それからしばらくしての出来事だった。 ティエリアがお腹が痛いと言い出したのだ。ただの腹痛かと思ったが、尋常な様子ではなく、ロックオンはティエリアを抱き上げてドクター・モレノの元まで連れて行った。 ドクター・モレノも首を傾げていた。 痛む場所が、普通の場所ではないのだ。 精密検査をして、そしてある重要な秘密が分かる。 「ここだが・・・・・ティエリアの、子宮だ」 「子宮?ティエリアは、女じゃないんだろ?中性じゃなかったのか?」 「半年前までは影も形もなかったよ。おまけに・・・こりゃ、おめでただ」 「はい?」 ティエリアの記憶障害は止まり、脳内の絶望的だったネットワークは奇跡的に回復している。言葉も普通に話せるようになってきているし、ガンダムに乗っての仮想空間での扱いもまずまずだ。 皆、ティエリアが戻ってきたと喜んでいた。 まだ、幼い口調は治らないが、それでもいい。 記憶障害のままでも、なんでもいい。ティエリアが生きて、ちゃんと自分を愛して隣にいてくれるなら。 「最後にやったのはいつだ?」 「んーと・・・・昨日」 「はあ」 「昨日・・・やった」 「おまえ、限度守ってないな!1週間に1回っていっただろう!」 「んなこといっても、ティエリアが求めてくるんだから仕方ないだろ!俺だって男だ、求められたら愛してる相手に求められたら・・・その、若いし」 「若いもんはいいな」 「はっはっは」 「笑うな!」 ドクター・モレノにスリッパで頭を叩かれても、ロックオンはほんわりとしていた。 でも、子供と聞いて不安になった。本来なら喜ぶべき場所なのだろう。 だが、ティエリアは、四ヶ月のも間敵の捕虜となり、男の慰み者になっていたのだ。もしかしたら、この子供は。 じっと、二人の会話を外で聞いていたティエリアは、逃げだした。 「どうしたんだ、ティエリア」 「ねぇ、刹那。もしも・・・・もしも、君に好きな人がいて、そのお腹の中に自分の子じゃない他人の子がいたら、どう思う」 「そりゃ・・・・おめでとうっていいたいけど。相手を怨むな」 「そう・・・・」 ティエリアは、長くなった髪に留められた髪飾りを掴むと、刹那が去っていったのを確認した後、床に放り投げた。 破裂音と一緒に、粉々に砕け散っていく髪飾り。 ロックオンがくれたものなのに、粉々に壊した。そうしたい気分だった。 僕のお腹の中に、子供がいる。 ロックオンの子供じゃない、子供が。 殺さなきゃ。殺さなきゃ、ロックオンに嫌われちゃう。 ロックオンに捨てられちゃう。 殺さなきゃ。捨てられる前に、殺さなきゃ。 ティエリアは、泣いていた。 砂時計のオルゴールを鳴らしても、全くティエリアの心の痛みはとれない。 「痛いよ・・・・心が、痛いよ、ロックオン。どうすればいいの。あなたを失いたくない」 失わないためには、このお腹の子供を殺すしかない。 殺せば、きっとロックオンは、許してくれる。 たくさんの男に汚された自分を、また許してくれる。 「いたいよお」 ティエリアは、忘れたわけではなかった。ちゃんと、覚えていたのだ。たくさんの心の傷を抱えたまま、忘れたふりをしてロックオンと過ごしていたのだ。 誰も気づかなかった。ティエリアは演戯が上手い。誰も、ティエリアの心の闇がまだ大きく残り、傷から血を溢れさせているなんて。 あまりにもロックオンと幸せそうにしているから、まるで本当になかったことのようにしていた。 ティエリアは泣きながら、もうしないと誓ったのに、ナイフを握り締めていた。 そして、自分の下腹部を・・・・そのナイフで躊躇を何度もしながら、刺した。 ぐったりとなって出血の止まらないティエリアは、様子がおかしかったことに気づいていた刹那にすぐに発見され、ドクター・モレノの元に連れていかれて緊急手術が行われた。 「失態だった。ティエリア、聞いていたんだ。見つかった時、お腹の子供殺さなきゃ、ロックオンに捨てられるって泣いてたんだ」 その言葉に、ロックオンはショックを受けた。 そんなことくらいで、ロックオンがティエリアを捨てるはずがないのに。 お腹の子は、確かにおろすしかないのかもしれないが。 ティエリアが産みたいというのなら、産ませて自分の子供として育てようと思っていた矢先だった。 NEXT |