もう一度出会うために「リジェネ」







「あーあー。熱いことで」
リジェネが、またクスクスと笑った。
そして、そういうリジェネはリボンズと深く口付けしあう。舌が重なり合う。
服の下に手を入れられ、リジェネがリボンズの手を止めた。
「続きは、この哀れな王子様を殺してからだよ」
「そうだな」

銃口が、ロックオンに向けられる。
ロックオンは、腕の中のティエリアが傷つかないように、ティエリアを草の茂みの上におろして、距離をとった。
これで、万が一銃がそれても、ティエリアを傷つけることはない。

クスクスクス。
リジェネは、まるで小悪魔のように笑った。
ティエリアと同じ顔をしているのに、その印象はティエリアの天使と正反対だ。
まるで、人を誘惑する堕天使だ。
ロックオンは思った。
「ティエリアは撃つなよ。殺すなら、俺だけにしろ」
「何、当たり前のことを言っている。君はばかか?流石虫けらなだけあるな。知能も、虫けらなみか」
リボンズが、辛辣な台詞を吐いた。

銃口が、迷うことなくロックオンに向けられる。

ロックオンは、目を瞑った。
最後だけでも、また会えてよかった。
もう一人のティエリア。
愛しいティエリア、今傍にいくよ。


パァン!
乾いた銃声が、森の中をこだました。
ギャアギャアと、声をあげて鳥が飛んでいく。

「ふ、ふふ、あははははははははは!!!」

狂ったような、リジェネの笑い声が響いた。
恐る恐る目を開けると、ロックオンを庇うような形で、リボンズが放った銃弾を体に受けたリジェネの姿があった。
「あははっはは!あーっはっはっはは!」
「リジェネ、狂ったか!」
鮮血に身を染めながら、笑い声をあげるリジェネに、リボンズが愕然とする。
リジェネは、狂ったように笑っているかと思うと、身を翻した。
そして、リボンズの視界から消え、リボンズに持っていた銃で頭を打ち据える。
「バ・・・カな。裏切るのか・・・・リジェネ・・・・」
頭を強打され、どさりと倒れながら、リボンズが苦しげに声をあげた。
「裏切ったりしてないよ。最初から、計算通りさ・・・・ゴホッ」
リジェネは、大量の血を吐いた。
肺を撃たれたのだろう。

リボンズは、そのまま昏倒してしまった。
それを確認し、リボンズの手から銃を取り上げる。
そして、ふらふらとティエリアのところにやってくると、血に染まった手でティエリアの頬を叩いた。
「ティエリア、ティエリア、目を覚まして。僕の、兄弟」
「・・・・・ん。リジェネ?」
ティエリアが、ゆっくりと起き上がる。
リジェネは、血に染まった唇で、ティエリアに口付けた。
「さぁ、君は新しく羽ばたくんだ」
「リジェネ!」
ティエリアは、リジェネの血で血まみれになった。
リジェネは微笑む。
「リジェネ、リジェネ、リジェネ!!」
泣き叫ぶティエリアの額に額を合わせる。

「さぁ。君は、僕たちイノベーターの間にいるべき存在じゃない。もう一つの魂の記憶を思い出せ。君と対になった魂と、君は融合したはずだ。そう創られているから。・・・・げほっ」

リジェネは、大量の血を吐いた。
ティエリアは、目を瞑っていた。
リジェネが、ティエリアの頬を両手で挟む。

「リジェネ・レジェッタが命じる。シリアルNO8のティエリア・アーデよ、これまでの記憶を放棄せよ」

淡い光が満ちた。
ティエリアとリジェネを包み込む。
「リジェネ・レジェッタ。僕の兄弟。君は、自らの魂の力と引き換えに、僕を自由にするというのか」
ティエリアが目を開けた。
石榴色に輝く瞳。
その瞳は、ロックオンが愛してティエリアの瞳だった。

