荷物をまとめたロックオンとティエリアは、フェンリルを入れて皇帝が用意してくれたチケットを手に列に並ぶ。 ロックオンは大きな、人一人が入れそうなトランクを持っていた。 中には刹那が入っている。 聖都にいた聖女マリナが帰国し、新しい教皇の一派の中にいるというのだ。 真相を確かめたいと、刹那が自ら名乗りをあげた。 チケッチは2枚しかない。密航という形をとらざる得なかった。 密航は重罪だ。ばれれば終身刑。だが、ネイの知り合いであれば、ばれても解放されるだろう。だからといって、チケットもなしに堂々というわけにもいかず、狭いトランクの中に押し込められる形で刹那は息を潜めている。 やがて飛行船が到着し、搭乗していく人々。ティエリアとロックオンは、スィートルームに通される。トランクをあけると、刹那が転がり出てきた。何時間もその姿勢でいたせいで、体がかちこちになっていた。 「にゃあ、人間ボールだにゃ」 刹那で遊ぶフェンリル。 「いたい。くそ、もっと違う方法を選べばよかった」 立ち上がって、刹那は関節を鳴らして体を伸ばす。 「どういう?」 ためにしロックオンが聞いてみた。入れられた紅茶を飲みながら、ロックオンは刹那なら飛行船をのっとりかねないと、無理やりトランクに押し込んだ張本人だ。 「飛行船をのっとるとか」 ほらやっぱり。 「それだと重罪だ。いくら俺でも庇いきれねぇよ」 「じゃあ、こっそり鷹で近づいて、看板に降りる」 「飛行船の周囲はバリアが張り巡らされている。途中で搭乗はできねぇ」 「ち・・・・」 「ちゃんと忍び込めたんだからいいだろう」 「お前、ネイならもっと顔がきくんじゃないのか。使えない男め」 「あのなぁ。おれはドラえもんじゃないんだぜ。ネイっていっても、ここでの扱いは一般の貴族と変わらない。帝国に入るまでは、俺はただの皇帝の客人で、ネイとしての権力はない。帝国に入って、はじめてネイとして、固定よりも上の地位に立つ者となる」 「鎖国を解いたといっても、行き来できるのは飛行船が船のみ。確かに飛行船で1ヶ月から1週間に旅にかかる時間は縮小されたけれど、他に交通手段はありませんから。帝国にはフレアがある。あの天蓋は、決められた交通手段をもたない者の浸入を拒み、帝国を守っている。帝国が人間に攻められぬのも、フレアがあるせいです・・・フレア、帝国を守る血の神の結界」 日にちがたつにつれて、薄っすら見えていた帝国をおおうフレアの真紅の天蓋が、より鮮明に見えるようになってきた。 刹那は部屋に軟禁状態。外にはでれない。なので、退屈そうだが密航者なのだから仕方ない。 チケットを持つ、皇帝の友人、皇帝に招かれたロックオンとティエリアは飛行船内のレストランで食事をしたり、カジノで遊んだり、まぁ旅のいきぬきをしていた。 ちなみに精霊であるフェンリルはチケットなしでもOK。主が連れ歩いているので、ペットではなく、主の所属物、つまりは扱いは荷物だ。でも、生きているので自由に行動ができる荷物。 刹那より扱いはフェンリルのほうが上。 他の貴族のエターナルに可愛がられ、食べ物をもらったり宝石がついた首輪をしてもらったり、まぁ贅沢三昧だ。その頃刹那はかたいパンとまずいスープで食事だ。食事を室内にもってきてもらっても、刹那は施しを受けない。自分が用意したものだけですます。ここらへんは、鷹の刹那と呼ばれる者の意地もある。孤高なる鷹として有名な刹那は、他人に施しをもらうのを嫌う。 そんなところを、聖女マリナは好きなのだそうだ。 自分のことは自分の力ですませ、そして余力で他人を救う。 刹那には、もしかしたら聖職者のほうが向いているのかもしれない。ヴァンパイアハンターよりも。いっそのこと、神父も兼業したらどうかと思うのだが、刹那はよりたくさんのヴァンパイアを退治することしか頭にないので、神父など考えもしないだろう。 たくさんの人を襲う、共存しないヴァンパイアを駆逐することが、世界のために、平和のためになるというのが刹那の信念でもあった。 「見て・・・・フレアが泣いてる」 帝国を見下ろす双子の月の月光を受けて、フレアが聖なる光を放って星屑のようにいくつもの光を放つ。 「あの双子月・・・・ロックオンとライルのようですね」 「あー。あれは・・・・この帝国にしかない月だ。創造の女神アルテナが作ってくれた」 「へぇ」 帝国建設にはいろいろと物語がある。そこには、創造の3柱神ルシエード、アルテナ、ウシャスもいた。 新しい人類の、来世にまで残る、何千年も繁栄するであろう帝国の基盤を作るには、ネイの力だけではたりなかった。土地を豊かにしたり、何もない荒野に河や湖をつくり山や森を・・・。創造の神々は、月と太陽さえつくった。このブラッド帝国は異郷。 荒野のみしか存在しない。 そこに人が住めるたくさんの要素を作り出し、共存するために人間を、新しく作り出した。数少ないエターナルたちを数を作り出して増やし、亜種さえも作り出した。そう、ネイと共同で。 ブラッド帝国は自然にできた国ではない。ネイと、創造神たちがまさしく創造したのだ。 人間世界とは完全に異なった世界として。 創造の神々にとって、ネイのブラッド帝国は実験の場でもあった。新しい新人類が、人間の血を糧に生きる。共存していけるのかどうか。戦争になっても、神々は黙認する。 その勝者となった者を、ただ静かに見守り、この世界とは違う世界の創造した後の歴史の流れの基礎として、ブラッド帝国を見る神々。 創造の3柱神は、この世界だけの神ではない。いくつかの世界の創造神をかねている。 ブラッド帝国は、神々の思惑とおり、平和に共存を続けている。 そこに、もう創造の神々の介入はない。ネイも、本来は介入してはいけない。何があっても。でも、ネイはネイとして生きながら、血の神ではなく一人の皇帝として国を支配し、表の皇帝の上に立つのだ。 NEXT |