」
「あの子は・・・私から離別した。私の傍にいることを拒否した。私が抱いたのが間違いだったのかもしれない。世界の未来を、理に自ら手を下す絶対者に自分からなった」
「・・・・・・・その言葉、信じていいんだな?」
「なぁ、ネイよ。年若き血の神。あの子を止めてやってくれ」
「言われなくとも、とめる。最悪殺す」
「構わない。あの子はそれを望んでいる」
「何故、親であるお前が止めない!」
「私は・・・・この世界から出れないのだよ」
創造神は、自嘲気味に小鳥の頭を撫でる。
「力を持つ者ほど束縛される。私もアルテナもウシャスも、この神の空間から出ることは叶わない」

ロックオンは沈黙した。
「あの子の、この世界にあった分離コアは破壊した。あとは、あの子を殺せば、それで終わりだ。神になりたくなったんだろう、あの子は。それなのに、世界の変革を望み、実行している。使徒まで作って・・・・世界をどんなに変革しようとも、未来は決まっているのに」
「そんな未来、おれがぶっ潰してやるよ!俺がそんな未来にさせない!」
ネイは、創造神にケンカを売るが、相手は乗ってこない。
「あの子が・・・死に場所に選ぶのは、きっとティエル王国にある、神の庭。女王ティエルマリアが眠る場所」
「あの場所か・・・・」
そこは、年中花が咲き乱れる神の庭といわれる、特別な場所。
濃い霊子エナジーとエーテルが交じり合う、世界の始まりの場所。
ロックオンは、彼に背を向ける。
「いずれ、俺はお前を殺すかもしれない」
「ネイ・・・・我が友。もしも、そんな時が訪れたら、私も死にたい。生き続けることが宿命の神など、誰が望んでなるものか」
「・・・・・・・さらばだ、我が共」

ロックオンは、その空間から現実世界に出る扉を作り上げ、そして還っていく。

創造神は、長い羽耳を風に揺らしながら、自分で作り上げた太陽を見上げた。
「お前は自由でいいな、ネイ。神でありながら、神とならなぬ者よ。世界は動きはじめた・・・・さぁ、主役は揃った。始まりの場所で、ネイ、お前は・・・・・」
神は沈黙すると、玉座に戻り、瞑想に入る。




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