その日はそれで終わった。 ドクター・モレノも仕事があるので、いつまでも二人と一緒に遊んではいられない。 でも、二人は次の日もやってきた。 ルンタッタルンタッタ。 そんな音がまた廊下から聞こえてくる。 ああ、またやってきた。 「で?今日はなんの用だ」 「ドクター・モレノは髪型がいまいちだ。僕とロックオンで変えてあげよう」 「へ?」 ドクター・モレノは椅子にロープでぐるぐるに巻きつけられると、ティエリア用のリボンで頭のてっぺんを結われ、そしていくつものヘアピンで留められおかしいことになっていた。 「ドクター・モレノ・・・・すまないがこの書類を」 刹那が診察室にやってきてみたものは、化粧までされたすごいことになっているドクター・モレノの姿。 刹那は固まると。 隠し持っていた油性マジックを持ち出して、放心しているドクター・モレノの額に、アホって書いて、書類を机の上におくと笑いながら走り去っていった。 「愉快なものを見た・・・・得した」 刹那は機嫌よさそうに去っていく。 ティエリアとロックオンは、ドクター・モレノの姿を写真におさめたりして、ロックオンはもう笑い死にしそうになっていた。 「お前らな・・・・何がしたいわけ?」 「暇なんだ」 「暇なの」 「さいでっか・・・・」 化粧を洗い流すが、髪はそのまま。 戻ってきたドクター・モレノが見たのは、診察室のベッドですやすやと眠るティエリアのあどけない寝顔。 「ごめんな、大将。最近、不安で不安で寝れないんだって。大将と遊んでれば、不安が紛れるからって、ティエリアが」 「ああ、まぁそんなもんだろうって分かってたさ。ヴェーダと今アクセスできないんだろう?原因は不明らしいが。不眠症にもなるさ」 「俺と一緒にいても落ち着いてくれるけどな。でも、絶対無理してる。ティエリア、見かけに寄らず我慢強いほうだからなぁ」 「まぁなぁ。この子は、そういうように作られているからな。精神的に幼いのも、マイスターとしての責務を果たそうとするその反動か。不安で不安でたまらないんだろうさ。仲間といつまでこうやっていられるのだろうかって。この前の戦闘では、クルーに死者が出たしな」 愛しそうに、ティエリアの髪を撫でるロックオンを見るドクター・モレノはため息を深くつく。 ティエリアは、突如ヴェーダとのリンクが切れた。原因は不明。ヴェーダにアクセスできないティエリアは不安で不安で夜も眠ることができなくなっていた。ドクター・モレノは睡眠薬を処方したが、ティエリアはそれを拒んだ。薬に頼ってしまっては、なおらなくなる可能性があるし、いつミッションが下って戦闘になるかも分からない。 ヴェーダとのリンクを何度も試すティエリア。 その矢先にミッションが下ったのだが、その戦闘で、トレミーも攻撃を受け、守るべきクルーの一人が死んだ。 「泣いて泣いて・・・・泣きやまずに、泣き疲れてねちまったんだよ、その日のティエリア。僕が守るべき存在がって。自分を責めて」 ジャボテンダーを抱きしめたまま、ティエリアは深く眠っていた。 かわいい、おもしろおかしいティエリア。でも、マイスターの一人であることにかわりはない。戦闘の時は、人がかわったように豹変する。ミッション遂行を完膚なきまでに徹底するティエリア。時には仲間に銃さえ向ける。ガンダムマイスターであることを誇りとし、ガンダムマイスターに相応しくない者を排除行動にうつそうと、仲間に銃を向けて・・・・本当に、マイスターに戻った時のティエリアはまさしくマイスターとなるべく生まれてきた者。 いつまで、こうやっておもしろおかしいティエリアの部分を見せてくれるのだろうか。 いつか、このティエリアは消えてしまうのでないだろうか。そんな不安が、二人の胸を横切る。 「まずは・・・・絶対に、離さないことだ」 「んなこと、大将にいわれなくても分かってるさ」 「ん・・・・なさい。ごめんなさい。守れなくて・・・・」 ティエリアが、眠りながら涙を零して手を天井につきだす。 その手を、ドクター・モレノが握る。 「お前さんは、生まれてくるには幼すぎた。脳内ネットワークが未熟なんだ。もっと、時間をかけてマイスターとしての時間経てから、マイスターになるべきだった、この子は。精神的に未熟すぎて、反動で壊れそうになる。 守ってやれ。絶対に、何があってもお前が」 ロックオンは、ティエリアの涙を拭うと、キスをした。 「俺が、お前を世界の全てから守るから」 その日は、ティエリアもロックオンも、ドクター・モレノの診察室に泊まった。 ロックオンはドクター・モレノと酒を飲んで、大人の付き合いをする。 いつも、ドクター・モレノは定期的にティエリアの精神分析を行い、脳に乱れがないかをチェックする。すでに、ティエリアはどこかで壊れ始めているのかもしれない。 幼い未熟な部分が大きい。ロックオンと恋人になったことで、隠されていたその部分ははっきりと表に現れた。 イオリアに作られた、計画のための人工生命。 刹那も子供だが、ティエリアも子供だ。子供扱いされるのを嫌うが、脳内ネットワークのなりかたが人と違うティエリアは、調整期間が長かった。それでも、幼い部分は消えることがなかった。 はじめは、誰もがそんな部分を持っているのだとは知らなかった。イオリアが、計画的に残したのだろう。天使のように、無垢で無邪気であれと。 肩甲骨の天使の紋章は、GN粒子のような光をいつでも放っていた。 緑の、まるでロックオンのエメラルドの瞳のように美しい、星の砂のような光を。 NEXT |