血と聖水フレア「かの者は皇族の姫君」







「はははは・・・・・おもしろいな、お前。聖書?まるで聖職者みた・・・い・・・・な・・・・・・」
どんどんと、ロックオンの顔が凍っていく。ギギギギっと、まるで人形のように動きがぎこちなくなる。
「はぁん?ああぁ?俺の顔忘れたってのかぁ、ネイ!おい、この野郎!!」
その女官は、髪と頭部を覆っていた布を取り払う。真っ白な、いや、銀に耀く美しい長い髪。肌はアルビノ種のように色素がない。本当に真っ白だ。ティエリアよりも白い。瞳は、けれど毛細血管の色をうつした真紅ではなく、その種族、全てのヴァンパイア種の上位亜種ホワイティーネイの特徴であるアメジストの紫。
ティエリアの髪よりも深い、紫。
「い・・・や・・・・なんでお前がここいんの?」
「そりゃこっちの台詞だっての!小遣いほしさに女官の仕事募集ってのに募集して採用されて・・・・仕事ない時暇だからさぁ。王宮仕えの女官は賃金がいいんだよなぁ。世の中全て金だよ、か・ね」
2年前に再会したホワイティーネイのハイプリースト、リエット・ルシエルドは浴槽の中でロックオンの下半身を見た。
「いいな。ちんこと金玉くれ」
「もぎゃあああ!!やらん!!」
「いいじゃんか!俺にくれよ!!」
「やらん!!!!」
押し問答をしている二人に、どう対応していいのか分からず、帝国騎士は黙ったままだ。
女官たちは、面白そうに見物している。

「はー。大物が帰ってくるから忙しいって・・・・なんだ、お前だったの。ただのゴキブリじゃねーか」
「誰がゴキブリだー!!」
怒るロックオンに、薔薇風呂の中でリエットは欠伸をした。
「おい、お前たち。ネイ様さっさと洗って、着替えさせろ」
「はい、リエット様、承知いたしました」
「かしこまりました」
薔薇風呂からざばっとあがったリエットの言葉に、女官たちは素直に従う。
「ちょ!お前、リエット様ってなに!?」
「あ?知らねーの?俺、皇帝メザーリア様の姉」
「は?」
リエットと出会ったのは数十年前。帝国の外でだ。その時はただのハイプリーストだと思っていた。今でもだ。
「だから、俺は皇帝メザーリア様の実姉。母親も父親も一緒。だから〜ようするに、皇族の立派なお姫様なんだ俺は。しかも妹が皇帝だから権力もありまくりの、そんじょそこらじゃいないような可憐なお姫様」
「お前が可憐なお姫様なら、ゴリラだって可憐なお姫様だあああ!!!」
「てめえええ!!ケンカ売ってんのかあああ!!」
ロックオンを、リエットは浴槽に沈めた。
「ガボボボボ」
「うら、今のうちだ。とっとと洗って正装させろ。俺も正装しなきゃな。あーたるいぜ」
「リエット様、護衛は?」
ネイの護衛にあたっていた帝国騎士が、女官がリエットであることに驚いたが、この皇帝の実の姉は本当に皇族の姫君でありながらとても型破りなので、慣れてしまっていた。
「あー。ウエマいるからいらね」
ウエマとは、リエットを護衛する帝国騎士である。
「でも、その帝国騎士の姿が見えないようですが」
「あー。ちょっといじめすぎて、 (>'A`)>ア゙-ッッ!!とかいいながら、泣いて逃げてった」
「は・・・・はぁ。他の帝国騎士を遣わせますので」
「いらねーよ。この国で俺を守る帝国騎士はウエマだけだ。他の帝国騎士なんていらねー」
「ですが、それでは我らが皇帝からお叱りを」
「ああ、俺から言っておく。皇帝はいつまで経っても、俺のこと姫だと思ってるからなぁ。立派な皇子になりたかったぜ。ちんこと金玉ほしー。でも性別転換には金かかるしなぁ。あ”〜〜」

