血と聖水\−U「砂時計の砂」







もう何時間戦っているのか分からなかった。
感覚が麻痺している。
焦土と化した花畑、始まりの地ではダメージを追った刹那とリジェネ、そして無傷の神がただ、二人のいくさまを見ていた。
日はやがて傾き、夜になる。
それでも、二人の戦いは終わらない。

「こんなのないよ・・・・こんなのやだよ」
リジェネが涙を流していた。
刹那は無言。
神は、ただ二人の、たどり着く先を見つめていた。
ネイと使徒の、選ぶ道を。
そう、使徒は。ネイを殺せない。ネイは、このままでは使徒を殺せない。
そして、互いに選ぶ結末を、神は知っていた。だから、黙っていた。

「エーテルイーター100%起動!!」
ついに、血の神は禁断の力エーテルイーター、相手のエーテル、生命力を食らう力を完全解放する。
びちゃびちゃと音をたてていきながら、ネイのエーテルイーターである6枚の白い翼は、巨大な口となってティエリアのエーテルである12枚の黒い翼を食べていく。
「離せ!!」
ティエリアは、残った6枚の翼を尖らせて、そのままネイの体を引き裂くが、エーテルイーターは止まらない。
だが、ティエリアの12枚の黒い翼も再生される。再生されても、再生されてもエーテルイーターは食らっていく。
その時、引き裂かれたネイの体の内側に、心臓ではなくネイの完全なるコアをティエリアは見つけた。
コア。ヴァンパイアは通常心臓をコアとするが、そうでない者もいる。心臓を擬似コアとするのだ。ネイもティエリアも同じ。体のどこかに、コアをもっている。それを破壊されれば、滅びる。
「世界に変革を!」
「変革などいらない!」

「死ね、ネイ!!」
ティエリアは、血の刃をランスに変えて、ネイのコアめがけて空中を切る。

「ティエ・・・リア・・・」
ネイは、泣いていた。血の涙を真紅の瞳から流し。
その涙を受けたティエリアも、金色の瞳から真紅の血の涙を流した。
「ロックオン・・・・」

「どうして・・・・ティエ・・・」
すぐに、ロックオンの意識はネイの中に埋もれた。
だけど、ティエリアの意識はそのまま。
ふわりと、自分の12枚のエーテルの翼を食べるネイの頬を撫でて、キスをする。
「愛して・・・・いるん・・・・です」
砂時計の砂は、全て零れ落ちた。
ティエリアが、崩壊していく。
その刹那の、砂に埋もれあがきながらティエリアは、ネイを愛する心を一瞬だけ取り戻した。

「愛して・・・・います。ネイ。ロックオン。永遠に」
血でできたランスを、ティエリアは、自分のコアにつきたてた。
そして、暴走するエーテルイーターが刹那とリジェネを巻き込もうとした先に空間転移して、自らの体を巨大な口となったエーテルイーターに身を投じる。
バリボリ。グチャグチャ。
相手を殺すか、殺されるか。
二人には、その選択肢しかなかった。

神は思う。
何故、この世界は。

「ネイ・・・ティエリア」

神は、焦土と化した花畑を再生させながら、目を伏せた。
無の神は有の神でもある。無から有を作り出す神、それがアクラシエル。初代ネイが愛した、神。

ドクン。
再生された心臓が軋んでいる。
ネイ、血の神もティエリアも、血の涙を流して哀しんでいた。お互いの運命に。

神は、思った。
砂時計の落ちた砂はもう上には戻らないと。
同じように、もう時間は元には戻らない。
砂時計の揺り篭で、二人は命を削りあう。そして、導き出された答え。

「報復の時・・・・ネイ、すまない。私が間違っていた」
使徒であるティエリアは、とても綺麗な微笑を残して、ネイに食べられてしまった。
コアも残さずに。
「うわああああああああああ!!」
夜が、明けようとしていた。
登りかける朝日の光の中で、絶叫するロックオンの声が聞こえる。

愛しい存在を。愛した存在を。世界から守ると誓ったのに、自分で殺してしまった。
「ティエリアーーーー!!」

叫んでも、滑り落ちた砂時計の砂はそのまま。
砂に埋もれてしまったティエリアは、埋もれるまま最後を迎えるならばと、ネイに殺されたのだ。
自害。

あっけない幕開けに、刹那もリジェネも信じられず呆然としていた。


NEXT