手術が終わり、そのまま治療カプセルに入れられる。 蒼白で、輸血を受けながらのティエリアを、ロックオンはカプセルにはりついてじっと見ていた。 また、傷つけてしまった。 守ると、誓ったのに。どんなことからも守ると。なんて不甲斐ないのだ。こんなにも愛しているのに、まるで星の砂のように、ティエリアは指の間から零れ落ちていく。 「ティエリアは!?お腹の子は?」 「二人とも、無事だ。それから・・・・すまん、これは俺のミスだ。妊娠3ヶ月。ティエリアが、敵の捕虜になっていたのは今から四ヶ月前だ。間違いなく・・・・これは、ロックオン、お前さんの子だ」 「俺の・・・子供?」 「どうする?おろすかおろさないか。決めるのはロックオンだろう。ティエリアはまだはっきりとした返答ができない。決めるのは」 「おろさない」 「だが、ティエリアの体の負担になるぞ」 「ティエリアの言葉を待つ」 「そうか。分かった」 「ロック・・・オン?お腹の子供、殺したよ。ねぇ、また僕を愛してくれる?」 「ティエリア・・・・お腹の子供な、俺とティエリアの子供なんだって。妊娠三ヶ月。俺の子しか可能性はないって」 「あ・・・あああ・・・僕は、僕は殺して・・・・うわああああああ」 泣きじゃくるティエリアを、ロックオンは優しく抱きこむ。 「大丈夫。まだ、いるよ。お腹の中に」 「殺して・・・・ない?」 「うん。殺してない」 「良かった・・・・」 本当に、安堵したようで、ティエリアはまた大きな涙をポロポロと石榴の瞳から零した。 「どうする?お前の負担になるって。おろすかおろさないかは、ティエリア、お前の判断に任せる」 「おろすって、何?」 「んとな、子供を・・・・お腹の中からいなくさせること」 「つまりは、殺すってこと?」 「そうだよ」 「うわああああああ」 「辛い?時間はいっぱいあるよ。お前が選んだ答えを、俺は受け入れる」 「髪飾り・・・壊したの。わざと。許してくれる?」 「許すよ」 「僕は・・・・たくさんの男に汚されて、犯された。それも、許してくれる?」 「ティエリア・・・・」 ロックオンが、涙を零した。 「やっぱり、忘れていなかったんだな。おぼえたんだな。気づいてやれなくてごめん。許すよ。お前の全てを許し、そして愛する」 「ありがとう・・・・・・産みたい。僕は女じゃないのに・・・子供が、あなたの子供を産みたいと、ずっと願っていた。 あなたを愛した罰で、あなたを忘れていくと思ってた。記憶障害で、いつかあなたを忘れて、僕は消えてなくなると思ってた・・・・・わがままを、二つ。僕の、この忌まわしい記憶を、消さないで」 「ティエリア?」 ロックオンは、その言葉が聞き間違いでないかと思った。 「生きていたから。確かにその間も僕は生きて呼吸をして鼓動をうっていた。この記憶を消してしまえば、この四ヶ月であなたと築きあげた愛もまた忘れてしまう。分かるんだ。僕は人じゃないから。どうすれば、どうなるか、自分の体のことが」 「分かったよ。消さない。俺が、お前を守るから。心の傷を二人で癒していこう」 「マイスターを・・・・・あなたも。子供がこの世界に息吹をあげるまで、辞めて。僕と一緒に、ずっといて」 「ティエリア。それは・・・・」 「無理だって分かってる。僕のわがままだって。でも、お腹の子供はちゃんと産めるかどうかも分からない・・・僕は、もともと中性なんだ。女性のように、器官が発達していないの。不安で不安で・・・だから、お願い。お願い・・・・」 ロックオンは、ティエリアを安心させるように何度も頭をなで、髪をすいてやった。 「分かった。ミス・スメラギになんていわれても、お前が子供ちゃんと無事に産むまで辞める。今のお前はマイスター休業状態だし、ミス・スメラギも話せば分かってくれるだろう」 「ありがとう」 安心したティエリアは、ロックオンに半身を起こしてキスをした。 「おい、まだ寝てないと」 「大丈夫。もう、大丈夫だから。僕は、本当に帰ってきたよ。ただいま、ロックオン」 「おかえり、ティエリア。誰よりも愛しい、俺のティエリア」 NEXT |