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灰を提出してホームに戻ると、見事に隣のアクラシエルの家は焼けていた。
もう何十回目なので、近隣は騒ぐことはない。
住んでいるのが元神の精霊であると知っているからだ。何がおきても不思議ではない。でも、怖がられることもない。
なぜなら、無の神アクラシエルはもともと、人を魅了する美しい神だ。
自然と、他人を惹きつける。そう、ティエリアのように。
アフロになって真っ黒こげになったロックオンが、アクラシエルの焼けた家の前でサラマンダーの精霊を抱いてぶすっと座り込んでいた。
「こらアクラー!このサラマンダー放り出して召還されるなよ!お前なら、拒否だってできるだろうが!!」
ロックオンは、自分のステキなキューティクルヘア〜が台無しになって怒っていた。
「このサラマンダーは、私と6500年の付き合いだ。少し火力が強いが・・・・まぁ、愛嬌だろう。私の友人だ。それに、主であるティエリアの召還を拒否できるわけがない。ティエリアは大切な私の友人。ネイ、お前よりも大切だ。このサラマンダーもネイ、お前より大切だ」
「僕とフェンリルみたいだね」
ずっとティエリアの頭の上でうたた寝をしていたフェンリルは、目をこすって目覚める。
「にゃんにゃの?家が焼け落ちてるにゃ!」
「ああ、おはようフェンリル」
「おはようなのにゃ、主」
フェンリルは大きな欠伸をすると、ひらりと地面に降りて、アフロになったロックオンを前足でさして笑い転げる。
「アフロにゃアフロにゃ!だっさいのにゃ!!」
「うるへー!!」
「お、サラマンダのサラサちゃん。遊ぼうなのにゃ」
火蜥蜴は、ポンと人型を作り、燃えるような真紅の髪と銀色の瞳を持つ15歳くらいの少女姿になると、フェンリルを抱き上げる。
「僕、サラサちゃんとデートしてくるにゃ!」
「気をつけてね、ゼイクシオン、サラサも」
サラサは頷いて、アクラシエルのところにくると詫びた。
「アクラ様、また家を焼いてしまいました」
「いいよ。遊びにいっておいで。自分で元に戻すから」
「はい」
「それじゃなのにゃーー!!」
サラサに抱かれたフェンリル、ゼイクシオンは二人で遊びに出かける。最近のゼイクシオンのお気に入りは、アクラシエルのサラマンダーのサラサちゃん。とってもかわいくて、ゼイクシオンの母であるハイサラマンダーの精霊王の数多くいる妹の一人で、ゼイクシオンとサラサは親戚同士。仲良くもなる。
「無の精霊神アクラシエルが・・・・じゃなかった、無の精霊アクラシエルが命じる。無より有よ生まれよ。時よ遡れ」
焼け落ちた家は、まるで砂時計の砂が逆さに落ちるように時間を逆行し、元に戻ってしまった。
無と有を併せ持つ者。創造神ルシエードの血が流れているのがはっきりと分かる。無の精霊でありながら、一部のものであれば時を逆流させて、そこに有を生み出す。無から有を生み出すこともできるが、時を遡らせたほうが早いので、アクララシエルはいつもそうしていた。
「お前・・・・神じゃなくなったなんて絶対嘘だろ!時間の逆行なんて、神にしかできない」
「神格はなくなった。神ではない。でも・・・・存在は、限りなく神に近いかもしれない。ネイ、お前にはどうでもいいことだろう。アフロが似合っているぞネイ。さぁティエリア、家にあげてくれないか。リエットとウエマが来ているのだろう」
「あ、うん」
ロックオンは、アフロ姿のまま、取り残された。
「最近のおれってさ・・・・ネイなのに・・・何、この放置プレイ。これも愛なのかしら?」
「やーアクラ!あいかわらず壮絶に美人だね!俺もこんな美人に生まれたかったぜ」
現在、フレアの一件からティエリアとロックオンのホームに皇帝の姉の獅子姫リエットと彼女を守る帝国騎士ウエマが居候中である。
帝国を出る必要はなかったのだが、フレアと会うために帝国を出たのだ。いずれ、失った最愛のフレアをこの世界のどこかで出会うために世界中を旅してまわるだろう。もちろん、親友である帝国騎士のウエマと一緒に。
「リエット。君も十分に美しいと私は思う」
「まぁ、見た目だけは。中身は破滅してるけど」
ウエマの言葉に、皆が笑う。
「おいウエマ。また便器の中に顔つっこまれたいか、ええ?」
帝国騎士ウエマは親友であるはずなのに、このリエットに頭があがらない。
「ごめんなさい。踊るので許してくださいましー。└(゚∀゚└)ハッスル!ハッスル!!(┘゚∀゚)┘ ハッスル!ハッスル!! 」
「もっど踊れ。いっそ脱げ!」
「ウエマ、脱ぎマース└(゚∀゚└)ハッスル!ハッスル!!(┘゚∀゚)┘ ハッスル!ハッスル!! 」
トランクス一丁で踊りだすウエマに、ティエリアもおかしそうに笑っていた。
本当に、居候は増えたけれど毎日が楽しい。
その時、アクラシエルの三つ編みの部分を飾っていたフロストの魔石が蒼く耀いていたのに、誰も気づく者はいなかった。
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