血と聖水フレア「178年間の秘密」







178年前、君を見つけた。
帝国で、帝国騎士になりたいと聖職者の道を歩きながらも憧れていた頃。
その頃は、まだ俺も子供だった。同じ子供の姿をしたフレアに惹かれた。フレアは、真紅の瞳と髪と翼をもつ、ただの意識存在だった。
触れたら壊れてしまいそうな、硝子細工のような存在。
そんなフレアに惹かれた。
皇族の庶子として育てられた俺は、平民だった。別に、貴族や皇族になりたいとは思っていなかったけど、また帝国騎士になりたいと思った。
帝国騎士になって、孤独なフレアを守りたかった。
フレアは、すぐには懐かなかった。
時を幼い少女の姿のまま止めたフレア。何故、その幼い少女を愛したのか、理由は・・・よく分からない。神の祝福を受けた生命でないという存在が、心に痛かった。半分同情だったと思う。
やがて俺はハイプリーストの道を選び、帝国内を廻りだす。
フレアは、帝国にいればいつでも現れてくれた。
リエットと、名を呼んでくれた時の嬉しさといったら、どう表現すればいいのだろうか。
永遠の愛の血族。ホワイティーネイであれ、伴侶を迎えることはできる。でも、君はフレア、帝国全土の領土を覆う結界に意識が宿ったもの。
決して、俺の永遠の愛の血族にはなれない存在。生命でないその存在は、この世界に確かに在るが、手に入るものではなかった。
でも、それでもよかった。
フレア。
君の存在がいれば。この世界に在れば。

ただいとおしい。誰よりもいとおしい。
フレア。
フレアは他の他人は見ることができない。フレアに語りかける俺を、聖職者の仲間は狂っていると笑っていた。どうでも嘲笑うがいい。フレアは、確かに俺の傍に在ってくれたのだから。

いろんな文献を読んで、フレアをちゃんとした一つの生命にする方法を探した。
ネイの力を借りれば、ともすればと思ったが、ネイにさりげなく空の天蓋が意識をもったらどうなる?と聞いたことがあった。
帰ってきた答えは、天蓋がその意識に吸収され消えるというものだった。なら、また結界を張り直せばいいといった俺に、ネイは首をふって、7千年以上前に、今はもうない魔法科学文明の呪文の魔法で作り出した結界なので、もう一度作り上げることはできないといわれた。

フレアは、あくまでフレア。
生命でない存在に、神は祝福を与えない。
フレアは、生命になれない。俺の傍にいてくれても、いつか消えてしまう。

ハイプリーストを極めながら、俺はいつも孤独だった。その孤独をフレアがいつも癒してくれた。
絶滅危惧種ホワイティーネイ。その種である俺は、他のエターナルの友人をもつことができなかった。上位種族を、エターナルたちは嫌う。俺はずっと、家族だけしかいなかった。
そこで君を見つけた。おかしいね?同じ女・・・少なくとも見た目は、同じ女であるはずなのに君に俺は恋をした。俺は心は男だ。男として生まれたかった。男であれば、ホワイティーネイだからと襲われることももっと少なかっただろう。ホワイティーネイの血を飲めば、エターナルたちの寿命は延びる。俺は襲われ・・・・・君の知らない場所で「女」としての自尊心を傷つけられた。
汚されたのは君に出会う前。俺は死のうとしていた。その時、君が声をかけてくれた。君が声をかけてくれなければ、俺はヴァンアイアの最大の禁忌である自害をしていただろう。
そう、思い出した。
俺は、子供の頃は女の子だったんだ。ちゃんとした、女の子。エターナルの男共に血を目的として嬲られ、輪姦されて俺は壊れた。生まれながらに美しい容姿をもっていたのが災いした。俺は、そのエターナルたちを気づくと全員殺していた。皇族の庶子であった俺は、無罪となる。俺を守るために帝国騎士が遣わされられたが、打ち解けることができずに俺は逃げ出した。

俺は、ネイの血を引いていた。だから、他に保護されている同種のように弱くなかった。強かった。だから帝国騎士になれると思っていた。
でも、ホワイティーネイには聖職者しか道はない。だから、俺はハイプリーストについた。
君と、歩きながら・・・俺は伴侶を迎えることを拒否した。何度も見合いを断った。平民であれ、皇族の庶子であるため、そこに流れる皇族の血を欲しがって俺と見合いする貴族の男たちは多かった。
何度も逃げ出した。父にも母にもしまいには見捨てられて、妹だけが俺の理解者になっていた。妹にフレアのことを話したことはない。
フレアの存在は、俺と君だけの秘密だから。
ネイにも話さなかった。

君と俺を繋ぐもの。それは、孤独という名の感情。でも、確かに愛していた。俺は、君を一人のホワイティーネイとして愛していた。神に何度も祈り、君に魔法をかけた。
でも、君の存在は生命にならない。

君は、ネイの姫王になりたいと望んでいたね。俺は、それを叶えてあげることはできない。
ネイにはすでに姫王がおり、そして君は生命として誰かの伴侶、姫王になることはできないのだから。でも、俺は君を伴侶、姫王に選んでいた。
バカだと笑われたっていい。ただの意識存在を、命をかけて守る永遠の愛の血族にするだなんて。
実際には、できなかったけれど。俺の愛する人はただ一人、フレア、君だけ。
俺が死ぬ時まで一緒だって誓ってくれたよね。
ごめんね。
君を助けられなくて。君の願いを叶えてあげられなくて。ごめんね。

愚かな俺を許してくれ。
リエット・ウルス・ディルフィア・エル・ホワイティーネイ。君だけに教えた、俺の本当の名前。
君だけにしか教えない。
リエット・ルシエルドは洗礼名。おれは、ずっとこの名でいきていく。
本当の名は、君だけに捧げる。

君を見つけたのは、俺の罪かもしれない。
俺はずっとこの罪を背負っていく。
君の存在が、たとえこの世界から消えても。
この愛は、真実だから。


「姉上!姉上!!」
何度目かの皇帝の叫びで、ベッドに寝ていたリエットは目を開けた。
見慣れた自分の寝室の天井が飛び込んでくる。
彼女は涙を流した。
「フレアを守れなかった・・・・・守れなかった・・・・・」
「姉上・・・」
皇帝は、全ての事情を聞いたうえで、実の姉の手を握り締める。
「姉上、生きてくれと。フレアの最期の願いだそうです。愛してくれてありがとう、どうか私の分まで生きて幸せになってくれと」
「フレアがいないのに、幸せになんかなれるもんか・・・・」
顔を覆って泣く獅子姫の姿を見たロックオンとティエリアは、部屋をあとにした。



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