「リジェネ!!」
泣きながら、苦しげに血を吐くリジェネの体を抱きしめる。
「僕なんかのために、君が犠牲になる必要はないんだ。もう、十分だから!!」
「だめ、だよ。まだ、完全じゃない。僕の魂がある限り、君は、イノベーターとしての、記憶を、失うこともなく、苛まれるだろう。僕と、君は、もともとツインとなるはずだったから。だけど、君にはすでにツインがいた。そのツインのどちらも、君だ」
ごほっと、また血を吐いた。
「君のツインは死んだ。もう、君にツインとして生きる道は残されていない。君は、ツインが死んだ時、ツインゆえに記憶が繋がるように、人工的に手が加えられていた。ねぇ、僕は、元々君のツインとなるために生み出されたんだよ?」
同じ石榴の瞳が交差しあう
「・・・・・さぁ、君には、新しい道が開いてある。イノベーターとしていき、このままガンダムマイスターに駆逐される必要はない。さぁ、いきなさい。君の、愛しい人の元に」
「嫌だ!君も一緒にくるんだ。一緒に、生きるんだ!」
ティエリアが、リジェネの体を引きずりながら、ロックオンのところにきた。

「ティエリア・・・?」
会話の内容から、ティエリアに、愛したティエリアの記憶が刻み込まれているのだろうか?
だが、信じることができなくて、ロックオンはリジェネの血に染め上げられたティエリアの石榴の瞳を見る。
「ロックオン・・・・バーチャル装置で、結婚式を挙げましたね」
涙を浮かべて、ティエリアはロックオンに額を押し付けた。
「ただいま、ロックオン。僕は、あなたが愛したティエリアではありません。でも、あなたが愛したティエリアの記憶を持っています」
「ティエリア!」
抱きしめる。
「お願いです!リジェネを助けてください!」
ロックオンは、ティエリアが引きずるリジェネがもう助からないと分かっていた。
すでに、失血の量は致命傷だ。

トン。

リジェネが、笑って、ティエリアから離れた。

「さぁ、早くいって。僕の、天使。ロックオン、早く、僕の兄弟を連れて行って。そして、愛してあげて。ティエリアから、イノベーターとしての、記憶は消したから。それと、ティエリアがリボンズのものになっていたというのは嘘だよ。ティエリアは、清らかなままだ。・・・・さぁ、あとは、仕上げをするだけだ」
ロックオンは頷くと、泣き叫ぶティエリアを抱きかかえて、ケルヴィムのコックピットに入れて、ケルヴィムを発進させる。
「いやだぁー、リジェネ!!僕の兄弟!!」

空を飛んでいく機体を見上げて、リジェネは微笑んだ。

「リジェネ、君というやつは・・・・」
リボンズが、ふらふらと立ち上がった。
それにも、リジェネは微笑んだ。

「できることなら、僕は、ティエリアのように生きたかった。ティエリアが羨ましかった・・・・リボンズ」
血を吐きながら、リジェネは、堕天使ではなく天使のように優しい表情を浮かべた。
「僕たちの存在が、間違っているとは思わない。でも、ティエリアには、僕たちの存在であることは似合わない」
「リジェネ、覚悟しろ!再生治療を受けさせたら、記憶を真っ白にして洗脳してやる!」
リボンズの手にかかれば、再生治療により生きながらえることも確かに可能だろう。
「リボンズ・・・・」
血に染まった手で、リジェネがリボンズの頬を撫でた。
「君にも、いつか、分かる日がくるといいね。人の愛というものが、無限であることを。人の愛の、素晴らしさを。僕は、死んだティエリアを通して、人の愛の素晴らしさを知った。人は、儚いからこそ美しい。人の愛の素晴らしさは、僕たちの思考をはるかに超えている」
「戯言を」
「リボンズ、僕は、ティエリアを愛していた。でも、リボンズ、君のことも、愛していた・・・よ」

リジェネは泣いていた。
手の中に握ったままだった銃を、リボンズに向ける。
「僕を殺すのか」
「それは、ガンダムマイスターたちの仕事だ。リボンズ、僕は、確かに君を愛していたよ。ティエリアも愛していたけれど、君の、ことも」
「嘘はもうたくさんだ!」
「今から、証明、して、あげようか」
「!?」
リボンズに向けられていた銃口を、リジェネは。

「さよなら、リボンズ、そして、僕の兄弟。どうか、幸せに。愛していたよ」

パァン!

飛び散る大量の血。
ドサリ。

「・・・・・・・・・・・・・・リジェネ?」
ピクリとも動かないリジェネに、リボンズがその体を揺さぶる。
「リジェネ?リジェネ?おい、リジェネ?」
リジェネは、こめみに銃を向けると、躊躇いもなく発砲した。

「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

リボンズの悲鳴が、いつまでも森の中で響き渡っていた。




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