血と聖水フロスト「コキュートス」







アクラシエルは、その空間への呪いを、ティエリアの代わりに自分で受けた。
氷結地獄。
氷ついた大地に封印されし、悪魔たちた堕ちた天使の姿がたくさんある。
「ああ・・・・召還の、声が聞こえる。すまないティエリア、この世界からは召還に答えることができない」
アクラシエルは、雪降る氷結地獄を歩き続ける。
ここで果てるのも、一つの運命か。
ティエリアはネイの血族ゆえに、アサシンに命を狙われる。
ネイも狙われる。でも、ネイがティエリアをアサシンから守っている。
でも、こんな特殊な呪いだと、ネイだって気づかない。発動するまで、ただの魔石なんだから。
アクラシエルは、その呪いがなんであるかを知っていてずっと髪に飾り、呪いを無理やりティエリアから自分へ移動させた。
「私の友よ」
アクラシエルは、黒い12枚の翼を広げて空を翔る。
コキュートスともいわれる氷結地獄は果てしなく広がり、終わりが見えない。
やがて、翼が凍り始めた。手足も。
「私の友よ。私の命で、君を救えることを、私は誇りに、思う」
一つの氷像となりながら、元神の精霊は涙を零した。
寂しくなどない。ずっと孤独だったから。
後悔なんてない。
世界を変革しようと、ティエリアとネイの運命を狂わせたのは自分だ。その報いがやってきただけだ。
「フロスト・・・・・無は有を作る」
氷の空を見上げながら、美しい精霊は黒い髪をなびかせ、有を作り上げた。無から。
有はこの世界から弾け、ティエリアたちのいる世界へ移動する。

「アクラ?」
ふわりと現れたその影に、泣いていたティエリアははっとなる。
無から生まれた有。アクラシエルの想い結晶。
それを抱きしめて、ティエリアはロックオンを見つめる。
「アクラを、助け出す方法は?」
「本気か?コキュートスは・・・・知っているだろう、お前も。堕ちた者が封印される場所。もともと、アクラは神でなくなったらコキュートス、氷結地獄へいくべき運命だったんだ」
「そんなこと、あるもんか!僕の友達なんだ!」
「ネイ、仲間を助けない気か」
「わーったよ。ったく、ティエリアといいリエットといい、無茶な要求するやつばっかりだぜ」
ロックオンは、苦虫を噛み潰したような表情になってから、二人を特殊な結界で包み込むと、自分が入れる神の世界へ導く。
白亜の天宮。そこにつづく天宮回廊。
「ここは?」
「・・・・・・・・創造の3柱神が住まう場所」
「うへぇ。流石の俺もびびるわ。こえぇ」
ティエリアの後ろに隠れたリエット。
空間転移の魔法を使う。
白亜の天宮の中、開けた庭に極彩色の植物を生み出し、太陽を生み出し、小鳥たちをつくりだしたルシエードの元を再び訪れることになるなんて、ロックオンは思わなかった。
「ルシエード」
6枚の虹色の羽耳をもつ神は、この世界の創造者の一人。
「そこに、道を作った。いくがいい」
ルシエードが指差す先に、次元の狭間があった。
「お前は・・・・自分で助けないのか。愛した我が子、いや、愛したゼロエリダの生まれ変わりでもあるだろう、アクラは」
「アクラは私を拒絶した。神でなくなった者など、愛するに値しない」
「てめぇ!!!」
殴ろうとするロックオンを、ティエリアとリエットが止める。
「止めろ。この神にケンカ売ってどうする。勝てないだろうが!」
「道が、示されている今のうちにアクラを」
「・・・・・・ち。ルシエード。覚えておけ。俺は、いずれお前を滅ぼす」
三人は、次元の狭間に飛び込んだ。
そこは、蒼い世界。
雪と氷で閉ざされた世界。
氷結地獄、コキュートス。地面を覆う氷河の下は真っ直ぐに済んでいて、いくつもの異形の悪魔や堕ちて悪魔となった存在や、ただの堕天使などが数多く封印されている。
雪像のように見えるのも、もとは命あり動いていたものたち。
異形の神々もそこに封印されている。様々な世界から、堕ちた存在たちが最終的にいきつく場所、それがコキュートス、氷結地獄。人が地獄に落ちてヘルファイアの世界にいくように、地獄にいかぬ上位生命体たちの地獄。それがコキュートス。
重なりあう世界の狭間のそこにある世界。
神や天使が生きるだけの世界もあれば、悪魔と魔王だけが生きる世界もある。今ティエリアとロックオンが生きる世界は、重なる世界の一つ。

「年若きネイよ。新人類の神。お前に、私は殺せない。何故なら、お前の命をこの世界に与えたのも、この私であるのだから。ネイよ。どこまでお前は成長できる?神でありながら、ヴァンパイアの存在であり、そして人という自由存在として」

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