ハンター協会で、ティエリアにフロストの魔石を渡した神父は、ティエリアを氷結地獄コキュートスへ落とせなかったことを悔やんだ。 「やはり、自分の手で始末すべきか」 ボッと、体中から炎が嵐のようにふきでる。 ブラッドイフリール。 ブラッド帝国に住む、ヴァンパイアの中の亜種、ブラッドイフリール。炎の精霊イフリールの名がついている通り、炎の属性をもち、自分の意思で炎を自在に操ることができる種族だ。 普通はブラッド帝国にある自治区に住んでいるのだが。 「フレイムロードの名にかけて、ネイの血族に死を」 フレイムロードとは、ブラッドイフリールの中でもさらに上位に位置するごく少数の、王族にのみ与えられる称号であった。 ブラッド帝国には、貴族と皇族の他にも王族が存在する。王族は、亜種のヴァンパイアを統べる者たち。エターナルは皇帝に忠誠を誓い、そしてエターナルではない亜種のヴァンパイアたちは自分と同じ種族の王に忠誠を誓うのが、ブラッド帝国の基礎である。その王たちは、ブラッド帝国の現在の皇帝であるメザーリアに絶対的な忠誠を誓っている。 王よりも皇帝は上。その皇帝よりも更に上をいく者が、この血の帝国を建設した血の神でもあるネイだ。民の全てはネイに背いてはならない。なぜなら、エターナルを含めた新人類は、もともとネイのもつ禁忌の力エーテルイーターの食料であるのだから。使徒と呼ばれ、古代の人間に皇帝の地位と神の存在と力全てを与えられたネイは、虐げられていた新人類、食料であるはずのエターナルたちを導き、ブラッド帝国を樹立させた。 人間たちは、エーテルイーターの力でネイが新人類を恐怖によって統治することを望んでいたが、ネイは人類の基盤ともいうべき霊子の力をエーテルイーターで食らい、施設を破壊しつくし、人間を裏切った。創造主を裏切った神、ネイ。 7千年以上もブラッド帝国が栄えるままに、転生を何度も繰り返して今のネイは6代目にあたる。 そのブラッドイフリールは、友からもらった形見を大切に神父の服の下に隠していた。 「教皇」の権限をもつその形見を肌身離さす持っていた。 失った友の名はアルテイジア。両性具有の男性に位置づけられた、代々教皇の名をもつ者が生まれる一族に生まれ、自分の一族だけを教皇になれるようにしたのは初代アルテイジアだ。教皇についた者は皆名をアルテイジアと改め、世襲制であった。教皇アルテイジアは転生をする。転生といっても、血の神のネイや同じ血をひくライルとは違って、教皇の地位となりアルテイジアの血と名をもつようになって、記憶が受け継がれるのだ。代々教皇は中性であった。最後の教皇のアルテイジアは両性具有。ブラッド帝国だけでなく、世界中で中性と両性具有は神の使いとされ、聖職者になる特権を持っている。アルテイジアは、教皇となるまでは、ただの教皇の一族に生まれた両性具有の男性であった。 教皇の権力は皇帝に匹敵する。 亡き先代教皇の甥であった。ロックオンたちに殺された教皇の本当の名はセレニア。アサシンとなることを選んだこのブラッドイフリールが母親から取り上げ、ブラッドイフリールの自治区で育ち、教皇ではなくその補佐となる枢機卿となるべく育てられていた。 王族であるこのブラッドイフリール・・・・フレイムの、親友であり恋人であった。友人は数多くいたが、セレニアほど心を許した存在はいなかった。 優しいセレニア。平和を何より愛し、枢機卿になることを拒否し、ブラッドイフリールの自治区で一生を過ごすと決めていた。でも、教皇の一族として生まれたのがセレニアの不幸のはじまりであった。 フレイムは、王子としていずれはセレニアを血族に迎え、伴侶に迎えるつもりであった。両性具有の男性といっても、女性の機能ももっており、セレニアは男性として生まれながら姫として育てられた。 セレニア。笑顔がよく似合っていた。いつも花をつんでは、自分の部屋に飾ってくれた。 あどけなかったセレニア。 先代教皇が死に、その後継者としてセレニアが選ばれたとき、フレイムは一緒に逃げた。 でも捕まり、セレニアは教皇として帝都に送られた。 フレイムは、セレニアのあとを追ったが、教皇庁であったセレニアはもうセレニアではなかった。 そこにいたのは、教皇アルテイジアとしていきる、元セレニアの魂と人格を持った器。アルテイジアの人格を移植され、記憶までも植えつけられたセレニア。 でも、どこかにセレニアの記憶をもっていた。 フレイムを追放することをせず、しばらくの間一緒に暮らした。フレイムは、枢機卿となることを選んだ。愛したセレニアの傍で、セレニアを守るために。 たとえ名が教皇アルテイジアで、フレイムのことを少しだけしか覚えていなくて、日に日に忘れられていっても。 教皇アルテイジアは、ネイの血族になることを心から望んでいた。 そして、ある時フレイムを自治区に戻し、行動に出る。 アルテイジアの中になったセレニアの心が、愛しい恋人が自分を殺すであろうネイに歯向かい、殺されるのを防ぐためであった。 「ネイ・・・・許さない。神だろうとなんだろうと。俺からたった一つの愛するセレニアを奪ったお前に、同じ思いをさせてやる。愛しい血族の姫王を失って嘆くがいい。セレニア・・・・敵は、必ず打つ」 フレイムは、雨が降る空を見上げて今は亡き・・・邪悪であった教皇として悪名高きアルテイジアのことを思い出す。本当は、そうじゃないんだ。セレニアという、少女の心をもった両性具有だったのだ。なのに、無理やり教皇にさせられ、名も人格まで全て変えられた。記憶まで奪われて。 哀れなセレニア。 その腹に、俺の子を宿したまま・・・・ネイと、その仲間たちに殺された。 ネイなら、その気になればアルテイジアであるセレニアの哀しみに気づくことができたはずなのに。神は、セレニアを助けなかった。助けるどころか殺した。 ならば、俺もネイ、お前から大切なものを全て奪ってやる。 フレイムは、炎の塊となって大気をさき、飛翔する。 その瞳から、涙を流しながら。 時折セレニアに戻ったアルテイジアは、お腹の子が生まれたら退位して、次の一族の者に教皇を譲るはずであった。そうすれば、セレニアは教皇という悪夢から解放され、元のセレニアに戻ることができる。喜んでいた矢先の出来事だった。 灰となったセレニアと我が子を握り締めながら、フレイムは絶叫した。 「許さない・・・ネイとネイの姫王、それにその仲間たち・・・絶対に、殺してやる」 ロックオンが見えないところで、復讐の幕はあき、フレイムはアサシンとなってティエリアを狙う。 NEXT |