血と聖水\−U「砂時計の揺り篭V」







「僕は使徒、ティエリア。ネイ、邪魔をするものよ。僕を血族にした報いを受けといい」
ティエリアは、背中に12枚の黒い翼をばさりと広げた。
ロックオンは、ティエリアの黒い翼におされて、吹き飛ぶ。
エーテルでできた黒い翼。

「弾けろ!」
ティエリアが、光の精霊ライトを召還し、その閃光をロックオンに向ける。
ロックオンは、自分の血の魔法で、自分の周囲にシールドを作り出す。
背の六枚の白い皮膜翼が、バサリと広がる。
二人の翼は、どこまでもどこまでも優雅で、そして巨大。

「目を覚ませ、ティエリア!!」
何度も叫ぶが、ティエリアの金色の無機質な瞳は変わらない。
「死を、ネイに」
「ティエリア!!」
ティエリアは、かつて帝国で教皇アルテイジアに先制攻撃を仕掛ける時に使った、ソウルイーターの短剣を取り出し、それを一向に戦おうとしない、自分を抱きしめるネイの心臓に突き立てていた。
「がっ・・・・・」
ネイが、血を吐く。
「死ね、ネイ!」
その短剣を、さらに心臓の奥へ奥へと食い込ませる。

ロックオンはその手を掴むと、自分の頬に当てた。
「捕まえた」
ロックオンの中から、ティエリアとして生きてきた12年間の軌跡が、愛が流れ込んでくる。
「うあああああああああああ!!」
ティエリアは、頭を抱えて苦しみだした。

刹那とリジェネが、ティエリアの中から出てきた。
すでに、アクラシエルはティエリアから這い出て、始まりの地のこの場所で呆然と佇んでいた。
「アクラシエル!!ティエリアを止めろ!!」
「もう遅い。その使徒は完全に覚醒した。他の使徒のように、自分というものを残さないようにした。お前を殺すために。砂時計の砂が零れ落ちた瞬間が、このティエリアのティエリアとしての存在の最後だ」
「アクラ!!」
ネイが、かつての血族であった神の愛称を呼んだ。
「ネイ・・・・もう、遅いんだ。ネイ。ネイ。ネイ・・・・・」
神はネイの名を呟いて、地面に両膝をついた。

「私が、私の存在が、なければ。世界に、なければ。私は、神になどなりたくなかった。私は、ネイ、お前の血族でありたかった。私は、けれど世界の未来を視た。私は、あの未来を止めたかった。絶対者、世界の理を抱く者。世界のバランスを調整する者・・・・私だけがなれる、唯一の選択肢。矛盾しているのは知っている。この世界に在りたくないと思いながら、神であることを利用した。私は、間違って・・・・・いるのか?」
「ああ、間違ってるよ、このバカ!!」
ロックオンは、神に向かってそう言い放つと、エメラルドの瞳で笑った。
「後で覚えてやがれよ!ぶんなぐってやる、アクラ!!」
「ネ・・・・イ」

あくまでも、ネイは自分の血族を取り戻せると思っているのだ。
なぜなら、ネイもまた神であるから。血の神。

「ティエリア。戻ってこいよ!!」
ソウルイーターを引き抜いて、心臓から滴る血をロックオンはティエリアに無理やり与える。
「ううう・・・・があああ!!!」
ティエリアは、ロックオンの、ネイの血を飲み干しながら、うめいた。
暖かなネイ。
ネイ。
ロックオン。
僕の、愛しい人。
あなたは僕だけのもの。僕はあなただけのもの。

「あああああああああ!!」
頭が破裂しそうだった。
サラサラと砂時計は時を刻み続ける。

ティエリアは、ティエルマリア、母であった者の墓を一度空中で見下ろすと、黒い12枚の翼で刹那とリジェネに襲いかかる。
「うわああ!!」
「ティエリア!!」

「ティエリア、やめろーー!!」
ネイの中で、何かが弾けた。


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