血と聖水\−U「六代目ネイ」







朝日が、全てを照らしていく。
サラサラと灰となり、砂時計の砂のように崩れたネイ。
花畑が、さわさわと緩やかな風で揺れる。

「アクラ」
思い出す。
ネイの笑顔、ネイの体温、ネイの愛。
それを失うことが、どれほど痛いのか、アクラシエルには分かっていた。
自分から血族を放棄しておきながら、身を切られるような孤独と虚しさを味わった。
ただのネイの血族であれば、この傷みを乗り越えることなどできないだろう。
現に、ティエリアは灰を掴んで、泣き喚き、そしてソウルイーターを取り出した。

「止めろ、ティエリア」
「ティエリア!!」
「離して!僕も死なせて!!」
刹那とリジェネにとめられながら、自分のコアをソウルイーターで破壊しようとするティエリア。

「お前の命は、ロックオンが命をかけて守ったんだぞ!」
「ティエリア!!」
ティエリアは、灰を手に、首を振った。
「そんなの・・・・・そんなのいらない!守られたくなかった!こんな結末になるなら、僕だけが死ぬほうが良かった!!」
「ティエリア!」
「僕は逝くよ。ロックオンの元に。あの人のいない世界で生きている意味なんてない」

それは、覚悟した者の瞳。
止めても無駄と分かっていても、刹那とリジェネは必死でティエリアをとめる。
精霊界に戻ろうとしていたダークエルとライフエルを、リジェネがとめる。
「ライフエル!ロックオンを生き返らせることはできないの!?」
ライフエルはゆっくりと首を振る。
「コアがなければ・・・・」
「あるよ!僕の中に、ロックオンのコアがある!これで!!」
「無理じゃ。すでに、それはお主のコアとなった。ネイは・・・七千年も生きていた。こんなところで終わるとはのう」
ダークエルとライフエルは精霊界に戻った。

ティエリアは、灰を握り締めたまま泣き続けていた。
その傷みが、アクラシエルにも伝わってきた。

「私は、今になってはっきりと分かった。私が間違っていた」
刹那とリジェネに切り刻まれた傷をそのままに、アクラシエルはゆっくりとティエリアに歩み寄ると、ティエリアを背後から抱き寄せた。
「アクラ・・・・」
「ネイも、よくアクラと呼んでくれた」

ふわりと、光が満ちる。
「砂時計の砂が落ちきった砂時計を逆さにする。それをさらに逆さにすれば・・・・時は、逆流から更に動き出す」
「アクラ?」
「私は無と・・・・そして有の神。創造神ルシエードの子。無をつくれ、有、命もつくる」
アクラシエルは、自分の神格を有する魂を取り出す。
「お前にやるよ、ネイ。私は、確かにお前を愛していた、ネイ。この血族の姫王と、共に生きるがいい」
「アクラ!?」
アクラシエルの姿が、世界に溶けていく。
存在を維持できなくなって、世界に還っていく。
まるで、ロックオンのように。
「アクラ!!」
ティエリアは、アクラシエルに向かって手を伸ばす。
「お前でよかったよ。ネイの血族がお前で・・・・幸せになれ。二人で。そして、いつかくる未来を変えてみせろ。神の名にかけて誓おう。もう、この世界にバランスの調整だと介入することはない。・・・・・・・・ネイ」
満足げに空に抱かれて、アクラシエルは消えていく。

消えた場所に、ネイが、ロックオンが立っていた。
「・・・・・・・・ロックオン?」
ロックオンは首を振る。
「我は6代目ネイ」



NEXT