刹那とリジェネに使い魔を送り、ティエリアが攫われたことを知らせると、すぐに合流してくれた。 白い狼に乗ったロックオン。フェンリルは空を走り続ける。 金色の鷹に乗った刹那と、新しく契約したワイバーンに乗ったリジェネがその後を続いて飛行する。 ティエリアの気配は、ティエル王国の隣にあるツェイレン共和国の大草原のあたりで止まった。 そこに向かって、ひたすた飛行する。 「傍にいたんだろう、ロックオン!むざむざティエリアを攫われるなんてなんてざまだ」 「ティエリアに何かあったら、許さないからね!」 二人とも、仲間を心配している。 ティエリアは大切な仲間であり、友人である。 「俺の結界がティエリアを守っている。傷つけることはできないはずだ」 「油断はできない」 「そうだよ。相手はアサシンなんだろう。どんな手を使うか分からない」 飛翔し続ける三人は、風と一体化したかのように軽やかだ。 一方、攫われたティエリアはツェイレン共和国の大草原におろされた。 「目をあけろ」 泉の水をくんできたフレイムは、それを水筒ごとぼとぼとと中身を逆さにしてティエリアにかけた。 「う・・・・・」 ティエリアは、ゆっくりと目をあける。 大草原の真ん中。 揺れる緑と花たちを見て、それから我に帰って神父の服をきたフレイムを睨みつけた。 「アサシン!僕に、なんのようだ」 「ばかか。アサシンが用があるとすれば暗殺。お前を殺すことしか、俺の脳にはない」 「血と聖水の名において、アーメン」 ティエリアは起き上がると飛び退る。 銀のダガーはないが、腰の2丁の拳銃とビームサーベルは常に身につけているため、ティエリアは両手で銃を 構えるとフレイムに向かって、放つ。 発砲音が、草原を流れる風と一緒になって消えていく。 銀の弾丸は、着弾する前にフレイムの身を包む炎によってドロリと溶けてしまった。 「通じない。俺に、ヴァンパイアハンターの銀など」 「ブラッドイフリール!!」 「そう。俺はブラッドイフリールのフレイム。フレイムロード、王族だ。王の第3番目の子、フレイム・ラ・フレイムロード。セレニアを、俺の恋人を・・・・ネイ、そして正妃であるティエリア、お前たちが奪った」 「セレニア?誰?」 「教皇アルテイジア」 「アルテイジア!?なぜ、あんな者の味方をする!」 「黙れ!何もしらないくせに!セレニアは、教皇になるまでセレニアであって、アルテイジアの記憶も名も何ももっていないただの教皇一族に生まれた者だった!俺たちは恋人だった。セレニアは両性具有。男性としての地位を持っていたが、女性として生きていた。セレニアのお腹には俺の子がいた。教皇が誰かと交わることは禁忌。まして子を孕むなど。セレニアは、出産したら教皇を退位させられることが決まっていた。そして、俺が永遠の愛の血族にして、ブラッドイフリールたちが住む自治区で、共に生活することを決めていたんだ。それを・・・・お前たちが壊した!セレニアと子を殺した!!」 ごうっと、フレイムの全身を高温の炎が包む。 周囲の草が熱気であてられ、次々としおれていく。 「もう、アルテイジアは・・・セレニアはいない。この世界に。お前たちが殺して灰にした!」 ティエリアは、涙を零して咆哮するフレイムに、沈痛な面差しになる。 「ネイは・・・・神は、セレニアを助けてくれなかった。助けるどころか殺した。許さない。ネイも、その仲間も血族であるお前も全て!!」 フレイムは、渦巻く炎でティエリアを生きながら焼こうとした。だが、ネイがはった結界が、炎を弾いた。 「結界だと・・・ネイめ。愛しい者にはこうして・・・そしてどうでもいい者は」 ギリっと、歯軋りする音が聞こえる。 ティエリアは、バサリと背中の白い6枚の、ネイの血族の証である翼を広げると、自分からネイの結界を消した。 「何?」 「ごめんなさい。ただ、そうとしかいえない。ロックオンは、ネイは万能じゃない。神といっても、できることは限られている。人に近いんだ。アルテイジアの裏に、あの狂った教皇にそんな事実があったなんて。僕が、ロックオンの分まで罰を受けるから、許して。さぁ、その業火で燃やすといい」 フレイムは目を見開いた。 このネイの血族はなんて美しいのだろうか。 姿だけでなく、心まで。セレニアも美しかった。こんな風に。 透明で。 そこに、セレニアがいた。 セレニアが、微笑んでいた。フレイムに向かって。 「フレイム・・・・愛しているわ」 ネイの血族は、不思議な力を宿す。セレニアが、ティエリアに宿っているように見えた。 「セレ・・・・ニア・・・・」 フレイムは、気づくとティエリアを燃える炎をまとったまま抱きしめていた。 「罰は受けるよ・・・あなたの分まで、ロックオン」 炎に焼かれながら、ティエリアは微笑みを絶やすことはなかった。 「フレイム、泣かないで」 炎に蒸発していく涙をみて、ティエリアが涙を零す。 その炎は、ティエリアを傷つけることはなかった。 ただ、燃え盛る。どこまでも紅く紅く。 NEXT |