ロックオンは、その間に洗われて、そして夜の皇帝としての正装をさせられることになった。
「ちょ、なんでドレス!?」
「あ、間違えました。これ、リエット様用のドレスでした」
「あの男女、ドレスなんて着るのか・・・」
女官たちは慌てて、男性用の皇族の衣装を持ってくる。
ロックオンは黙って、それを着せられていく。絹のスカーフを首元に、その上から大きなエメラルドの宝石のはまったカフスボタンをつけ、少し長い髪を結いあげて絹のリボンで結び、大きなクラウンを被る。クラウンは最高級のもので、いつもは宝物庫にしまわれている。
クラウンは、皇族の証である。だから、皇帝メザーリアは、正装の時いつもクラウンを頭にかぶっている。ティエリアは、ネイの永遠の愛の血族。帝国では、その身分は皇帝の正妃にあたり、皇族だ。
ティエリアと同じように宝石で飾り立てられていく。それから、宝剣を腰にさげる。宝剣といっても、実用性のある戦闘にも使うことのできる剣だ。

正装したロックオンとティエリアは、それぞれ謁見の間に通される。
ネイであれ、この国の政治は表の皇帝、メザーリアがほぼ占めている。形式的なことなのだが、皇族はこういったことを守らなければ、示しがつかないので、仕方ないことなのだ。
「ネイ様、ティエリア様・・・・どうぞ、謁見の間へ。皇帝メザーリア様と夫であられるネメシス様がお見えです」
「あいよ」
「はい・・・」
ロックオンは、さっきからにまにましていた。
「かーわいいの。ティエリア、かわいすぎ。あーもう今すぐ食べちゃいたい」
きゃっとはしゃぐロックオンの顔を、お洒落したフェンリルがバリバリとひっかいた。
「いてええええ」

「変わりないな、ネイ様、ティエリア様」
謁見の間の玉座に、皇帝メザーリアが座っていた。夫のネルシスも。
皇帝はすぐに玉座から飛び降りて、幼い笑顔でティエリアに抱きつく。
「やっぱり私の思った通り。ティエリア様、ゴシックドレスがとても似合う!」
「ありがとう」
ティエリアは素直に照れる。
「私とお揃い。ネイ様も似合う。流石ネイ様」
「まーな」
きざったらしくポーズを決めたロックオンを放置して、皇帝とティエリアは廊下を歩いていく。夫のネメシスも一緒。
「ちょ、おいてかないでええええ!!!」
ロックオンの、涙に似た悲痛な叫び。
謁見の間に揃っていた帝国騎士の全てが、ぶっと笑っていた。
「ネイ様・・・・愉快な方だな」
「本当に・・・おっと、リエット様だ」
ドレスを着て正装したリエットは美しかった。そして、皆の後を追おうとしているロックオンの背中に蹴りを入れた。

ざわざわ。
いくらなんでも不敬罪ではないのだろうかと、帝国騎士たちがざわめくが、すぐに静寂に戻る。
「おーい、帝国騎士たち、俺とネイは友人なんだよ。だからこれくらい平気平気」
ロックオンを踏みつけるリエットの笑顔に、帝国騎士たちが拍手を送る。
「流石は皇族一の腕をもつリエット様。ネイ様をやっつけられた!」
「素晴らしい」
その発言のほうがよほど不敬な気がするのだが。
「俺を勝手に殺すなああ!!!」
「おう。よお・・・・ご機嫌麗しゅう、ネイ様。皇帝メザーリアの姉、リエット・ルシエルドでございます。皆移動しましたね。さぁ、私たちも皇帝たちのあとに続きましょう」
作り笑いを浮かべてソプラノの声を出す皇族の姫君に、ロックオンは鳥肌を立てた。
「うおおお、お前の女言葉、鳥肌たつ!!」
「しゃーんなろー、(´ ▽`)死ね」
ゴスっと、ロックオンの腹に拳を決める。

ロックオンはむくっと起き上がると。
「└(゚∀゚└)ハッスル!ハッスル!!(┘゚∀゚)┘ ハッスル!ハッスル!! 」
「へへへ」
その姫君は大胆に笑った。
「右に(_´Д`) アイーン 左に(´Д`_) アイーン 」
踊り始めたバカ面丸出しのロックオンを引きずりながら、リエットは皇帝たちの後を追った。



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