階段を、足早に駆け下りていく。 中は、いりくんだ迷宮のようになっていた。 「こっちだ!さぁ、早く!!」 リジェネに案内され、これが罠かもしれないと思いつつも、ロックオンはティエリアを抱えて走った。 伊達に、ガンダムマイスターとして訓練されてはいない。 腕の中のティエリアは、身動き一つしなかった。 だが、その暖かな体温に、生きているのだと実感した。 何度も階段を登り下りした。 入り組んだ廊下をロックオンとリジェネが駆け抜ける。 薄嫌い廊下に、何度も躓きそうになるが、懸命にこらえて走った。 ぜぇ、ぜぇ。 息が切れる。 かび臭い空気に、眉をしかめた。 リジェネが、突然止まった。 「はははははは!!!」 狂ったように笑う。 まるで、壊れてしまったかのように。 リジェネは、銃口をロックオンに向けた。 「ほんとに、お人よしだね。このまま、僕が逃がすと思った?しんじゃえよ」 銃弾が、発砲される。 「ぐぎゃ!」 倒れたのは、今まさにロックオンに襲い掛かろうとしていた刺客だった。 完全に眉間を撃ち抜かれ、死んでいる。 「お前・・・・」 リジェネは、たてつづけに発砲した。 刺客と思われる者が、その正確な射撃に全員眉間を打ち抜かれ、完全に生きたえる。 「くそお!」 ダァン! 発砲された銃が、リジェネの右肩を打ち抜いた。 リジェネは美しい顔を歪ませるが、その相手の眉間を撃ちぬいた。 リジェネの正確な射撃は、ティエリアそっくりだった。 廊下に流される真紅。 血に、ロックオンがはっとなる。 そして、ティエリアを廊下に横たえると、着ていた衣服を裂いてリジェネの肩に巻きつけ、止血した。 「変な奴。僕が敵であるって知ってるのに、助けるわけ?」 「敵であるってわかってるなら、なんで最初から俺を殺さない」 「さぁね」 「う・・・ん」 ティエリアが目覚めた。 そして、自分の状況を確認して、起き上がる。 「ティエリア!」 触ろうとすると、激しく拒絶された。 「触るな、この汚い人間が!汚らわしい!ああ、リジェネ、僕の兄弟!大丈夫!?」 リジェネの傍にやってきて、止血を手伝う。 「大丈夫だよ、ティエリア」 「なんなんだ、この男。リジェネを撃ったのか!」 強い調子で詰られる。 姿こそ同じであったが、そこに愛したティエリアの姿はなかった。 ロックオンは、それでもティエリアを攫おうとしていた。 「触るなあああ!」 激しく暴れる体に、悪いと思いつつも鋭い手刀を首筋に叩き込む。 「だから、言ったとおりだろう?このティエリアは、君の愛したティエリアではないと」 「それでも、俺は」 「バカな男だね。それでも、ティエリアを欲しいんだね」 「・・・・・・・・」 「愛されないかもしれないよ?ずっと拒絶されるかもしれないよ?」 「それでも、もう失いたくないんだ」 リジェネが、血の止まった肩を抑えて、ロックオンに近づくと、背伸びした。 「!?」 唇が重なって、ロックオンが狼狽する。 「愛は、人を変える。こっちだよ」 そのまま、リジェネが進んでいく。 やがて、光が見えた。 階段を登っていくと、そこはリボンズの邸宅から離れた森の中だった。 ケルヴィムが近い。 ケルヴィムの機体の近くにやってきて、ロックオンは声を失った。 ケルヴィムの前に、銃を手にしたリボンズが立っていた。 「よくやったね、リジェネ。これで、ガンダムマイスターを一匹始末できる」 「なぁに、簡単なことさ。こっちはこんな怪我をしてまで、本当に苦労したよ」 リジェネが、ロックオンから離れてリボンズの隣にたった。 そして、キスをした。 「僕のリジェネに、よくも傷をつけてくれたものだね」 「ほんとに、酷いったらありゃしない」 クスクスと、リジェネが笑う。 その魅惑的な笑みに、リボンズの笑い声が重なった。 「はははは、君も哀れだね。失ってしまった愛しいティエリアを奪いにきたら、そこは蟻地獄だった」 「おまけに、ティエリアは完全なイノベーターで、人間を毛嫌いしている。さっきティエリアが目覚めたんだけど、面白かったよ。触るな、この汚い人間が!汚らわしい!ってね。すごい剣幕だった」 「ティエリアは人間が大嫌いだからね。下等な猿だそうだ」 リボンズが、銃口をロックオンに向けた。 これで終わりなのか。 腕の中のティエリアを見る。 それでも、たとえ愛したティエリアでなくても、もう一度ティエリアという存在に出会えただけで幸せだった。 ティエリア。 愛している。 誰よりも、誰よりも。 たとえ、俺が下等な猿でも、それでも、愛している。 どんなに軽蔑され、拒否され、侮蔑されても愛している。 「ティエリア、愛してるよ」 ロックオンは、腕の中のティエリアに口づけた。 NEXT |