血と聖水フロスト「氷の巨人」







アクラシエルは、氷の彫像になりながら、そう心の中で呟いた。

ティエリアとロックオンとリエットが、この氷結地獄に入ってきたのが感じ取れる。
何故。
なぜ・・・・。
なぜ、人は・・・。
いや、彼らはヴァンパイア。でも、人とかわらない心をもつ。
結束を大切にし、仲間を大切にする。
仲間、だというのだろうか。この私が。敵であったこの私を友と呼んでくれるネイ、ティエリア。その友というリエット。

コキュートスの番人が、侵入者三人を見つけた。
「出て行け。ここは、お前たちのくる場所ではない」
巨大な氷の巨人はそう静かに言うと、失われた呪文の魔法を詠唱しだす。
「エル・アルデ・エル・デルエルルア、我は氷、我は冷たき世界の一部・・・・フロストノヴァ!!」
巨大な雪崩が、ロックオン、ティエリア、リエットの三人を飲み込んでいく。
呪文の魔法は失われた古代魔法科学文明の魔法だ。精霊魔法と違う部分は、精霊と契約なしに魔法が使えること。威力は魔力に左右される。
「うわあああああ」
「ぐおおおおおおお」
「くそおおおおおおおおおおお、神よ、祝福あれ。ホーリーシールド!!」
聖なる盾を、雪崩に向けるリエット。
「血よ叫べ、ブラッディハウンド!!」
ロックオンが、ヴァンパイア独自の血の魔法を使う。呼び出された血の狼は巨大に巨大になり、雪崩を逆に飲み込んでいく。
そして、雪崩に埋もれていたティエリアを狼の一匹が背に乗せ、ロックオンの元に戻る。
「うるあああああああああ!神よ、我に祝福あれ!創造の神々の言葉を我は語る。我は神の言葉をこの世界に、汝に刻みつける!ヴェルジュ・ホーリーディルハ!」
神の言葉を、神を信じることで生まれる魔法、神聖魔法。
神聖攻撃魔法を、氷の巨人に向ける。
聖なる言葉の祝福で相手を束縛し、光の破滅を与える魔法。神聖魔法でも禁術にされている魔法の一つ。獅子姫は、禁術の魔法を平気で唱え、使いこなすことでも有名だ。光の破滅は、巨人を包み込んだが、巨人の世界を震撼させるような巨大な咆哮によりかき消された。
「ち、あいつ、魔法に対して耐性を持ってやがる!ききにくい!どうする、ネイ!!」

その時、雪降るコキュートスに一つの光が見えた。
金色の・・・・鷹が、空を旋回しているのだ。その鷹には、よく知った人物が乗っていた。
「刹那!?何故ここに!」
「分からない・・・・いきなり・・・目の前に、女神アルテナだと名乗る女が現れて、この世界に俺を放り込んだ」
「アルテナ・・・・そうか、彼女なら」
創造の3柱神とネイは知り合いだ。
ルシエードとはかつて友であった。ウシャスは母のような存在で、アルテナは姉のような存在であった。ウシャスは神の理に厳しい。ルシエードも。しかし、慈愛の女神ともいわれるアルテナなら、神の領域に侵入したことを知って、自分の手はかせないが、こうして援軍を呼んでくれたのだ。
「刹那、鷹であの氷の巨人の動きを封じてくれ!」
「ここはどこだ!寒いぞ!!」
「いいから、やれ!!」
「くそ」
刹那は旋回する金の鷹を氷の巨人よりも巨大化させ、鷹で攻撃する。
「笑止!ル・アルデ・エル・デルエルルア、我は氷、我は冷たき世界の一部・・・フロストディバエルド!!」
空から、いくつもの氷でできた巨大な槍が降り注いでくる。
「かーみはーー!!!しゅーくふーくをーーー我にーーーあたえたああああああああ!!カウンターマジック!!」
もう半ばやけになったリエットが、魔法を唱えるというより、絶叫して神聖魔法を使う。
魔法は全て、巨人に跳ね返る。
氷のランスでいくつも貫かれながらも、傷一つ負わない。
存在次元が違うのだ。この世界の管理人である巨人に、魔法は通じない。

金色の鷹は、刹那を乗せたまま、鋭い鍵爪で巨人の背を引っ掻く。

「エーテルイーター起動!」
きゅいいいいんん。
ロックオンを中心として、闇が濃くなる。
「くそ、エーテルイーター!神よ、祝福あれ!ホーリーシールド!」
ティエリアを抱き込み、聖なる盾の中にリエットは刹那も巻き込んで、結界を張る。
刹那はホーリーシールドの魔法をうけて鷹から落下した。
ひゅるるるるるるドカーン。すごい音をたてて落下したが、すぐに守りの結界の天蓋が覆う。
「ヒールサンクチュアリ!」
リエットの使う癒しの魔法が、全員を包む。
ロックオンのエーテルイーターまで。
エーテルイーターは闇。神聖魔法と相容れぬ存在。
癒しの奇跡を受けて、エーテルイーターがネイの中で呻いた。
「どうせやるなら派手にやれ!」



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