星の砂「ドクター・モレノVSティエリア」







るんたった、るんたった。
るんたった、るんたった。
廊下から、ありえない音が聞こえてきて、書類の雑用をしていたドクター・モノレは診察室の扉に鍵をかけた。
「くるな、くるなああああああ!!!」
「ごめんくさい、モレノ。臭いモレノ」
扉一枚を隔てて、向こう側から明るいティエリアの声と、それを注意するロックオンの声が聞こえてくる。
「こら、ティエリア、臭いモノレのじゃなくて・・・・・あー、でもドクター・モレノって確かに薬品臭いよな。臭いモレノ、案外あってる?」

コンコン。

ノックする音を無視する。
いれてなるものかと、鍵をかけた上からロックまでする。

ドクター・モレノの診察室のドアは、病気になったりケガをしたりした者がいつきてもいいように、パスワード制はない。
そこに即効のパスワードをうちこんで、完全にロックして、排除行動にうつったモレノ。

「臭いモレノ、開けてくれ」
「誰が臭いモノレだ!!」
「なんだ、やはりいるではないか。開けろ」
「いやだーー!!」
押し問答する二人。ティエリアはいつものようにジャボテンダーを抱きしめて、首を傾げた。
「ハックが効かないな・・・・仕方ない、イアンに超小型振動型レザービームサーベルをかりて・・・・」
本当にかりてきそうなティエリアをロックオンはとめない。イアンも、平気でかすだろう。なんたって、イアンは太陽。人を疑うということをまずしない。廃材になったものを切るのに必要だとか言いくるめられて、貸すに違いない。

「うおおおおお!!入れ!」
ドクター・モレノは力みすぎて、その時屁をこいてしまった。ブッと、音まで聞こえた。
ロックを解除し、鍵も外した。
入ってきたティエリアは・・・・・その匂いを敏感に察知した。ロックオンでも分かった。
「臭いモノレ・・・・うんこもらした?」
「ちっがーう!!!」
スクリーングラスをかけて、ガンガンと頭を壁にうちつけるモレノ。
ああ、ティエリアのこの美しいあどけない顔を「ふざけるな!」とひっぱたくことができれば、どれほどすっきりするだろうか。
日々心労がたまるのは、きっと誰でもないこのフリーダムでおもしろおかしいティエリアのせいだ。最初はからかって遊んでいたが、もうフリーダムすぎてドクター・モレノでさえ理解できない宇宙を、ティエリアはIQ180の頭脳の中にブラックホールのように構築しているに違いない。
「お前のコスモは、俺には理解不能だ!!」
「コスモ?僕の宇宙は無限だ。理解などしなくていい。お前はもう、死んでいる!」
ドクター・モレノのヒコウをついたティエリア。
人体のツボに手刀を叩き込む。
「・・・・・・ドクター・モレノ、そこでびでぶって叫ばないと、ティエリアが喜ばないぞー」
ロックオンが、床で痛みにのたうちまわるドクター・モレノを起き上がらせる。

「今度はなんだ!なんの遊びだ」
「北斗の拳にはまってさぁ。ティエリアのやつ。外伝まで読んじまって。まぁ、攻撃されたらびでぶ!って叫んで破裂すればいいだけだから」
破裂なんてできるわけがないだろう。
ロックオンも、すっかりティエリアのペースに慣れてしまって、人外のコスモを漂わせるティエリアを理解できるのはもうロックオンだけかもしれない。
いや、普通な時は普通なのだが。
あどけない顔でジャボテンダーをいつものように抱きしめて、にっこりと笑っているティエリアはとてもかわいい。しかし、その口からは理解できない言葉が・・・・そう、宇宙と交信しているのではないかというようなことを言ったり行動に出したり。
本人は、ただ遊んでいるだけなのだが。
唐突過ぎて、周りがついていけないのだ。

「さて。ドクター・モレノ。今回ここに来たのは、宇宙フグを本格的に密猟するためだ」
ほら始まった。
また理解不能な難題をドクター・モレノにぶつけるティエリア。
「ああ、宇宙フグな。地上におりれば海にいるんじゃないのか」
そういうドクター・モレノをティエリアはジャボテンダーではりたおした。思い切り。
「びでぶ!!」
すでに、ドクター・モレノもロックオンなみにティエリアのペースにはめられやすいでの、悲鳴に「びでぶ」と叫んでいた。

「それは宇宙フグではなく、地球産のただのフグだ!宇宙フグは、この宇宙のどこかにきっといるに違いない!」
断言するその自信に満ち溢れた顔。
どこからそんなきっぱりとした確信が出るのかすら分からない。
「あー。一応聞いてみる。なんで、宇宙フグがこの宇宙にいるって分かるんだ?」
「ジャボテンダーさんがそう言っていた」
ほらきた。
お決まりの台詞。
ジャボテンダーと会話のできるティエリア。ただの抱き枕のジャボテンダーと、どうすれば会話ができるというのだろうか。

ペシっと、ドクター・モレノは聴診器をティエリアの頭にあてる。
ズゴゴゴゴゴ。
いつもは何も聞こえないのだが、ズゴゴゴゴとかいう凄い音が聞こえてびびってドクター・モレノは腰を抜かした。
まさか、ティエリアの頭の中には本当に宇宙が、コスモが存在するのか。それとも別の生物が寄生しているのか。
が、正体はすぐに分かった。聴診器の傍で、ロックオンがズゴゴゴゴとか言ってたのだ。
それだけなのに、なぜこうもビクビクしないといけないのか。
ドクター・モレノはガンガン壁に頭をぶつけてから、冷静に戻るとティエリア対応型ドクター・モレノに華麗に変身を遂げた。


NEXT